第113話 ココール盾
「よし、まだいるな――」
先程のゴールデンバニーがいたポイントに戻ると、ヤツはまだ同じ場所にいた。
出口はココールに塞いで貰ったが、どう仕留めるか……
「んで、どうやって攻めますし? 離れて一発撃っとく?」
と、矢野さんが銃を一撫でする。
「うーむ。それも悪くないが、一撃で倒せないと奥に逃げちまうよな」
現場は広い道幅の洞窟のような感じだ。
地形的には向かって右方向に緩やかなカーブが続いている。
「姿を隠してさ、あいつの向こう側に回れねーかな。で、挟み撃ち的な」
「じゃあわたしが向こうに回ってみようか?」
あきらのソードダンサーには『バニッシュフリップ』があるしな。
AP消費で姿を消す隠密行動用のダンスだ。
主に視覚感知の敵モンスターに気付かれないように移動するためのものだが、対人戦で姿を隠しながら相手を闇討ちするのにも使える。
あきらにはタレントで『闘神の息吹』があり、APが時間で自然増加するから、既にAPも溜まっているはずだ。
「よし、じゃあ頼む。あいつは視覚感知かつ聴覚感知みたいだから、静かにな」
「うん分かった」
「向こうに回ったらあきらに攻撃を仕掛けてもらう、と。で、俺達はカーブの角の見えにくい所で――」
「待ち伏せね? 高代くん」
「そうそう。出会い頭に『デッドエンド』をぶち込んでやる!」
「じゃあ行って来るね、あとはよろしく!」
と、あきらは『バニッシュフリップ』を発動させて姿を消した。
「よし攻撃準備しとこう」
俺は適当にサークル魔術を発動させて、MPを空に持って行く。
これでいつでも『デッドエンド』を撃てる。
矢野さんは銃を構えて遠くのゴールデンバニーに狙いを定め、前田さんも攻撃魔法の詠唱を構えていた。
しばらく待って――
ボエエエェェェェ!?
バニーらしからぬやや野太い間抜けな悲鳴が上がると、ゴールデンバニーは驚いて飛び上がり――
猛ダッシュでこちらに向かって逃げてくる。
「「「速っ!?」」」
待ち伏せ班の俺達三人は思わず声を揃えていた。
とんでもなく速い!
矢野さんが銃撃したがまるでかすらず、前田さんの攻撃魔法は詠唱している間にヤツが通り過ぎてしまう。
俺も何とか反応して奥義を撃ってみるが――
「奥義! デッドエン――」
ボエエエェェェェ!
悲鳴を上げて走り去って行くゴールデンバニーの前に、俺の奥義が空振りした。
姿を見て奥義を発動して一閃する間に走り抜けられてしまった。
「ド……って速過ぎだろ!?」
スピードが尋常ではない。
まさにはぐれメ〇ル的だな、こいつ!
『デッドエンド』さえ当てれば倒せるかも知れないが、これはモーションを当てるのが難しいぞ。
「追いかけますし!」
矢野さんが『スプリント』を発動させて高速ダッシュで追いかけて行く。
しかしそれでも、ゴールデンバニーの方が足が速い。
おいおいこれ倒せるのか!?
「わたし達も追いかけよっ!」
あきらが走ってやって来る。
「おう!」
「凄いスピードだったわね……!」
三人でゴールデンバニーと矢野さんの後を追う。
何か遠くから声が聞こえて来た。
「コケ―ッ!? なんでおいらだけ攻撃するコケーッ!?」
ボエェ! ボエェ!
「あ、こら! やめるですし!」
ボエエエェェェェ!
「あ、また逃げた――! きいいぃぃ!」
「痛いコケー……死ぬコケー……」
「ちょい待ち。今回復したげるですし」
と、俺達はボコボコにされたココールに回復魔法をかけている矢野さんに追いついた。
矢野さんはこの間手に入れた『ナースリング』のおかげで回復魔法を使えるようになっている。
空賊は元々は魔法を使えるジョブではないので、MPは低めだが。
「ココールがやられたのか?」
「大丈夫だった?」
「優奈、どうしたの?」
「いや、なんかあの金ピカバニーちゃん、ココールには思いっきりケンカキックかましてましたし! で、こっちから攻撃したら逃げましたし!」
「しくしくしく……何でオイラだけ――」
「ココールが出口を塞いでたからか……? いやでも、だったら別方向に逃げても――」
「弱い者いじめなのかな――よくないよね、そういうの!」
と、あきらが不満そうに頬を膨らませていた。
「弱い者っていうか、ココールもレベル30あるんだがな~」
敵モンスターの挙動の事だから単に気に喰わないとか、そういう理由ではなく何かプログラムが判定してああなったはず。
原因の切り分けをすれば、ヤツの動きの理由も分かっていくだろう。
それが、倒し方にも繋がるかも知れない。
「とりあえずココールと前田さんが代わってくれるか? 出口を塞いでると攻撃されるのか、ココールだから攻撃されるのかを検証しよう」
「コケ―。了解だコケー」
「分かったわ」
俺達は出口に前田さんを残し、ココールを連れてゴールデンバニーを追いかけた。
しばらく進むと、またヤツが金ピカのボディでぬぼーっとしていた。
「よし、俺が近づいてみるぜ」
俺は無造作にヤツに近づいて行く。
ボエエエェェェェ!
ある程度まで近づくと、俺に気づいたヤツが悲鳴を上げて逃げた。
まあ、見つかったら逃げるよな――
「よし、次ココール行ってみてくれ」
さらに進んでヤツを見つけると、今度はココールを向かわせる。
「分かったコケ―」
ココールがトコトコと進んでいく。
そしてヤツの認識範囲に入ると――
ボエェ! ボエェ!
あ、向こうから接近してケンカキックしてきた!
「コケ―ッ!? 止めろコケ―ッ!?」
「あーっ! ココールくんにだけ!」
「止めよう!」
「お任せっ!」
矢野さんがゴールデンバニーを銃撃!
優奈の攻撃。ゴールデンバニーに1のダメージ!
お、攻撃当たった!
だけどダメージ1だな。完全に銀色のはぐれてる人の感じだなだなこれは――
HPは低いはずだから、何発か当てていければ――!
ボエエエェェェェ!?
一発貰ったゴールデンバニーは当然の如く逃げ去って行った。
「やっぱココールだから狙われたのか……アレか『ノミの心臓』持ちだからか?」
「蓮くん、どうしてそう思うの?」
「あれだ『ノミの心臓』持ちだと敵への攻撃が当たらないだろ? つまり絶対ダメージを貰わない相手だから攻撃するって思考じゃねーかと」
「なるほど……でも感じ悪ーい」
「まま、でもこれは利用できそうだぞ? ハメ殺せるぜ」
「ココールに引き寄せて貰って銃撃ですし?」
「プラス、あきらは姿隠してココールに付いて行って、矢野さんと同時攻撃」
「なるほど! だったら倍速く倒せるね!」
「よしそれで行こう! ナイスだぞココール、お前のおかげでアレを狩れそうだ」
「素直に喜べんコケなー」
「大丈夫だ。盾役のジョブになったと思えばいい。重要な役だぞ。つまりココール盾だな! おかげでレベル上げが捗る」
「分かったコケ―。じゃあ行こうコケー」
俺達は必殺の作戦を携えて、再度ヤツの元へと進む。
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