第116話 夢の8連装
俺達がMEPの引き換えカウンターに行くと、そこには先客がいた。
「あっ! 希美さん、おはようございます」
赤羽さんと片岡だった。
今日も今日とて従者としてHimechanにくっついてるな、片岡のやつ。
ある意味一途な奴である。
しかしまあ、片岡はどうでもよくて――
「あら、あきらさん。ごきげんよう」
赤羽さんがあきらに笑顔で応じていた!
あれ――何で? あの微妙にピリッとした居心地の悪い空気にならないんですが!
「あれ? 二人ともどうしたんだ? いつの間にか仲良くなったのか?」
「な、何を仰いますの……!? わ、私は――!」
と口ごもる赤羽さんをあきらがすっと制した。
「そうだよー。やっぱね、人間って戦場で轡を並べて戦うと友情が芽生えるんだよね」
「何と戦った、何と――」
この間のリエルリィズ姫の誘拐クエストのあれか?
「ま、まああなたがそう仰るならば、そういう事にして差し上げても構いませんわ!」
相変わらずツンデレだなー。
だがにやけるのを我慢しているようで、口の端がひくひくしていた。
嬉しそうだな。素直に喜べばいいのに。
「お前らもMEPの交換か? 片岡」
「俺は違うぞ」
「そうなのか?」
「ああ、MEPを貢ぎに来た!」
「……まあお前はそうなんだな、それで良ければいいんじゃね?」
理解不能だがこいつはこれで満足らしいから放っておこう。
前田さんが、カウンターにいるNPCのお姉さんに声をかける。
「すいません――MEPの引き換えリストを見せて下さい」
「はい、こちらになります。お好きにご覧になって下さい」
ポンと空中にウィンドウが展開されて、引き換えリストが露になる。
タレントからアイテムから、色々あるな。
「飛空艇関連は――と」
前田さんがウィンドウにタッチして、飛空艇関連のリストに表示を絞る。
俺達はそれを覗き込む。
「ほほう――本体もあるんだなー。しかも高けえし」
安い飛空艇でもMEPが3000は下らない。
その中で俺達がゲットしたピーチサンダー号ことLHS13型はというと――
「うわ、これ9000もすんのか! たけー!」
流石最新モデルって事か。
まあやっぱテストの学年一位なんだから、ご褒美も凄いってわけだな。
「にしても、最新モデルにしても凄い高いですし、これ」
確かに矢野さんの言う通りで、小型高速艇モデルの中では群を抜いていた。
同系統だと二番目に高いのでも4000くらいだ。
なにがそこまで――と、俺達はLHS13型のスペックの記載に注目する。
「うーん……積載容量とか最高速度はそんなに変わらないね」
とあきらが言う。
記載では、積載容量250に最高速度が82だ。
二番目のやつは積載容量245に最高速度が79だ。
これでそんなに価格差が出るか……?
「んーむ……あこれじゃねえか? 拡張パーツスロット」
「え? でも蓮くん、拡張パーツスロットは8で同じだよ?」
確かに拡張パーツスロットの合計上限数は8で同じだった。
だが、拡張パーツの種別ごとにも上限値が設けられている。
大砲セットや船首衝角等の攻撃系。
装甲板やバリア等の防御系。
ステルス移動やニトロ等の移動系。
この三つのカテゴリがあり、それぞれに装備数の上限が設定されていた。
その合計の上限が8であり、それは両機種で共通。
しかし、ピーチサンダー号は移動系の上限も8である。
攻/防/移で4/4/8の合計上限も8だ。
二番目のやつは3/3/4の合計上限が8だ。
「よく見ろよ、移動系の上限は倍になってるぞ。つまり8個全部移動系パーツにできるって事だな」
つまりその方面に特化して尖る事が出来る、と――
ちなみに、ピーチサンダー号はデフォルトでニトロの回数を増やすニトロチャージャーを一個積んでいた。
だからニトロが一回使えたわけだが、これはデフォルトで装備されて外せないようだ。
外せない装備枠という事で、8枠のうち1枠は塞がっている状態だ。
「で前田さん、ニトロの再使用時間って240秒だったよな?」
「ええ」
「加速の効果時間は?」
「30秒――あ! という事は……!」
「ああ。8個全部をニトロチャージャーで埋めれば……」
「常時ニトロね! 夢があるわ!」
キラッキラした瞳で見つめられた。
嬉しそうにぐぐっと前のめりに顔を近づけてくるので、流石に俺も一歩後退した。
「あ、ああ……多分、移動系パーツ8個積みできるモデルが他にないんじゃねーかな。だから高い」
まあすっげー揺れるし乗るのキツイだろうが、早いのは早いと思われる。
乗る者の事など何も考えていない飛空艇になりそうだが……
「なるほどぉ――確かに移動系スロット8は他に無いっぽいですし」
矢野さんがリストをスクロールさせながら呟く。
「ふんふん。常時加速ができる初のモデルって事なんだね」
「ああ、まだほとんど誰も手を付けてないっぽいセッティングだろうな。昨日もそんなやつ見なかったし」
ひょっとしたらバランスブレイカー的な何かになってくれるかも?
単純に尖った育成とかバランスは俺は好きなので、検証してみたくはあるな。
「そこまで尖らせたら『空の裂け目』の追いかけっこも楽になりますし?」
「やるわ! 私――夢の8連装ニトロで、あの空を制覇して見せる!」
前田さんが握り拳で宣言した。目が燃えてる。熱血だなー。
そしてギルド対抗ミッション的にも、そうして貰えると非常に助かるわけで。
「……彼女、あんな性格でいらしたかしら? 何か悪いものでもお食べに?」
赤羽さんが首を捻っていた。
「いや……俺達も最近知ったから――」
だがまあ、俺としては別に止めんぞ。むしろ面白いから付き合おう!
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