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第130話 扇動

 それから数日――


「さぁかかってくるコケ~!」


 ボエエェェェ! ボエエェ!


 今日も今日とてゴールデンバニー達が、ココールに群がってケンカキックを見舞う。


「やあああぁぁぁっ!」

「お馬鹿さんですわねっ!」


 横から姿を現したあきらと赤羽さんが斬りかかる。

 それに合わせて離れた所から矢野さんが銃撃を開始。

 前田さんと赤羽さんの所のNPCのセルフィが、ココールの所までゴールデンバニー達を追い込む係だ。

 そんなシステムで皆がレベル上げを頑張っている中で――


「よーしよし、いい感じだ!」


 俺は簡易鍛冶ツールセットを展開して、合成に勤しんでいた!

 ギルドショップのための商品準備と、俺の合成スキル上げの一石二鳥ですな。

 最終バトル用のみんなの装備を作れるようにならないといけない。

 急激にレベルが上がっているから、装備は全部一新するくらいの勢いになるしな。

 どうせ俺はこの狩りでは見ているだけになりがちだし、時間の有効活用です!

 基本、戦闘中は合成できないのだが俺自身が戦闘の現場から十分距離を取っていれば、非戦闘中判定になって合成が可能になる。

 あまり離れすぎると今度は経験値が入らない判定になってしまうので、非戦闘中判定かつ経験値は入るという立ち位置に立って合成に勤しむことにより、経験値を得ながら合成スキルを上げまくるという荒業を実現していた。

 俺のタレントの『流れ作業』で戦闘中合成すると、合成スキルアップ判定が無くなるから意味が無くなってしまう。

 いい感じの立ち位置をキープしつつ合成しまくらないといけないのだが、やはりココールがゴールデンバニーに対して絶対的な囮になってくれるのが大きい。

 ココールの近くにヤツらを追い込めば必ず殴りに来てくれるからな。

 おかげで俺は一歩も動かずに合成しまくりだ。

 そろそろあきらの『スカイフォール』の強化もできそうだな。


「よし次は――ダマスカスのインゴットを作り貯めとくか!」


 前に使ってたスティールインゴット系の更に上の上の素材系統になる。

 インゴットの元になる鉱石の素材は用意できている。

 これもココールが仕入れて来てくれるんだよな。有能有能。

 ダマスカス系統で皆の武器防具を揃えることになるだろうな。

 当然俺の『仕込杖』の中身の剣もダマスカス製の『ダマスカスソード』になるわけだ。

 どんどん『デッドエンド』一発当たりの金額が上がって行きますなあ!

 と、一人合成に勤しむ俺の耳に響くレベルアップ音。

 おーレベル上がった上がった!

 何ともうレベル71になりましたよ!

 そして――


「コケ~! また上がったコケよ!」

「わ~! 凄いココールくん! とうとうレベル100!」


 俺から離れた所であきらやココール達も歓声を上げていた。

 よしよし、ここまで上がればもうレベル的には十分だろうな。


「蓮く~ん! 全部倒したし出るよ~!」

「おう――!」


 で俺達は『空の裂け目』から脱出してピーチサンダー号の甲板に戻った。


「ふう――今日はこれまでかしらね?」


 と、赤羽さんが言う。

 確かにもう時間は強制ログアウト時間の十時に近かった。


「いや――今日というよりこれで『空の裂け目』のレベル上げは終わりかな。もう十分に上がったしな」


 と、俺は提案する。

 ココールのレベル100は一つの目安だった。

 ここからはもう、準備に専念するぞ。


「止めちゃうの? じゃ後は装備とかの準備って事?」

「ああ。これ以上はレベルだけ上げてもな。それよりココールのスキルも仕上げないと」


 最終バトルロイヤルでの大将的なポジションにいるココールの性能は万全にしておかないと! つまり『ゴールデンイエロー・スウィーツ』で強いのを呼べるようにしておくという事だ。

 そのためには『空の裂け目』でゴールデンバニーだけを狩っているわけにも――

 基本『空の裂け目』の出現敵はランダムだから、ちょうどいい敵が出てくるとも限らない。ゴールデンバニーを呼べる様にした所でバトルロイヤルの役に立つわけでもなし。

 つまり、確実に目当てのものがいる通常エリアでスキルの仕上げをするべきなのだが、狩場は妨害工作で潰れている。

 俺には、これを打開するための腹案があった。


「と言うわけで、ゴールデンバニー祭りの方法を他のギルドにも公開しようと思います」


 『空の裂け目』への突入時刻を時間÷分=秒にするってやつだ。

 これが出現モンスターをゴールデンバニーに固定するキーになっている。


「「「「えええええっ!?」」」」


 俺の提案に皆が驚きの声を上げた。

 まあ、せっかく割り出した情報をタダで流すわけだからな。


「せっかくゲットした情報ですし!」

「勿体なくないかしら……?」

「うんうん。あそこまで絞るのにMEP(メリットポイント)も全部使ったし、リューくんのスキルもつまんないのにしちゃったのに――」

「いいんだよ、十分おいしい思いはさせてもらったからな。どうせいつかは他の奴が気付いたり、法則が変わって通用しなくなるかの情報だろ? 役に立つうちに最後の役に立ってもらおうぜ。今度はこの情報に普通の狩場を開けてもらう」

「……つまり、これが他のギルドに知れたら、みんな集まって来て――?」

「そう、妨害工作の手が緩むはずだろ?」


 と、俺はあきらに頷く。


「他のギルドのレベルアップのペースを見てても、ゴールデンバニー祭りの方が経験値的に美味いっぽいからな。この情報にはみんな飛びつく。少しでもレベル上げたいだろうしな。ほむら先輩にも言って、情報に喰い付くポーズを取って貰えればみんな後追いするだろ。先輩の所も大手だからな」


 もう最終バトルロイヤルも間近だ。

 ここから狩場つぶしの妨害工作の手を緩めた所で、下位ギルドが急激にレベルを上げてそれまでの差を挽回するのは難しい。

 だからもう手を緩めてしまっても構わない。

 この情報が流れれば、一斉にそういう流れになるだろう。

 その隙に俺達は、空いた狩場でココールの最終調整をさせてもらう、と。


「なるほど……さすが蓮くんは腹黒いね!」

「まあ褒められたと思っておこう!」


 と、俺達はこれでいいとして――だ。


「なあ、赤羽さんもそれでいいか?」

「構いませんわ。ですが空いた狩場でどうなさるのかは、見せて頂きたいですわね」

「ああ。こっちとしても手を貸してもらえると助かるからな」


 と言うわけで、俺達のゴールデンバニー祭りはこの日で終了。

 ほむら先輩の手も借りてその情報を他ギルドに広めると、あっという間に大手ギルドも

『空の裂け目』に集結していた。

 狙い通り――! である。

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