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第141話 初手フレンドリーファイア

 先生の開始の合図と共に、俺達の目の前が大きく歪む。

 そして次の瞬間には集合場所の人工浮島(ラグーン)を見下ろす位置の空に転送されていた。

 他ギルドの飛空艇も同様で、それぞれが一定間隔で点在するようにワープさせられたようである。

 見渡すと人工浮島(ラグーン)とその周囲の空域を包み込むような広大な結界が出現しており、これがバトルフィールドの範囲という事だな。


 ピーチサンダー号に乗り込んだ俺達は、全員操舵室にいた。

 操舵室に入らないと前田さんがニトロでぶっ飛ばすから振り落とされて死ぬしな。

 そうなったらポイントはどうなるのかねー。

 確かプレイヤーを撃破すると1ポイント、ココール達英雄候補のNPCを撃破すると5ポイントだ。

 逆に撃破された場合は、同ポイント分マイナスを喰らうんだったな。

 で、制限時間が終わった時にポイント上位の四位までが最終決戦に――だ。


 ポイント増減の幅が大きい英雄候補NPCは優先的に狙うべきだし、敵も狙ってくるだろう。その中で、俺達としてはココールの力は温存して乗り切りたい。

 本体が弱い事はバレないように――だ。

 それにゴールデンイエロー・スウィーツで呼び出すために雇ってあるモンスターの数は現在6。その中には切り札のデッドリー・キングさんもいる。

 ただし、呼び出しは一度きりの傭兵契約だから軽々しく使うわけには行かない。

 このバトルロイヤルでは仲間に出来るモンスターなど出てこないだろうし、補充が効かない。6体のモンスターで最後まで乗り切る必要があるのだ。

 最終決戦ではよりNPCの力が重要になってくるだろうし、ここは俺達でココールを護りつつ決勝に連れて行く。


 それから、あきらのソードダンサー衣装は参観に来ているあきらの家の人には見られないように立ち回るべし。有馬さんだっけな。

 これはあきら自身が気を付けてはくれるだろうが『ミミックファン』の擬態を常時維持して戦いを切り抜ける必要がある。

 俺がソードダンサー勧めたのもあるし、こんなつまらんことでマイベストフレンドが退学とかシャレにならんからな。ここは絶対守るべし!


「もう動いていいのよね! ね!? 早速仕掛けるわよ! いいわよね!?」


 ギラァ! と目を輝かせて前田さんが言う。

 他ギルドの動きを観察してみたかった気もするが、前田さんがおやつをおあずけされた犬みたいになっているので、こちらから仕掛けるしかないか――!


「ああ――行こうぜ!」

「じゃあ――行くわよ!」


 がっちょん!

 前田さんが舵輪のレバーを引っ張ってニトロを発動!

 ピーチサンダー号は近くの敵船に向かって、猛然と空を駆ける。

 前田さんが初手でニトロ発動させるのは、全員が予想できていた。

 それぞれ手摺に掴まって衝撃に備えたため、誰も転んだりはしなかった。


「目の前に船! どこのギルドか知らないけど、ドリルで突っ込むわね!」

「い、いきなり体当たりですの!? そ、それは特攻で最後の手段では!?」


 赤羽さんがびっくりしている。

 まあ赤羽さんはチーム違うはずだったから、ピーチサンダー号の本番用のセッティングは知らないからな。


「いや、ドリルしか武器ねえんだ! 他全部ニトロだから!」

「えぇ!? 大砲とか積まないんですの!?」

「金は別の事に使ったからなぁ――これしか用意できんかった!」

「私は大丈夫よ! 性能が尖っていた方が楽しいもの! フフフ……フフフフフ!」

「こ、怖いですわ! 本当あなたってハンドルを握ると性格が変わりますのね……!」


 と、赤羽さんがちょっと引いていた。

 しかし前田さんはまるっきり気にしていない。


「さぁ当たるわ衝撃に備えよーっ! 突撃いぃぃ!」


 ドガシャアアアァァァッ!


 ピーチサンダー号は敵船の土手っ腹に高速で突っ込み、ゴールデンドリルが文字通り風穴をあけた。

 向こうの被害の方が無論大きいのだが、ニトロを乗せたドリルアタックによりこっちにもかなりの衝撃が来た。

 そのせいか――


 蓮は250のダメージを受けた!

 あきらは250のダメージを受けた!

 琴美は250のダメージを受けた!

 優奈は250のダメージを受けた!

 希美250のダメージを受けた!

 ココールは250のダメージを受けた!


 うぬ……! 衝撃で全員にダメージが来るのか――

 まあ俺達はもうHP2000台とかになってるので大して痛くはない。

 だが――


「コケ~……ぴよぴよ~ぴよぴよ~コケ~……」


 うわ! ココールがピヨってる!

 ココールはHP少ないからなー……何回もやってたら普通に死ぬぞこれ!


「ココールくん大丈夫っ!?」


 あきらが慌てて回復を飛ばしていた。


「あ、ありがとコケ~! しかし痛かったコケ~!」

「一撃死しなければ、毎回回復を挟めば問題ないわよね!」

「ひいいぃぃぃっ!? コケ~!」

「うわぁことみースパルタですし!」

「高代くんほど無茶はしていないわ」

「むぅ――! 反論に困るな!」

「ま、蓮くんは反論できないよね~。でも大丈夫だよちゃんと回復入れるから」

「そうそうあたしも回復ありますし、結構無駄に回復手段豊富ですしこのパーティ」


 まあ俺とココール以外全員回復手段持ちなんだよな。


「じゃあ気にせずに行くわよ!」


 と、前田さんが再びニトロドリルアタックを繰り出すべく舵を切ろうとした――

 のだが、土手っ腹に風穴の開いた敵の飛空艇の操舵室から甲板に人が出て来た。

 そして、力一杯こっちに罵声を飛ばしてくるのだった。


「コラーーーーーッ! 何て事すんのよ君達はああああぁぁぁーーー!」


 あ、ほむら先輩だ……

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