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第115話 ピーチサンダー号

 翌日――俺は授業開始の一時間前にログインしていた。

 昨日は最初の『空の裂け目』には上手く侵入出来て、しかも『ゴールデンバニー』が出てくれたが、その後が続かなかった。

 他にも『空の裂け目』を狙っているギルドが沢山あり過ぎたな……

 特売品に群がる主婦くらいの勢いでみんな殺到してたからな。

 『空の裂け目』が同時に何個存在しているかは分からないが、効率よく中に入れる環境を作り出さないとレベル上げがままならない。

 他の狩場は大手ギルドの妨害工作で潰されているし、『空の裂け目』でレベル上げするしかないんだがな……何とかせねば――という所で今日なわけだが、色々考えないとな。


「ん? システムメッセージが。何々――ああ、ギルド対抗ミッション最終競技会についての説明会について――か」


 先生がバトルロイヤルだって情報漏洩してくれたやつだな。

 だが聞いたのはそれだけで、詳細の条件は分からない。


「来週か。オーケーオーケー。会場は前回と同じ王宮内の礼拝堂と。各ギルド英雄候補を同伴の事――と。ここが中間発表の場って感じだろうな」


 そこでお互いの育成具合を見せ合ったマウンティング合戦が繰り広げられる――と。

 なるほどなるほど――まあ、来週までに何とか勝負になるメドは付けときたいよな。


「あ、蓮。おはようだコケー」


 ギルドハウスにログインした俺がギルドショップに顔を出すと、ココールが店番をしていた。


「おはようココール。あきら達はもう来たのか?」

「皆もう来たコケよー。もう飛空艇の桟橋に行ってるコケ」


 今日は朝早出して、飛空艇をペイントしようという事になっていたのだった。

 俺が一番最後か。

 飛空艇になると前田さんは目の色変わるし、朝六時のログイン解禁と同時に来たんだろうな。


「そっかじゃあ俺も行ってくる。店番よろしくな!」


 で、俺は飛空艇の桟橋に移動した。

 昨日と同じ場所に飛空艇が留まっているのだが――


「ははは――すげー事になってるな……」


 昨日の面影が全然ないぞ、この飛空艇。

 全体の基本色がピンクになっていて、船体の横側にはうちのギルドのでっかいアイコンが。

 細部に可愛らしいレースやらリボンのペイントがされていて、非常にファンシーである。

 男が乗るにはちょっと恥ずかしい仕上がりになっている。

 これは前田さんの趣味だろうなー。可愛い物好きだし。

 まあ、前田さんが獲得した飛空艇だから当然だろう。

 ギルドアイコンのペイントはもともと矢野さんデザインだから、矢野さんテイストでもある。

 あきらのテイストは入ってないみたいだなー。

 あきらにこういうのやらせるとマッチョを書きたがると思うんだが、それがない――


「あ、いや……あったか」


 飛空艇には元々女神の船首像が設置されていたのだが、それがあきらがギルドショップの商品として作ったマッチョアーマーを着せられていたのだ。

 それがファンシーな飛空艇のデザインをぶち壊している。


「やっぱああせずにはいられないんだな……もはや病気だな」

「あ、蓮くんおはよー。遅いからもう終わっちゃいそうだよー」

「おお、おっす。まあ俺は別にいいぜ」

「ま、ことみーがゲットしたやつだし、ことみーの好みにしてみましたし。っと」


 と『レイブラの魔筆』をくるくる回しながら矢野さんが現れる。


「いい感じになったと思うわ!」


 前田さんは満足そうだった。


「ちなみに船の名前はピーチサンダー号にしたわ」

「ピーチサンダー……?」


 まあ、見た目は確かにピンクだが……

 でも船首像がマッチョアーマー着てるし、どっちかと言うとピーチマッスルとかじゃないかと思うんだが……


「可愛いくて早いという感じを表現したの」


 まあ、前田さん嬉しそうだしわざわざ水を差すのは止めておくか。


「早く、か――そうだな、実際もっと性能上げねえと『空の裂け目』も争奪戦だからなー」

「そうだね、昨日一回目は良かったけど、その後『空の裂け目』に入れなかったし」


 先を越されまくって、前田さんはかなりご立腹だったなあ。

 ハンドルとか握っちゃうと、熱くなるタイプらしいからな。


「つまりギルド対抗ミッションのために、飛空艇の強化は必要という事よね!? いいわ、是非そうしましょう! 私ニトロを増設したいわ!」

「あ、またことみーが壊れ出しましたし!」

「まま、楽しんでやれるならそれが何よりだと思う!」

「うんうん、蓮くんは人の事言える義理じゃないもんね~」

「だけど、飛空艇の強化ってどうやるですし?」

「強化アイテムね。だけどこれは非売品で、自分でモンスターのドロップを狙うか……もしくはMEP(メリットポイント)の引き換えよ」


 キッチリ調べている前田さんだった。


「んじゃー、どこの狩場も妨害で一杯だし、アイテム取りなんてやってられませんし?」

「だな。MEP(メリットポイント)で引き換えるしかないな、この状況だと」

「じゃあ、まだ授業まで時間あるし、MEP(メリットポイント)の引き換えカウンターに行って見よっか?」

「ああ、行こうぜ。手は早く打った方がいいからな。『空の裂け目』を確保できるようにならねえと、話にならねえし」

「でもさあ、あたしはまたせっかくのMEP(メリットポイント)が、魔改造とか言っておかしな使い方で無くなる気がするんですけど……?」

「何もおかしくなどないわ! 早いは正義だから! さあ行きましょう!」


 前田さんがぐいぐいと矢野さんの腕を引っ張るのだった。


「ははは……何かことみーの中の闇を見た気がしますし。はいはい行きますし」


 と言いながらも、ちょっと嬉しそうな矢野さんだった。

 こう見えて結構包容力のあるタイプだからな。

 前田さんの見た事のない一面が見れて、またそれが自分を引っ掻き回してくるので、仕方ないと言いつつ頼られて嬉しい的な思考になってる感じか。

 迷惑だとかって怒らないのが心が広いわな。ギャルだけど。


 よし、では引き換えカウンターにゴー!

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[一言] 事故って子どもひくタイプ
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