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第114話 ビギナーズラック

「あ、いた! 見つけやすくて助かるね。別れ道とか無いし」

「んー? あれもっと奥にことみーも見えない?」

「あ、ほんとだコケ!」

「なるほどつまりここはドーナツ型になってたんだな――」


 ということは――


「よし、俺が向こうに回ってあいつの逃げ道を塞ぐぜ。こっち側でココールが引き付けて、あきらと矢野さんで待ち伏せて攻撃だろ。んで、ヤツが逃げたらその先に俺がいるからまたココールの方向に戻って以下ループな感じで行けるぞ。あきらはヤツに攻撃したらすぐ『バニッシュフリップ』で隠れれば、あいつもココールにだけ反応して戻ってくるはずだ」

「うんなるほど行けるね!」

「おっけ! あたしは離れてココールが殴られたらあいつを撃てばいいっしょ?」

「そうそう、頼むぜ! 行くぞリュー!」


 という事で俺はリューと共に通路を逆走。

 前田さんの位置を通り過ぎて、ゴールデンバニーを待ち受ける位置についた。


「よし――準備オーケーと」


 システムウィンドウを開いて、あきらにメッセージを送った。

 そうすると、向こうが動き始める。

 ココールがえっちらおっちらとコミカルな動きで、ゴールデンバニーに近づいていく。

 一定の範囲まで近づくと、ヤツが反応してココールにまっしぐらに走って蹴りを入れた。


 ボエェ! ボエェ!


 発狂したかのように激しいケンカキックである。

 あいつもいつも追い回される役だから、たまには攻撃したいのか。

 何というか、自分より弱い者にはとことん強く当たるスタイル?

 リアルにいたらクズですな。

 とはいえナイスだココール!

 『ノミの心臓』にも思わぬメリットがあったという事だな!

 ゴールデンバニー狩りには最高の足止めになってくれるわけだ。

 ダメスキルを発想の転換で有効活用とか、俺の琴線に響きまくりである。

 今のココールは滅茶苦茶輝いている! 俺はこういうやつが大好きだ。

 ホントロマンの塊だなココールは!


「ぐぼああぁぁコケーっ!?」


 腹にモロにケンカキックが突き刺さり、ココールが蹲った。

 さらにケンカキックを叩き込もうとするゴールデンバニーの横から、あきらが二刀流で攻撃を仕掛けた。


「やらせないから! 奥義『クロスクレセント』!」


 姿の見えないあきらから、三日月エフェクトが左右に二連打されるような攻撃が放たれる。二刀流化しているあきらのモーションはそれだけで終わらず、一拍遅れてさらにもう一つの三日月エフェクトが発生していた。

 一刀だったら二段だった攻撃が、三段攻撃にパワーアップしているのだ。

 判定的には利き手の右に持つ『スカイフォール+1』がメインで、左に持っている矢野さんのペイント済みの『スティールソード』がサブになる。

 『スティールソード』はアイアンインゴットの上位版であるスティールインゴットで作る剣だ。今の俺達のレベル帯ではスタンダードな武器と言える。

 二刀流での奥義の内訳だが、メイン側で通常の『クロスクレセント』の二段に追加のサブ側でもう一段という感じだ。

 スカイフォールには衝撃波が付いてるから、合計で五段攻撃になっているはずだ。


 あきらのクロスクレセントが発動。ゴールデンバニーに2のダメージ!!


 五段のうち二段当たって残りはスカったと。

 ああでも衝撃波は魔法属性か? 魔法は全属性無効かもな、こいつ。

 はぐれメ〇ル的に考えるとそうなはず!

 親父の時代はドラゴ〇ムで一撃死だった頃もあるらしいが!


 ボエエエェェェェ!?


 優奈の攻撃。ゴールデンバニーに1のダメージ!


 慌てて飛びあがるヤツに矢野さんの銃撃もヒットする。

 そして猛スピード俺の前にやって来たヤツは、俺を見て引き返す。

 すでにその時あきらの姿は再びの『バニッシュフリップ』で消えており、ココール一人がいるように見えたのだろう。

 またココールに突っ込んでケンカキックだ。


「コケーっ!?」

「奥義『クロスクレセント』!」


 プラス銃撃!


 ボエエエェェェェ!?


 またこっちに来た! だがUターン! またココールが一人でとてとて歩いている。


 ボエェ! ボエェ!


「いってぇコケー! でもこいつ、バカだコケ!」


 以下同文!

 何回かこれを繰り返し――やがてとうとうゴールデンバニーが沈んだ。


 ボエエエェェェェーーーー!


 そして――俺達全員が一気にレベルアップした。

 景気よくレベルアップのファンファーレが連打される。


「よしハメれた! おおおおレベルが上がる上がる!」

「やったー! これは美味しかったね!」

「うまうまーですし! いいねえ『空の裂け目』!」


 それぞれ2ずつ。ココールに至っては、元々俺達よりレベル低いのと、プリンセススカルリングのおかげで8個も上がった。

 これで俺達のレベルは俺45、あきら47、前田さん47、矢野さん48!

 そしてココールは38になっていた!


「結局、琴美にニトロでぶっ飛ばされたおかげだったコケなー」

「怪我の功名ね。振り落としてしまったのは悪かったけれど」

「あとお前のおかげでもあるぞ、ココール! お前があいつを引き寄せてくれなきゃ、もっと倒すのに手こずってたからな。早く倒せるって事は、つまりレベル上げの効率がいいって事だからな」


 ゴールデンバニーを倒すのは相当大変とガイドブックには書いていたが、この人数でも結構簡単に倒せた。ヤツがココールにだけは攻撃する習性を利用できたからだ。

 これはまたゴールデンバニーを引ければ、爆速でレベルを上げて行けるぞ!


 しかも、ヤツが残していったのは莫大な経験値だけではなかった。


「あ、蓮くん戦利品も出てるよ!」

「おお! どれどれ――」

「ふんふん『バニーゴールド』? おおこれはレアな素材ですし!?」

「ゴールデンバニーのアイテムドロップ率は凄く低いって、ガイドブックには書いていたわ」

「わ! じゃあ売っても高いかもね!」

「さすがあきらと一緒だとレアなものがボロボロ出るなー。これはいいもん作れそうな予感がするぞ! イメージ的にははぐれメ〇ルの剣とかそんな感じ! あいつの位置づけ的に!」

「あ、わたしもちょっと思った! 最強武器だよね! 伝説の勇者の剣とかより強いもんね!」

「だよな!」

「すっごいレトロゲーの話でしょそれ? とりあえず素材だし高代に預けとく?」

「うんいいよ」

「ええ。構わないわ」


 と、みんなが言うので俺が『バニーゴールド』を預かっておく事にした。

 金になってくれるのか誰かの武器になってくれるのか、楽しみにしておくか。


「よし、じゃあ外に出てまた別な『空の裂け目』を探そうぜ!」


 さぁ調子が出てきた! ガンガンレベルを上げるべし!

 俺達は勢い良く外に出て――出るとそこは空に浮かぶ飛空艇の甲板の上だった。

 『空の裂け目』から出るとそうなるようだ。


 そして、次の『空の裂け目』を探すべく再び前田さんがニトロでぶっ飛ばした。

 だが――結果だけ言うとその日はもう『空の裂け目』には入れなかった。

 何故なら、同じように『空の裂け目』を狙ってる他ギルドのライバルが大量にいたからだ。

 空は空で『空の裂け目』を巡る過当競争が起きていたのだ。

 これでは、初めだけのビギナーズラックだったとなってしまう、何とか手を考えないとだ。

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