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第13話 アイアン・ジェミニ

 それから二日後。

 俺達は八層ボスの手前まで攻略を進めていた。

 前田さんや矢野さんが進めているクラスの本隊は、九層攻略中らしい。

 もうちょっとで追いつけるな。というわけで八層ボス戦だ。

 俺達は上に行く回廊と共に、守ってるボスを発見した。だけど問題が一つ。


「あ、ボス二体のパターンもあるのか」

「初めてのパターンだね」


 アイアン・ジェミニという王冠付きネームのフロアボスが二体。

 上層への回廊を起動する魔法陣を守って鎮座していた。

 見た目は鉄で出来たでかいゴーレム。レベルは両方18だ。

 対する俺達は両方レベル17になっていた。


「一体だけなら『デッドエンド』で一撃必殺はい終了。でよかったけどなー」


 ここまでのフロアは全部それでごり押しだった。

 一撃大ダメージ特化型の俺の紋章術師は、敵が一体なら鬼のように強い。

 逆にレベル上げでよくやる移動狩りだと、パーティは常に戦闘中。

 一戦闘に一回しか撃てない暗器のアーツやそれを組み込んだ『デッドエンド』は一発で打ち止めになり、微妙と言われる支援能力のみが残ってしまう。

 ダメなときはとことんダメ、輝くときはとことん輝く。だがそれがいい。

 これを活かすも殺すも俺次第だから楽しい。これがロマンってやつだ。


「今回も一体は蓮くんが『デッドエンド』で瞬殺って考えていいよね?」

「ってかできないと死ぬよな」

「じゃあそこはオーケーとして。もう一体は……わたしがタイマンで五分持たせればもう一回奥義で――あ、だめかあ一戦闘に一回なんだっけ?」

「基本そうだな。支援は打つけど、もう一体はあきらに頑張ってもらう感じで」

「そうなるよねえ。まあやってみよっか。ダメならその時また考えよ!」


 という事で俺とあきらは騎竜から降りた。

 レンタル騎竜はありがとうございましたとでも言いたげに一声鳴くと、街の方に向かって帰っていった。

 一回降りると帰っちゃうんだよなー。マイ騎竜が欲しいわー。


「よ、よーし……準備完了! いつでも行けるよ!」


 学生服からバトル用のソードダンサー装備に着替えたあきら。

 七層で新装備を仕入れたもののやはり肌色成分は相変わらずで、恥ずかしそうだった。


「おお……相変わらずな肌色度ですなあ。ありがたやありがたや」

「もう、拝まなくていいから! わたしを見てないで敵見て!」

「へいへーい。んじゃあきらが遠距離から一体集中攻撃しようぜ。二体来るだろうけど、無事な方を俺が潰す。あとは支援に回るわ」

「おっけー」


 『スカイフォール』の衝撃波の射程ギリギリまで、俺達はエリアボスに接近する。

 まだ、向こうの感知外のようだ。先制攻撃できる。


「じゃあ、やるね!」

「ばっちこい!」


 俺が頷くと、あきらは『スカイフォール』を抜き、振りかぶる。


「いっけえぇっ!」


 剣先が地面を叩くと、そこから吹き上がるような衝撃波が生まれる。

 HPがフルの時限定になるが、飛空艇襲撃イベントで見たボスの攻撃と全く同じだ。

 地走りする衝撃波はアイアン・ジェミニの一体に直撃。

 攻撃を受けたボス二体は、こちらを感知して突進してくる。


 間合いが詰まるまでの間、あきらは更に剣の衝撃波を連打。

 片方のHPを二、三割は削った。この能力は凄まじく便利だ。さすがの激レア武器。

 ボス達は最接近してくると、二体同時にあきらに鉄の拳を繰り出す。


 あきらも上手く反応して武器ガードする。

 しかしガード削りによるダメージが確実に発生していた。

 このままでは押し切られる。そこで俺の出番だ。


「蓮くんお願い!」

「おう任されたぁ! さぁ震えるがいい――この俺の長打力になあぁぁっ!」


 俺はHP満タンのボスに杖の先をびしりと向ける。『ディストラサークル』詠唱開始。


「わぁ! いいビッグマウスだねー!」


 面白がっているあきらをよそに円陣発動。例のごとく範囲拡大でMPが空に。

 ――準備完了!


「奥義! 『デッドエンド』おぉぉっ!」


 ズバアアアァァァッ!


 凶悪な光に包まれた一閃。ボスのHPバーがガクンと減って――

 ちょっと残った。


「うげ!? 残った!?」


 こうなると俺の残りHPは1。武器は消滅して丸腰。

 これは、やばいな――!

 アイアン・ジェミニは奥義の威力に押し込まれ、仰け反っている。

 今のうちに回復ポーションを使うか?


 しかし、ポーション類は発動前のキャストタイムが長い。

 だから自分がタゲを取り、HPがギリギリの状況では使いにくい。

 発動前に殴られて死ぬ可能性が高いから。

 キャストタイム短縮には『薬品知識』とかのタレントがいる。

 勿論、そんなもの持っていない。


 ここは敵の硬直が長く続くことを見込んでのお祈りポーションもありだけど――

 やはり不確かだ。

 あきらなら俺のHPは見てくれているはず。

 ここはあきらを信頼して少しでも時間稼ぎのために退避を――


 と、考えているうちに、早くも俺のHPは回復していた。


「蓮くん粘って!」


 あきらからの『ヒールステップ』が発動していたのである。

 ソードダンサーのスキルだ。その名の通りの回復効果。消費AP(アーツポイント)は30。

 ちなみにステップ踏みつつ、くるんと回って一回転するモーションが可愛らしい。


 流石にあきらは反応が早いな――!

 回復が欲しいと思った時にはもう飛んできているのである。

 俺に回復を飛ばしたあきらは、すかさずHP残り僅かな方のボスにダッシュする。


 直後、ボスは硬直から脱し俺に向け踏み込んでくる。

 俺も飛び退いてはいたが、こちらの飛び退くモーションより向こうが突っ込んでくる速度のほうが早い。


 このゲームは飛び退いたりする回避のモーションは現実のものに近い。

 逆に攻撃側は半自動(セミオート)モーションで、敵への追尾補正が強めだ。

 だから予備動作や隙の大きい一部の攻撃は見て回避可能なものの、追尾補正が強めなものは見てから回避しようとしても基本的に当たる。

 そういうモーションは逆にガードブレイク性能は低めだから、ガードするのがいい。

 基本はガード。避けられるものは避ける。と考えておけばいい。


 こちらを追尾しつつ繰り出すショートレンジのパンチは、回避が難しいと判断した。


 アイアン・ジェミニの攻撃、蓮はガード。20のダメージ!


 続いてもう二発ボスの攻撃をガードし、HPが一桁に――

 そこで駆け込んできたあきらのアーツが発動した。


「『ホークストライク』!」


 勢いよく飛びあがり、敵の頭上を体重を乗せた突きで穿つアーツだ。

 それが見事にヒット。残りわずかだったボスのHPを削り切る。

 絶妙なフォローだった。


「おお助かった! サンキュー!」

「うん!」


 あきらはにっこり笑うともう一体の方に集中する。

 あきらが上手いのも勿論だが、タレントの『闘神の息吹』がまたデカい。

 これのおかげで、AP(アーツポイント)は満タンの300からバトルスタートになる。

 だから回復を飛ばし、アーツでボスの後始末って即対応が可能になっていた。


 そして持っている武器『スカイフォール』。これがまた素晴らしい。

 あきらは自分自身に『ヒールステップ』を撃ちながら、HP満タンをできるだけ維持して攻撃を続けていた。

 HP満タンで衝撃波が出るから、通常の武器攻撃に加えて衝撃波が二段ヒットする。

 つまり、ダメージが二倍になっているのだ。

 HP満タンが条件だから一発貰うごとに回復だけど、貰う頻度もだんだん減っていく。

 あきらが敵のモーションに慣れてきたからだ。

 避け辛いショートレンジのパンチはガード。

 両拳を組み合わせ、頭上から叩き付ける打撃は隙が大きいので回避。

 これを全くミスらない。

 俺は一緒に散々ゲームしてきたから知っている。

 単なる絶景マニアのエンジョイ勢では決してなくて、アクション系はめっちゃ上手い。

 さすがはマイベストフレンド。実に頼れる存在である。

 俺は支援のためのサークルを数種展開しながら、戦況を見つめた。

 あきらがHP維持に使うAP(アーツポイント)と、攻撃による獲得AP(アーツポイント)が完全に均等になり始めた。

 いやむしろ少し獲得AP(アーツポイント)が上回っているか? このままいけば削り切れるか。


 本当ならばフロアボスは6~10人程度で倒す相手だ。

 それを一人で削り切ってしまいそうなのだから凄い。

 そうこうするうちにボスのHPが五割に達する。四割――三割――いけるか?

 しかしここで、ボスが見たことのない構えを取った。俺のログにはこう出る。


 アイアン・ジェミニはブラスター・ナックルの構え!


 ボスのアーツだった。

 思い切り拳を突き出してパンチすると、拳が射出されて飛び出した!

 しかもパンチを避けて横に飛んでいたあきらを追いかける誘導弾だった。


「うわっ!? きゃああああっ!?」


 虚を突かれたあきらは、モロにそれを受ける。

 ダメージがかなりデカい。七割くらい持っていかれている。

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