第136話 保護者参観
さぁてやって参りました、ギルド対抗ミッション最終バトルロイヤルWith保護者参観当日!
集合場所は浮遊都市ティルーナ近海に設置された人工浮島。
そこに全ギルド分の飛空艇を係留できる桟橋が用意されていた。
更に人工浮島には保護者参観用の観客席とモニターが用意されていた。
俺は両親と一緒に、桟橋に停泊しているピーチサンダー号を見に行っていた。
試合開始までは、好きに見学していいそうなので。
他のギルドの方でもログインした保護者参観の人達が桟橋まで見学に来ていて、結構賑やかだった。
「うわあぁ~~これは目立つわねえ。こんなに派手な色なら、探すのが楽でいいわぁ」
と、うちの母さんがピーチサンダー号を見て言った。
高代麗華。三十七歳。見た目年齢は二十代後半くらいか?
下手すりゃ二十代前半もあるか? 美魔女ってやつですかね。
結構若く見られることが多い。ちなみに職業は作家である。
このユルい口調の通り、ふんわりした天然系に思われるが、実際はやる事が豪快だしなかなか油断のならない性格をしている。
腹黒ってわけじゃないんだが、間違いなく計算高いし頭の回転は速いと思う。
じゃないと作家先生なんてやってられんだろうし――
「しかし凄いわねぇ最新のゲームって。まるでもう一つの別世界……仕事がなければ私が入学したいくらいねぇ~。いい取材になりそう~」
「せめて俺が卒業してからにしてくれよ、母さん。恥ずかしいから!」
「冗談よお、冗談。母さん、蓮ちゃんの邪魔はしませんよぉ」
いや、結構何言いだすかわからんからなー、母さんは。
いつか本気で入学するとか言い出しそうで怖い。
「どうだい蓮、勝てそうかい?」
と、親父が俺に聞いてくる。
「ああ。しっかり検証も準備もしたし、けっこう優勝候補だと思う!」
「頑張ってねぇ。勝負事は勝ってこそだからぁ、どんな手を使ってでも勝つのよ~。勝てば全てが許されるのが世の中だからぁ。勝てば官軍よ~」
「いや母さん、その言い草は教育的にどうなんだよ」
出たよ、やんわりと過激なこと言ってくるからなあ、母さんは。
「大丈夫よお、蓮ちゃんはしっかりしてるからぁ。お母さんの自慢の息子ねぇ」
「はいはい。まあ母さんの期待に応えられるように頑張るぜ」
と、ピーチサンダー号の甲板からココールが顔を出して俺に挨拶してきた。
「蓮! おはようだコケ~!」
「よぉ、ココール! いよいよ本番だなー」
「よく眠れたコケか? おいらはキンチョーしてちょっと寝不足コケ~」
「いやー俺も色々データ解析とかしてたから寝不足だわ。まあいつもの事だけどな」
「平常運転だコケな~。蓮は肝が据わってるコケ~」
と、ココールを見た親父が感心したように呟く。
「この子が蓮のチームのNPCかい? すごいAIのクオリティだな……まるで生きてるみたいだ」
「親父の会社も開発に絡んでるんじゃないのか?」
「いや、うちはVRのモーション回りだから、そっちに関してはノータッチなんだ」
親父はもう一度、凄いなあと唸っていた。
まあ確かに普通に人格があるようにしか見えんからなーココール達は。
「かわい~! から〇げクンのニワトリみたいねぇ。うふふふふ」
「コケーっ!? おいらを喰おうとしてるコケか!?」
「いや冗談だ冗談。母さんは冗談が好きだからな――多分。それよりあきら達は?」
「あきらと優奈はまだだコケ~。琴美ならあそこに――」
と、操舵室を見る。
ああ確かに前田さんがいた――!
スーツ姿の真面目そうなご夫妻が。
確か両親二人とも学者なんだよな。つまり大学教授ってわけだ。
なるほど如何にもって感じの雰囲気だなー。
で、そのかちっとした親御さんに対し、前田さんはキラキラ目を輝かせて何かを説明しているようだった。
ああ、その舵輪のレバーはニトロだよね。ニトロの説明してるのか。いつもの悪いクセが出てるなー……
だが、聞いている親御さんはちょっと苦笑いしつつも何か嬉しそうでもある。
前田さん普段はクール系だからな。あんなにテンション上がるのは親御さんにも新鮮なのかも知れない。
俺達は桟橋からピンクサンダー号の甲板に乗り込む。
すると、前田さん達が操舵室から出てきた。
「それでね、今回のバトルロイヤルのために用意した切り札が船首に取り付けてあるの」
キラキラした目のまま、船首を指差す。
ああ、俺達の新パーツの事も説明してるのな。
今回のバトルに当たり、赤羽さんのギルドは貸し出し用の飛空艇を使うのだが、それにも拡張パーツは搭載できる。
なので、赤羽さんに出してもらった分の拡張パーツのニトロチャージャーは向こうに返却している。具体的には二個ほど返しているので、その分枠が開いたのだ。
そして――その空いた拡張パーツスロットに搭載したのが前田さんの言っている物だ。
ゴールデンバニー祭りでいくつかゲットしたレア素材『バニーゴールド』をつぎ込んだ黄金の鉄の塊!
そう、俺達のピーチサンダー号の船首には黄金の巨大ドリルが装着されていた。
攻撃系拡張パーツのゴールデンドリルだ!
これで敵の飛空艇をぶっ潰しまくるのを、前田さんは大層楽しみにしているのだった。




