第120話 新スキルのお時間
――というわけで俺達はレベル上げを開始した。
「よしっ! 行ってきますし!」
まずは手始めに『スプリント』を発動させた矢野さんが周囲のモンスターの目の前を走り回る。
気づいたら襲ってくるアクティブな敵は、それを見て後を追いかけ始める。
しばらく走り回った矢野さんの後ろには、十を超えるモンスターがくっついていた。
チーフウルフ レベル53×5
ブルバッファロー レベル55×6
って感じか。
矢野さんがそれを引き連れて、俺達の陣取る場所に戻って来る。
軽いトレインですな。
本来なら脅威と言えるかもしれないが、今の俺達にはこいつらは経験値にしか見えない。
一気に処理してしまえるからだ。俺達にはこれがある。
「前田さん!」
「ええ!」
「「『マジックエンゲージ』!」」
からの――
「『ディマインサークル』!」
「『ディアボリク・ハウル』!」
久しぶりの合体魔法だ。
矢野さんが引き連れて来た敵を全部巻き込む範囲に紋章陣が展開。
中からドラゴンヘッドが飛び出し、敵をがぶりとやると一気にHPが7割がた削れる。
久しぶりに使うが、やはり単なるザコ敵には圧倒的な威力を発揮するな。
そして残りを削るのは――
「だが待って欲しい! 『グランドフリーズ』!」
ピンクのフルフェイスを被ってあのお方の真似をしているセルフィが、口調まで真似て攻撃魔法を放つ。
彼女の足元から扇状に地面が凍り付き、そこから槍のように氷柱が盛り上がって来る。
氷柱に当たるとダメージが発生、更に足止め効果の『凍結』の状態異常も引き起こす。
中々使える攻撃魔法だ。これをあらかじめ習得しているこの子はやはり有能だ。
ヤツのせいでおかしな事になってるのが哀れである。
そして更に――
「『グランドウェーブ』!」
「奥義『クロスクレセント』!」
赤羽さんの範囲攻撃アーツにあきらの範囲攻撃奥義!
これで矢野さんが釣って来た11体の敵は壊滅だ。
経験値がドドドっと入って来て――
「コケ―ッ! また上がったコケ!」
俺達は誰も上がらなかったが、ココールはプリンセススカルリングで3倍速だからな。
まあ、何もしてないけどな――
素だと『ノミの心臓』のせいで敵に一切ダメージを与えられないからな。
かと言って例の悪徳商人の必殺技をここで赤羽さん達に見せるのもあれだし。
本番のバトルロイヤルじゃ敵同士だしな。手の内を隠せるものなら隠しておきたい。
まま、ココールにはただ付いて来てレベルだけ上がっておいてもらおう。
「おう。どうどんレベル上がってくれよ、ココール!」
「なんか申し訳ないコケなー……おいら何もしてないコケ。不労所得でレベルだけ上がるコケ」
「いいんだよ、それで。代わりに店番頑張って貰ってるしな」
ココールは店番どころか商品の仕込みまでやってくれる。
俺達が何もしなくても、寝てる間にココールがギルドショップを回してくれるのだ。
レベル上げ専念でも、活動資金が湧いてくるのは非常にでかい。
そういう点では、ココールの貢献度は実は高いのだ。
「はい優奈ちゃん『剣の舞い』!」
あきらの『剣の舞い』で、矢野さんの『スプリント』が再使用可能になった。
「よし、じゃあ行ってきますし!」
また矢野さんが走って敵をかき集めに行く。
俺と前田さんはヒーリングのポーズをとってMPを回復させておく。
また矢野さんが戻ってきたら以下繰り返しだ。
このシステムの中に、二刀流で敵をズバズバ斬るシーンはどこにもないぞ!
かき集めて範囲攻撃で殲滅の繰り返しだからな!
だがこれが効率がいい以上、仕方ないのだ。急ぐ場合は効率こそ正義!
俺達はこれを繰り返して、この『空の裂け目』の敵を殲滅して行った。
無論ゴールデンバニーの美味しさには及ばないが、そこそこいい狩りになったな。
「あーんホントに二刀流の出番がないよぉ~! 蓮くんのいじわる!」
「いやいや、効率重視の結果ですから! ああほらあそこに一体残ってるから、あれは普通に殴ってどうぞ」
俺達は入り口から逆サイドの端にある出口に移動しながら敵を殲滅してきた。
出口はもう少し行った所だが、その側にまだ一体ブルバッファローが残されていた。
あれを倒したらここはもう終わりだ。
『空の裂け目』の中の敵は時間が経ったら再出現とかはしないからな。
「やったぁ! じゃあいただきまーす!」
と、あきらがスカイフォールの衝撃波を放ち攻撃。
ダメージを貰った敵が向かってくる。
「よし来い!」
嬉しそうにあきらが二刀流を振りかざして敵と接近戦を始めた。
「あたしも~!」
矢野さんも敵を釣って来るばかりで飽きていたのか、銃剣でざくざく攻撃していた。
俺達はそれを眺めて休憩していた。
出たらすぐまた爆走するピーチサンダー号に乗る事になる。息を整えておこう。
「とどめっ! 奥義『エリアルフルムーン』!」
敵を高く打ち上げ自分も飛んで、空中で縦方向の回転斬り。
ド派手なアクションで敵を沈めたあきらは、満足したらしく笑顔になった。
「うん、すっきりしたぁ~!」
じゃあ次に行くか、と思った時――
「きゅ~! れん~! 何かくりゅ~!」
とリューが騒ぎ出した!
あ、これはあれだな――! 新スキルのお時間ですな!
よし次は何だ!? カモンカモン!
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