第12話 初デュエル
「ボンクラーズごときが、まともな攻撃役に勝てるかよ! バーカ!」
自信満々に突っ込んでくる片岡。
俺は自分の足元に紋章魔術の『ディストラサークル』を展開する。
レベル11で覚えた新魔法で、範囲内の敵のSTRを下げる。
これの効果範囲MAXで放ち、一気にMPを空に。
そして突進してきた片岡の攻撃を『仕込杖』でガードする。
ガードはしたものの11のダメージ。もろに受けるよりはいい。
このガードした上からダメージが入る現象は、ガード削りと言う。
早い話が、向こうの攻撃性能がこっちのガード性能を上回っているから起きる。
俺は続く片岡の二撃目、三撃目もガードしてやり過ごす。
やはりガード削りでダメージを負う。だけど無視。まだ奥義は撃たない。
俺の奥義は一撃必殺。当たれば勝てる、当たらなければ負ける。
だから確実に当たる瞬間を狙わないといけない。
四連撃目も来るか――?
俺はそれを待ち望んでいた。
なぜならこのゲームの攻撃のモーションは、ほぼ武器系統によって決まっている。
半自動モーションというシステムで、リアルな武器の扱いなんてできなくてもダイナミックな攻撃モーションが出るようになっている。
そうじゃないと運動が苦手な人とかが楽しめないからだ。
しかしそれは裏を返せば、相手が次に繰り出す動作を簡単に予測できるということ。
短剣の攻撃モーションの四発目。これはジャンプしながらの斬り上げで隙が大きい。
そのことを俺は事前に把握済だった。
「おらおらガードの上から削れてくぞっ!? 反撃してみろよ!」
余裕の片岡は俺を挑発しながら四発目を繰り出す。
ジャンプしながら斬り上げ。俺はそれもガードした。
モーションは分かっているから、ガードは簡単だ。
そして、攻撃モーション後の向こうは空中にいた。
どうせ杖の攻撃なんて痛くないと、余裕で隙を晒している。
「じゃあお言葉に甘えて。奥義『デッドエンド』っと」
ズシャアアアアアァァァ!
「へ? うぎゃあああああああぁぁっ!?」
紫の凶悪な光に包まれた一閃が、片岡を薙いで大きく跳ね飛ばした。
空中でいきなり横にぶっ飛んでいく絵は、なかなかにシュールだった。
近くの建物の三階の壁にぶち当たりバウンド。地面に落ちるとそのまま痙攣している。
一撃で片岡のHPバーはフルから0になり、デュエルの決着がついた。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は1勝0敗です。
ログもそう宣言していた。
デュエルモードが終了すると、片岡のHPが1だけ復帰。
デスペナは発生しないという事だ。
そのかわり戦績は管理されるし、この数字に凝る人は凝るだろう。
「ぐぅ……な――んだ……と」
未だに敗北を信じられないといった様子の片岡に、俺はきっぱりと言い放つ。
「一つ言っとくぞ――紋章術師だって立派に攻撃役できるんだぜ。一撃超特化型のな」
紋章術師の評判を上げておこうという宣伝だ。紋章術師に光を。
ダメジョブマイスターたる俺としては、自分の見込んだ紋章術師が輝いて世間から見直されることが何よりの喜び。だからアピれるときにはアピっておく。
「う、嘘だろ……!? な、なんだあれ……!?」
「わ、わかんねえけどすげえダメージだぞ? 1000越えてる――!?」
片岡のパーティメンバーも驚いている様子だった。
まあこういうシーンには、一撃超特化型は強い。
ぶっちゃけ当たれば勝つって感じだ。
「はい、高代君の勝利ーっ! やるわねえ! 先生もちょっとびっくりしちゃったぞ!」
「ありがとうございます」
ほぼほぼ勝ちを確信していたから、特に嬉しさはなかった。
でもちょっとすっきりはした。正直片岡の態度にはカチンと来たし。
「まさかこの一発芸をこの時点で発見してるとは。見込みあるわ君。そういう子がうちのクラスで先生嬉しいわよー」
「先生もこれ知ってるんですね」
「そりゃまあGMだし。これ単なるダメージソースとしては最強クラスの組み合わせだと思うわよ。マイナーだし使い勝手悪いけど」
「ガイドブックにも載ってなかったですしね」
「書く方も生徒だし全部知ってるわけじゃないからねー。でもあれのせいで逆にみんな試さないっていうのはあるわよね。攻略本があったら参考にして地雷を避けるのが人間心理だし。そこ躊躇わずに突っ込めたのは偉いわ。ナイスチャレンジ、さすがダメジョブマイスターね」
「それもバレてた……」
「先生もゲーマだし。中の人がこんな若いとは知らなかったけど。面白いからフル活用して頑張ってね。最近の子はみんなテンプレ重視だから、見てるほうはちょっとつまらなくなってたのよねー」
「まあ頑張ります」
「はい、じゃあ約束の通りGM権限で片岡君のあり金全部ボッシュート! 高代君のお財布に入りまーす!」
との宣言で、俺の手持ちのミラが加算された。チャリーンって音がした。
んープラス2万ミラかよ。大したことない。こいつあんま金持ってなかったな。
「あ、事後処理は先生やっとくから、高代君たちは行っていいわよー」
「んじゃ、お願いしまーす」
お言葉に甘えることにして、攻略の続きに行くことにしよう。
「じゃああきら、行こうぜ」
俺はあきらを連れて、目的だった街の騎竜屋に向かった。
あきらは機嫌よさそうについてくる。
「蓮くんありがとね、かばってくれて」
「いや当然当然。あんなアホらしい因縁つけられて黙ってられねーし」
「ふふふっ。何か頼もしかったし、ちょっとかっこよかったぞー?」
つんつん、と突っつかれた。可愛らしい笑顔に俺はちょっと照れてしまう。
「な……何言ってんだよ。俺はいつでも頼もしいって」
「えぇー? 普段は頼もしいっていうか、面白いだよー絶対」
「ほう? そうなの?」
「そうだよー。いつ何し出すか分からない斜め上の面白さだよねー」
「珍獣的な何かって?」
「そうそう! 見てて飽きないからねー」
「まあ、あきらのソードダンサー装備も見てて飽きませんが」
「! そ、そーいう事言わないっ! 恥ずかしいんだからあれ……!」
「似合ってるんだから堂々としてりゃいいと思うけどな」
「そーいうわけにはいかないの! まだ全然慣れないし――」
なんて話しつつ騎竜屋に着き、レンタルをお願いした。
「すみません。今他が出払っちまって、一頭しか残ってないんです」
しかし、二頭お願いしたら断られた。
そういう事もあるのか。システム的に数管理してるんだな。逆に感心する。
「じゃあ一頭でいいです。二人乗りできますよね?」
「はい問題ないです。まいどあり!」
ということで、俺が前で手綱を握ってあきらがその後ろに乗るのだけど――
うおおおおお! ダメだこれ、潰れてる潰れてる!
何がって、それはあきらの胸。
二人乗りであきらが後ろだから押し付けられて、騎竜が走ると揺れるから、それはもうむにゅむにゅでむぎゅむぎゅで……気にするなって方が無理だこれ、全然集中できん!
何でこんなところがリアルなんだよ、このゲームは!
ありがとうございます! もっとやれ!
「二人乗りも楽しいねー!」
あきらは俺の後ろで、無邪気そうな笑顔を浮かべていた。
半面俺はもう、あきらから伝わって来る感触が気になって何も目に入らなかった。
結局この日は、六層七層とクリアして終了した。




