第119話 効率こそ正義
「さぁみんな、レベル上げをしましょう!」
一人だけ元気な前田さんに促され、俺達はダンジョンの様子を見る。
今回は前回のようなドーナツ状の円形通路のような地形ではなく、単純に大きな広場という感じだ。
周囲の壁はごつごつした岩肌だが、足元は芝生のような緑。それがずっと広がっている。
やはり入る度に構造もランダムなんだな。
「おお今回は綺麗だし広いな……東京〇ーム何個分だよ」
「…………」
いつもならまた野球で考えてる~とか何とか返してくれるはずのあきらが無言だった。
あれ、と思って横を見るとぷいと顔を反らしてしまった。
あ、何か機嫌が……?
ワンテンポ遅れて矢野さんが拾ってくれた。
「その例えって、正直野球好き以外置いてきぼりですし。JK的にはディズ〇ーランドで例えて欲しいですし」
「大体11倍らしいわ。つまり1ディズ〇ーランドは11東京〇ームね」
「じゃあ1東京〇ームは――んーと……」
「0.09ディズ〇ーランドね」
さすが学力王だなー前田さんは。
ニトロで飛空艇ぶっ飛ばすだけが能じゃないんだぜ。
いや元々頭脳担当がメインだよな。
こういう優等生な子でも、ハンドル握ると人が変わったりするんだなーと。
「ああっ! 足元が滑りましたわっ!」
いきなり横から押された、と言うかタックルを食らった。
赤羽さんの仕業だった。いや何か恐ろしく白々しいというか絶対わざとだろ!
しかし不意討ちを食らった俺は、横にいたあきらを撒き込んで倒れ込んでしまった。
「どわっ!?」
「……きゃあっ!?」
重なり合って倒れた拍子に、俺の頬に柔らかいものが……
あきらの唇である。役得その2なのかも知れない。
「れ、蓮くん……! もう、人前でこんなことしちゃダメなんだから――!」
「わ、悪いあきら……! でも赤羽さんがさ――!」
「あらあらごめんなさい。本当に足が滑ったんですのよ。でも役得でしたわよね? わたくしの時よりも余程嬉しかったでしょう? そうですわよね? ね!?」
凄い必死感。無理やり俺を突き飛ばして、さっきのアレを相殺しようとしてるな!
そんなにあきらに嫌われたくないか。まあ、なら協力しよう。
「い、いや。それはそうだけどさ……」
と言いながら、俺は立ち上がる。
まあ、別に嘘でもないしな。
で、まだ寝ているあきらに手を差し出すと、ニコッと笑顔で手を取ってくれた。
「まあいいけど。でも相手がわたしじゃなかったら、もうとっくに訴えられてるからね? 今に始まった事じゃないし」
「やめろ人聞きの悪い! さあレベル上げだレベル上げ!」
身に覚えは無くも無いが。
しかしそんな無駄な事をやっていたおかげで、飛空艇で振り回された気持ち悪さも収まって来た。
俺は改めて、目の前に広がる広いエリアを眺める。
徘徊するモンスターも当然存在しており、エリアの広さからその数はかなりのもの。
バッファローとかオオカミとか、獣系の敵が多いか。
見える範囲では王冠付きのレア系モンスターはいない。
「けっこう敵いるね~。これならいっぱい狩れるね!」
あきらはカメラでスクショを撮りながら、そう言った。
「王冠付きは見えるか?」
カメラのズームで結構遠くまで見えるっぽいので聞いてみた。
「ううん、見当たらないね」
「なるほど――」
これは通常モンスターばかりだから、敵からの経験値はこちらとのレベル差で決まって来る。
こちらよりレベルの低過ぎる敵は、倒しても経験値が得られない。
これが通常の経験値の計算。
レア系モンスターは固定の経験値点を持っているから、相手のレベルが低かろうと固定値分は入るが。
敵のレベルは、大体レベル50代中盤だった。
40代の俺達にはちょうどいいが――
「俺達にはちょうどいいけど、セルフィにはレベルが低過ぎるな」
経験値の計算は、パーティ内の最大レベルで計算になるからセルフィが入っているとここらの敵を倒しても殆ど経験値が入らないという事になる。
一旦外れて見ててもらうか……?
「大丈夫ですわ。『レベルアジャスト』がありますので」
「お! ナイス助かるぜ!」
『レベルアジャスト』とはその名の通りレベルを調整するタレントだ。
パーティーメンバーのレベル上限を一時的に任意の値に制限するのだ。
例えば45に設定すれば、それを超えるメンバーはレベル45になり、それ未満のメンバーはそのままとなる。
経験値の計算は45基準になるので、経験値も問題なく得られる。
レベル上げを円滑にするためのタレントだ。
俺達には取っている余裕は無かったので、赤羽さんが持っていてくれると助かるな。
誰か一人持っていれば、全員に効果があるからな。
「では制限は高代君の45でよろしくて?」
「はいっ。それなら二刀流も使えるし! ありがとうございます、希美さん!」
とあきらは嬉しそうに二本の剣を抜いて構えて見せる。
「ははっ。まだ覚えたてですし、はしゃいでるねーあっきー」
「うんうん。まだまだ試し斬りし足り無いからね!」
「確かにいいわよね。動きを見ても気持ち良さそうだわ、手数が多いから」
「おのれ二刀流が……」
まああきらが楽しく使う分には別に止めはしないが――
ダメジョブマイスターたる俺としては、こういう誰からもちやほやされる人気スキルは気に喰わない。
こういう国民的人気スキルを倒すことが魔改造の醍醐味である。
つまりこいつは倒すべき敵なのだ! 許すまじ!
「あははっ。蓮くん二刀流嫌いだもんね~」
俺の反応を見てあきらが笑う。
「ああ。昔の巨人みたいなもんだ、気に喰わん」
「また野球に例えるんだから。普通の女子高生には通用しないからね、それ」
「どゆことですし?」
「つまり、どんなゲームでも人気で強いから、ロマンを感じないんだって」
「イエスその通り!」
「ははは……無駄な拘りですし」
「いやそこは仕方ない。俺からそこを取るとゲームが楽しくなくなるからな」
「まあ高代くんらしいわ……凄く」
「ふふふっ。だけどわたしは自重しないからね? ソードダンサーやれって言ったの蓮くんだし、自業自得だから♪」
「言われなくても、自重なんかしないだろあきらは」
「うんしないね! 蓮くんもしないからお互い様だし」
「だな――というわけで、ここは俺も自重せず二刀流を役立たずにしてやるからな」
「おっ何々? 何か見せてくれるの?」
「ああ」
「さ、『レベルアジャスト』の設定が出来ましてよ」
「よし、じゃあ――のんびり二刀流でズバズバやってる暇がないくらいのスピードで敵を狩る!」
俺はそう宣言した。
ギルド対抗ミッションがある以上、レベル上げ自体も効率よく行う必要がある。
そう、今は効率こそ正義!
より早く、より効率的に、経験値的な意味の時給を追い求めるべし!
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