第137話 NPCも保護者参観
嬉しそうに船首のゴールデンドリルを指差していた前田さんが、こちらの存在に気が付いたようで、声をかけてくる。
「高代くん、おはよう」
「おっす前田さん。後で思う存分ドリルで暴れてくれよ」
「ええ任せて! せっかく合成してくれたパーツだもの、絶対役に立てて見せるわ!」
気合入ってるなあ。
艦隊戦を一番楽しみにしてたのは、多分前田さんだったろうな。
思う存分飛空艇でぶっ飛ばしまくれるわけだし。
俺がゴールデンドリルを合成してる時も、それはもう嬉しそうにしてた。
艦隊戦となるとニトロのみじゃ攻撃手段に乏しいので、攻撃パーツも欲しい所にこれを作れる素材が揃ってたのはありがたかったな。
しかも船首衝角の攻撃パーツでは最上級っぽいし。ゴールデンバニー様様だ。
俺達の作戦は、ニトロの加速を活かしたドリル突撃殺法で暴れてやろうという事だ。
間違えてほむら先輩の所と赤羽さんの所を攻撃しないように注意はしなければならないが。
ほむら先輩達とは同盟の約束してるし、赤羽さん達とはわざわざ敵対しなくてもいいし。
というか、赤羽さんの所に関しては、余り近寄りたくないしな……
いや、赤羽さんだけならいいが、本番になればヤツが出てくるわけで。
NPCのセルフィもあんなだし……親の前であっちの奴等とは絡めんぞ。恥ずかしい。
「これがアンタのチームの飛行機かいな!? なんちゅう色遣いしてんねや、これどうせアンタがやらかしたんやろ!?」
「ち、違いますし! 塗ったのはあたしだけど、色決めたのはことみ~がぁ……!」
「ホンマかいな!? その子あれやろ、中学で成績トップやった子やろ? アンタならいざ知らず――」
「別に悪かないですし、可愛いですし」
「いやいやケバいでこんなん。悪趣味なデコトラかぺー〇ー師匠かいな……」
何て言い合いながら、矢野さんと少々恰幅のいいおばちゃんって感じの人が甲板に乗り込んで来た。
この人矢野さんのお母さんか――!? 親が関西人なんだなー矢野さんは。
こちらに気が付くと、矢野さんはひょいっと手を挙げて挨拶をする。
「ことみー。高代。ココール。おはよ~ですし」
いつもの軽い感じだが、それを見た矢野さんのお母さんが後ろから頭をぐりぐり押さえつけた。
「コラ! ちゃんと挨拶せんかいな。どうもこんにちは、いっっつもウチの子が迷惑かけてるみたいで――お世話になってます」
俺達と、それから俺達の両親にも頭を下げて挨拶する。
きっちりしてるというか、愛想のいい人だなー。
家は美容院なんだっけか? 店やってる人特有の社交性というか、そんな感じがする。
「痛い痛い! も~小学生じゃないんですし!」
「知能レベルは小学生に毛が生えた程度やけどな!」
「うっさいなあ、成績は上がってますし!」
と、うちの母さんがそれに反応していた。
「ああ、うちの蓮ちゃんも成績上がってましたねえ。ゲーム三昧で成績が上がるなんて半信半疑だったんですけど、本当だったんですね」
まあMEPをニンジンにされればゲーマーは頑張るからな。
今回も勉強で結果を残したからピーチサンダー号もゲットできたし、ニトロチャージャーもガン積み出来たわけだ。
そこから『空の裂け目』でのゴールデンバニー祭りに繋がってるし、つまるところ勉強を頑張った結果がゲームにモロに出てきたのだ。
今後も勉強は必要だろうなー。まだまだ欲しいタレントも装備もアイテムもありまくるからな。
「そや。お宅らのお子さんがうちの子の勉強見てくれたらしいやないですか、ホンマにどうも」
「いえいえ、本人も普段よりやりがいがあって楽しかったと言っていましたので――」
と、前田さんのお父さんが答えていた。
何か親同士の世間話の輪が出来始めてるなーと。
ただ目の前で自分達の話されてると落ち着かないな――
「そういや、あきらはまだなのか」
「そうね。もうあまり時間もないけど――」
「保護者参観に怯えてたっぽいし、気が乗らないんじゃない? あっきーも大変ですし」
「そうだなぁ。ちょっと見てくるか」
俺達は甲板から桟橋に降りて、周囲を見渡す。
まだあきらの姿は見えなかった。
だが俺達の姿を見つけ、声をかけてくる者がいた。
「コケ! いたいたコケ! おぉお~~~い! ココール!」
ココールを一回り大きくし、付け髭をくっつけたような見た目のコケ族だった。
「!? 父ちゃんコケ!?」
隣にはトサカの無いココールみたいなコケ族の恐らく女性がいる。
更にはその二人? 二羽?
それにくっついて、まだ小さな子供のコケ族が一、二、三、四――
その子達は小さな子供のコケ族なので、つまり――ニワトリではなくヒヨコだった。
「「「「にいちゃーん! 久しぶりピヨ~!」」」」
ココールの弟達かな? ピヨピヨ言いながらココールに抱き着いている。
「か、可愛いいですし――!」
「うわあぁぁ……本当ね! ココールの弟なの?」
「そうだコケよ~! みんなちょっと見ないうちに大きくなったコケー」
いやしかし、これはマジで可愛いぞ。
男の俺ですらちょっと抱っこさせて欲しくなるんだが――
「きゅ~! ぴよぴよ~!」
俺の頭に乗っていたリューが、ココールの弟達と戯れに行った。
かぷっと甘噛みしようとするのだが――
「「「「ぎゃ~! 喰われるピヨ~~~!」」」」
ピヨピヨ達はビビッて蜘蛛の子を散らしたように逃げてしまう。
どうもドラゴンが子供とはいえ怖いらしい。
リューはリューで可愛いんだけどな。
「きゅ~? おにごっこ? おにごっこー!」
鬼ごっこが始まったと思ったらしいリューがピヨピヨ達を追いかけ始めた。
「「「「ピヨーーーーー!?」」」」
ますます混乱している。
しかしその様子もまた可愛いな。ひよこは可愛いなひよこは。
「ほら、リュー。怖がってるから止めとけよ」
俺はリューを止めて、抱っこした。
「そうか、今日は俺達だけじゃなくココールも保護者参観なんだな」
「そうだったみたいコケなー。おいらも知らなかったコケ」
と言うココールは、久しぶりに家族の顔を見れて嬉しそうだった。




