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第11話 レアアイテムは人を狂わせる

 それから午後の授業が始まり、それも終わった放課後。

 さぁここからが本番だ。

 今の攻略状況は、六層のボス戦に行けるようになったところ。

 今日もあきらと二人パーティーで、開通しておいたトリニスティ島六層へと移送方陣で一気にワープして戻る。

 ワープするとそこはもう、六層にある街の中だ。


「蓮くん、今日はどうするー? もっと上まで進んじゃう?」

「そうだな。行けるところまで行ってみようぜ」

「じゃあ騎竜屋にゴーだね」

「おう。そうしよう」


 徒歩移動は時間がかかるので、騎竜っていう馬代わりの竜を借りられるサービスが世界各地にある。

 これで一気に、上への通路を守るボスまで行こうという事だ。

 騎竜に乗っていれば、アクティブなモンスターにも感知されない。

 モンスターにはプレイヤーを感知すると襲ってくる奴と来ない奴がいる。


 襲ってくる方がアクティブ、来ない方がノンアクティブ。

 アクティブな敵がプレイヤーを感知する方法にはいくつかある。

 スタンダードに視界に入ったら襲ってくる視覚感知。

 動く足音に反応する聴覚感知。

 HPが50%以下のイエローゾーンのプレイヤーに反応する生命感知。

 後はアーツとかスキルの使用に反応するスキル感知など、様々だ。


 まだ俺の知らない感知方法もあるのかもしれない。

 騎竜は安全だし早いから、さくさく上を目指すなら使う方がいい。

 俺達は騎竜屋に向かって――その途中で、乱暴に呼び止められた。


「おいお前らっ!」

「ん?」


 この間の飛空艇の隠しイベントにいたB組のPTだった。

 喧嘩腰の声の主は、リーダーで盗賊(ローグ)の片岡真一だ。


「何か用か?」

「何かじゃねえよ! それだ!」


 と、まだ制服姿のあきらが腰に下げている『スカイフォール』を指さす。


「よくも俺等の獲物を横取りしてくれたな!」

「横取り?」

「とぼけんじゃねえ! 俺らが倒された後にあのギルギアを倒したんだろうが!? そこにある『スカイフォール』が何よりの証拠だ!」


 片岡はあきらに詰め寄ろうとするので、俺は割って入ってそれを止めた。


「横取りも何もねーだろ。俺達は襲われたから戦っただけだし。そもそもそっちは負けて死に戻ってたよな? 後で言われても困る」

「俺達が削ってやってなけりゃ、お前らも倒せてなかっただろうが!」

「見てなかっただろ? そっちは死に戻ってもういなかったし。まあ考えてることは分かるけどな。後でこれ落としたのを知って、難癖つけてせしめようって事だな?」


 こんな事で文句言うなんて恥ずかしくないのか。俺なら絶対に言わない。

 しかし『スカイフォール』は相当レアなようだし、自分達で取るより奪った方が早いという事だろう。数千分の1の確率と先生も言っていたし。

 レアアイテムは人を狂わせるということか――それとも単に元々ガラが悪いのか。


 B組はガラが悪いって矢野さんが言ってたな。

 俺としては、アイテム欲でちょっと冷静じゃなくなってるだけだと思いたい。

 ゲーム好きには悪い奴はいないと信じたいからな。


「うるせえよ! 俺らが削ってたのをお前らが横取りしたのは事実だぜ!」

「だからそのアイテムの権利は俺達にもある、よこせ! って事だろ? 一方的すぎるだろそれは。俺達がこれ取ったのは事実なんだぜ?」

「……じゃあ白黒ハッキリつけようぜ」

「どうやって?」

「決まってんだろ、一対一でデュエルだよ。それが一番公平ですっきりする」


 明らかにこっちの方がレベルが低い。普通に考えれば不公平でしかない。

 本気で言っているならバカだ。

 分かって言っているなら見え透き過ぎてやっぱりバカだ。

 うーんどっちの種類なんだ、悩む……


「……」

「おーおー怖くてできませんってか? 口ばっか達者なチキン野郎め」


 ああ後者か。だったら乗ってやれば不自然じゃない感じになるか。


「舐めんなよ――俺はチキンじゃねえっ! やってやんぜこの野郎!」


 これでつい挑発に乗ってしまう演技は上手く行ったかね。

 本気でキレてるわけじゃなく、これはあくまで戦略的ポーズ。


「蓮くんちょっと待って落ち着いて! 喧嘩はやめよ? GM(ゲームマスター)呼んで仲裁してもらえば――」


 だけどあきらは本気で心配したようで、ちょっと申し訳ない。

 俺は片岡に聞かれないよう、こっそりあきらに耳打ちする。


「大丈夫俺は冷静だぜ? 明らかにレベル差のあるデュエルにほいほい乗ったら怪しまれるからさ。余計な警戒されないようにしてたわけ。まあ見てろよ、普通に勝つし」

「あ、そうなんだあ……策士だね。うんじゃあ見てるね」


 と納得してもらってから、またキレてるフリを続けた。


「あんなふうに言われちゃ我慢できん! やってやるから見ててくれ!」

「ようし、じゃあ俺とお前で一対一だ。俺が勝ったら『スカイフォール』を寄越せ」

「じゃあ俺が勝ったら、お前のあり金全部よこせよな! お前から吹っ掛けて来た勝負なんだ、リスクは取ってもらうぜ!」


 どうせ勝つが、こういう奴にはちっとは痛い目見せてやらねえとな!

 一撃必殺で圧勝して、金輪際俺達に関わる気を無くさせてやるぜ!


「ああ、もちろんいいぜ」

「その条件――合意とみてよろしいですね!?」


 俺達の前に急に見覚えある人の姿が割り込んできた。


「うおっ!? 仲田先生!?」

「ほいほい。やっほー、先生達放課後は持ち回りでGMやってんのよー」

「へ、へえ――大変ですね」

「ま、残業代はちゃんと出るし、これはこれで楽しんでるけどー。ってわけで生徒間のデュエルの見届け人になりまーす。この戦いの後、約束がちゃんと守られてるか追跡監視もしますからね。破ったらGM権限でおしおきでーす」


 相変わらず綿菓子みたいにかるーいノリの先生だ。

 でもGMが約束保証してくれるのなら、ありがたい。


「分かりました。んじゃお願いします」

「よーし、さっさと始めようぜ」


 俺と片岡は距離を取って向かい合う。

 場所が街中だから、優秀な街人NPC達は野次馬として集まってきて雰囲気を盛り上げてくれる。

 向こうは短剣を、俺は見た目はただの杖状態の『仕込杖』をそれぞれ構えた。


「はいそれでは――デュエルスタート!」


 そう先生が合図した。

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