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第122話 ゴールデンバニー祭り

 翌朝――授業前の教室で俺は前田さんに尋ねた。


「なあ前田さん。初めて『空の裂け目』に入った時さ、ニトロの再使用時間(リキャスト)調べてたよな?」

「ええ。あ、何か飛空艇がもっと早くなる裏技を思いついたの!? なになに!?」


 期待に満ち溢れた目で見られた。


「いや、そうじゃねえけど」

「何だ――残念だわ」


 あからさまにがっかりされて、いつものクール寄りの前田さんに戻った。

 オンとオフの差が激しいなー。


「ってかもうあいつは十分に早いだろ」

「いいえ、まだまだよ」

「……まあいいけど、とりあえず聞きたかったのは、あの時現在時刻を確認しながらニトロのレバー引きまくってただろ?」

「ええ。一秒おきに確認したわ」

「俺達が『空の裂け目』に入った時間、覚えてるか?」

「ええと――確か16時2分……」

「8秒か!?」

「ええ。その前後だったわ。よく分かったわね」

「おおおおー! なるほどなるほどこれは当たりかも知れんぞ……!」

「どういう事?」

「見てくれよ、これ!」


 と、俺はシステムメニューからリューが取ってくれた過去ログを呼び出して表示する。

 昨日分のログだ。ウィンドウには『空の裂け目』に突入直後、ゴールデンバニーが出現して喜ぶ俺達の会話がテキストで収録されていた。

 ここで注目するのは『空の裂け目』への突入を現すログだ。

 普通にプレイしている時には一々表示されない情報だが、何時何分にこのエリアに移動したというタイムスタンプも取ってくれているのだ。

 そして突入時刻は――20時5分4秒だった。


「! これは……!? 時間÷分=秒?」

「ああ。これが正しければ――」


 俺が過去ログを確認した結果、他の『空の裂け目』への突入タイミングはいずれもこの計算式には当てはまらなかった。

 つまり――


「狙ってゴールデンバニーを出せる……という事よね?」

「そうそう! これならレベル上げの効率が更に跳ね上がるぞ」

「だけど、割と単純な法則じゃないかしら? みんな情報を隠しているのかしら?」

「ああ。常にこうってわけじゃないんだろうと思う。バグでこんな簡単な法則になってるか、もしくは法則が一定の期間でコロコロ入れ替わるか――まあどっちにしろさ、利用しない手は無いよな?」

「ええそうね。じゃあ放課後早速――」

「ああ、検証だ!」


 二例だけだと勘違いってこともあるからな。

 何にせよ試さないと始まらん!


 というわけで――


「前田さん! 15時5分3秒で行く! あと十秒だ!」

「任せて!」


 がっちょん! がっちょん! がっちょん!


 前田さんがニトロを三連射し、ピーチサンダー号は他の飛空艇をぶち抜いて『空の裂け目』へまっしぐら。

 レースには勝った、確保できる! だが――


「ちょっと早い! 二秒くらい!」

「こうすれば――!」


 前田さんが思い切り舵を切る。

 ガクンと船体が揺れて、ピーチサンダー号は空をドリフトして『空の裂け目』を避けた。

 そうして膨らみながらも、船首は『空の裂け目』にきっちり向けておき――


 がっちょん!


 ちょうどいいタイミングで再びニトロ発動。

 船首方向に船体が突っ込み、『空の裂け目』に突入した。

 時刻確認。ちょうど15時5分3秒だ。

 わざとドリフトで膨らんで、時間調整したわけだ。いい腕してますなあ!


「よし――どうだ!?」


 俺達が侵入したのは――柔らかな緑色の木々が生い茂る林の中のような地形だった。

 そしてそこには、金ピカのボディーを持つモンスターの姿が。


「おおおおー! よっしゃゴールデンバニーだ!」


 しかも前のように一体ではない。見えるだけで三、四体はいる。

 これもう、これだけで普段の一日分くらいの経験値は稼げるぞ!


「やったわね高代くん!」

「ああ! 前田さんもナイス時間調整!」


 してやったりの俺達はハイタッチを交わす。


「すごーい蓮くん! これならNPCレベルはトップ取れるんじゃない?」

「フフフ……どうよ、やっぱドラゴンレコーダーで正解だっただろ? やっぱ検証環境を整えとかないと、こんな単純で美味しい現象も見逃すんだよ!」


 ドラゴンレコーダーを取ってなかったら、気づいてなかったからなコレ。

 いやー清々しい。検証して得た仮説を元にいい攻略法を編み出した時が、検証厨にとっての至福の時ですな!

 これでレベル上げの速度は更に加速する。

 レベル判定の召喚スキルを持つココールにとっては、レベルこそ力!

 本体のステータスは、HPとVIT以外はレベル1の時と変わっていないが、これなら何とかなる!

 魔改造、覚醒、ジャイアントキリングだ! ココールが他のNPCをボコボコにする姿が見えて来たぜ。

 ふふふふ……そして俺は、ドヤ顔でワシが育てたしてやるぞ!


「よし、こいつらを狩って次行くぞ! ガンガンココールを成長させる!」

「よっしゃー! やりますし! あたし達のレベルも上がるし♪」


 レベル上げ好きな矢野さんもご機嫌だった。


「じゃあ、おいら行って来るコケ~!」

「おう頼む!」


 対ゴールデンバニーには、ココールが絶好の囮役になってくれる。

 あいつら普通ならプレイヤーが近づいたら逃げるが、『ノミの心臓』持ちで絶対相手にダメージを与えられないココールが相手なら、蹴りを入れてくるのだ。

 弱いヤツには強気に出るという、これが人間なら人格に問題ある思考ルーチンをしている。


 ボエエェェェ! ボエエェ! ボエエェ!


 ココールがとてとて走って近寄ると、反応した奴等が一斉にダッシュ&ケンカキックをココールに見舞う。


「いてぇコケ~! みんな今だコケ~!」

「よしナイスだ!」

「ある意味これも特殊能力ですわね~」


 赤羽さんが呆れたように呟いていた。

 何はともあれ、ゴールデンバニー祭りの始まりだ!

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