第129話 三人のあきら
翌朝――
「おはよ~……みんな」
学校の授業が始まる30分ほど前。
あきらはギルドハウスにログインして来た。
やはり昨日と様子はあまり変わっておらず、少々元気がない。
「おっすあきら。やっぱテンションが低いですな?」
「え? そ、そんな事ないよ?」
「ウソウソ! 顔に出てますし」
「そうね、元気がないわ」
「んー……まあね、やっぱり保護者参観が――」
「そんな、ソードダンサーの装備の過激さにお困りのあなた!」
「いや……まあそうなんだけど、そもそも蓮くんがやれって言うから――」
「そんなあなたに朗報です!」
「?」
「ほい。これを使いなされ」
と、俺はあきらに『ミミックファン』を手渡した。
「え? これ何? 扇だよね」
「装備の説明見てみろよ」
「……ええと――ん? 『擬態』? あ! これならもしかして……!」
「そうそう。バトルロイヤルの間、ずっと誰かに『擬態』を続けてればソードダンサーの姿を見られずに済むだろ?」
「わぁ~! うんうん、そうだね! これなら大丈夫かも!」
あきらの顔がぱっと輝く。いつもの笑顔が戻って来た感じである。
「これわたしが使っていいの?」
「もちろん! そのために探して来たんだからな」
「どこで見つけてきたの?」
「昨日あの後、皆でほむら先輩のとこのアイテムミュージアムに行ってさ、探して来た」
「みんなで? そうなんだ――! みんなありがと~!」
「気にしないで、その方が私達も楽しいから、そうしただけだから」
「そそ。あっきーがニコニコしてないとこっちも調子狂いますし」
「そうだコケ~。あきらは笑顔なのが一番だコケ! な蓮、そうだコケ?」
「ああ。完全に同意」
「ふふふっ! よ~しじゃあ早速試し斬りしに行こ! 試し斬り!」
「今からか? もう授業始まっちまうぞ」
「大丈夫大丈夫! ちょっとだけだから! さぁ行こっ!」
というわけで、いつものトリニスティ島の一層に移動した。
ここは他ギルドの妨害工作からもお目こぼしされていて、今日も今日とてアイランドバニー師匠たちが群れを為してぬぼーっとしている。
「よし! 早速試し斬り行くよー!」
言うが早いかあきらは手近にいたアイランドバニーに走って行き『ミミックファン』で攻撃した。
バシン! と音がしてアイランドバニーが地面に伸びる。
ボエェェ!?
何回も聞いた悲鳴だ。当然レベル差が凄いので一撃必殺である。
「よし――『擬態』っ!」
と『擬態』を発動する。扱いとしては武器専用のアーツという事になる。
ぽんっ! と軽い効果音がして、あきらの体が白い煙に包まれる。
中から現れたのは――『スカイフォール』と『ミミックファン』を二刀流したアイランドバニーである。
武器グラフィックはそのまま残るのか。
ステータスをコピーするわけじゃなく、あくまで見た目をコピーするわけだ。
武器はそのままじゃないと攻撃方法変わるしな。なるほどな。
「おぉ~! 何かもふもふしてるよ、わたし!」
声もあきらのままだった。嬉しそうにぴょこんぴょこんと飛び跳ねて見せる。
「おーすごいコケ!」
「楽しそうですし!」
「そうね――面白いわね、これ」
「なああきら、ステータス弱くなったりはしてないよな?」
性能的な事は確認しとかないとな。
俺が尋ねるとあきらはステータスウィンドウを開いて、中身を確認する。
「うん下がってないよ。変わるのは見た目だけだね」
「なるほどなるほど」
「ねえねえ、ココールくんに変身してみていい?」
「いいコケよ」
あきらがぺしっと軽く『ミミックファン』をココール触れさせる。
これで『擬態』の対象が切り替わるわけだ。
「じゃあ次はココールくんに!」
ぽんっ! と今度は二刀流のココールが現れた。
「おお~ホントにそっくりだコケな~」
感心するココールの周りをあきらココールがちょろちょろ走り回る。
「あはははっ! 何かちょっと走りにくいかな~?」
ココールは手足短いし、体も丸っこいからな。
思うように体が動かないのかも知れない。あ、こけた。
「『擬態』の効果中に装備外したらどうなるんだ?」
効果は切れるのか? こういう所も見とかないとな。
「どうだろ? 優奈ちゃん持って」
「ほいほい」
――おお。あきらが『ミミックファン』を矢野さんに渡したのに効果は切れない。
なるほどなるほど。発動したら効果時間中は装備変更してもそのまま継続なんだな。
「じゃあ、この『擬態』したあきらを更に『擬態』したらどうなるんだ?」
「オッケ! 試しますし!」
と、矢野さんは『スプリント』を発動してアイランドバニーの群れに突っ込んだ。
そこで『ミミックファン』でバシバシアイランドバニー師匠達をなぎ倒した。
AP貯めの儀式である。
矢野さんは『闘神の息吹』を持っていないからな。
敵を攻撃して必要なAPを貯める必要がある。
「私もちょっと興味があるわ」
と、前田さんは離れたアイランドバニーに攻撃魔法を撃ち込んでいた。
前田さんの場合は、タレントの『タクティカルマジック』のおかげで、MPを消費すればAPが貯まるようになっている。
「じゃあ、行きますし!」
戻ってきた矢野さんがあきらココールに『ミミックファン』をぺしっとやり、『擬態』を発動させた。
ぽんっ! そして現れたのは――見慣れた超絶美少女の姿である。
「ああ、そこはあきらになるんだな。元の人をコピーするのな」
「うわ~あっきーになりましたし! ってか谷間すっご! 胸でかいですし! 重いですし!」
ギャル語のあきらが、自分の胸をゆさゆさ持ち上げている。
おお……これはこれで何か幻想的な風景ですなあ。
「ちょ、ちょっとやめてよ~! 優奈ちゃん!」
あきらココールが頬を赤らめている。ちょっとキモいかも知れない。
「ほら、ことみーもいっぺんあっきーに変身してみるといいですし」
「ええ!? 私も?」
「巨乳体験は貴重ですし。特にことみーにはね」
まあ、前田さんはスレンダーな方だからな。
矢野さんはあきらと前田さんの中間よりちょっとあきら寄りかなと。
「……まあ、一度くらいなら」
前田さんも多少興味はあったらしく、あきらに変身した。
で、変身したあきらの体を見つめて――
「だ、駄目っ! やっぱり――!」
「どしたのことみー? あっきーの重いでしょ」
「そ、そんな事よりこんなスース―する服、恥ずかしいわよ――!」
涙目になって、体を隠して蹲ってしまった。
「あはは。気持ちは分かりますし、あたしも恥ずいですし。高代こっち見んなですし!」
「そうよ見ないで高代くん!」
「ああ、悪い悪い。そうだよな、中の人があきらじゃないもんな」
「も~! みんなひどい! わ、わたしにだって羞恥心はあるんだからああぁぁっ!」
あ、あきらがプンプンし出した。
同時に『擬態』が切れて元のあきらに戻り、恥ずかしそうにしているあきらが二人と怒っているあきらが一人になった。
これはこれで中々凄い光景だな。
「大丈夫だって! 似合ってるから俺的には何の問題もないぞ!」
と、俺はあきら本体をフォローしておいた。別に嘘偽りは無く本当の事だ。
「……いやまあ、蓮くんは常にそう言ってくれないと嫌だけど――」
「世間の目は『ミミックファン』で誤魔化せばいいんだよ! これで万事解決だ!」
「そうかなあ……? まあ、みんなでわたしのために用意してくれたんだよね? それは感謝してるよ」
「そうそう! これで保護者参観最終バトルを乗り切ろうぜ!」
「そうだね――うん、わかった!」
さて、まだまだ本番までに準備する事はあるな。
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