第112話 ゴールデンバニー
そして一拍置くと、パッと視界の暗転が解けて洞窟の壁らしきものが俺の目に入って来た。
「ワープした!? これが『空の裂け目』の中か――」
中は内容ランダムのインスタンスダンジョンのはずだよな。
つまり他から邪魔されることなく、ここにいるモンスターは狩れるということだ。
「おー。中は普通の洞窟みたいな感じなんだねー」
「あ~びびったですし、死ぬかと思ったですし」
「本当だコケ、ここに入れてなかったらどうなってたんだコケ……」
「きゅ~きゅ~」
ああ、あきらに矢野さんにココールもリューも一緒に入って来れたみたいだな。
しかも、それだけではなかった。
「あれ? ここはどこかしら?」
きょとんとした表情の前田さんも、俺達の近くに現れていた。
俺達が入ったから前田さんも強制転移になったのか?
「お、前田さん! 何か真下に『空の裂け目』の入り口があったみたいだぞ」
「よかった琴美ちゃんも来たんだね!」
「ことみー、あたしらふっ飛ばしてニトロはひどいですし! びびりましたし!」
「ごめんなさい――だけど分かったわ……」
「ん? 何がことみー?」
「240秒よ!」
「ん……!? 何がですし?」
「ああ、ニトロの再使用時間な……」
「ええ。効果時間もちゃんと把握しないと! 回数を増やしたり、再使用時間を短くするタレントやアイテムはあるのかしら? もしかしたら、いろいろやれば常にニトロで移動できたりしないかしら? これは検証の価値があるわよね、ね?」
「あははは。何か蓮くんが乗り移ったかのような――」
「ことみーがヤバいやつになっちゃいましたし!」
まあ俺的には、楽しそうで何よりとも思わなくもない。
楽しみなんて人それぞれだからな、結構結構。
ニトロが好きすぎるのはちょっと自重願いたいが。
「とりあえず、この中を探索して狩れる敵を狩って、ココールのレベルを上げようぜ」
俺達は頷き合って、洞窟のようなダンジョンを先に進むことにした。
スタート地点はカーブのようになっている通路だ。前にも後ろにも行ける。
とりあえず前に進んでみることにした。
「さてさてどんな敵が――」
「内容ランダムなんだよね? 構造も配置されてるモンスターも」
「お宝もあるかな? おいしーのがあるといいですし!」
「出口は見えないけど、どこかにあるのかしら……?」
「だろうな。じゃないと戻る方法がねえし」
と言いながら進むこと、しばし――
「あんまりモンスターがいないねえ」
「モンスターがいないハズレとかもあるですし?」
「あ! 何かが見えるわ!」
「ん……おいあれって――!」
「うわ、アイランドバニー!? 外れだよー!」
「でもなんか金ピカですし?」
「ちょっと遠くてネームが見えないけど、ただのアイランドバニーじゃないんじゃない?」
「あ、あれはもしや……!」
UWガイドブックにも載ってたぞ!
全身金ピカのボディを持つ、ゴールデンバニーというモンスターだ。
このゲームのモンスターからの経験値は、レベル差から判定する通常の経験値と、王冠付きのレア系モンスターが持っている固定経験値に分かれる。
ゴールデンバニーはレア系モンスターになるが、その強さの割に膨大な固定経験値を持つボーナスモンスターとして有名だ。ガイドブックにも載っている。
経験値を稼ぐという事にかけては、こいつがナンバーワンのモンスターだ。
まさにこのゲームのはぐれメ〇ル的な何かである。
「ゴールデンバニーだ……!」
「おおおおー! やったね蓮くん! 運いいね!」
「やっぱあきらと一緒だとラッキーな事がよく起きるなー」
天性のラッキーガールだからなー。
ゲームやりまくって来た人生経験上、俺一人だとこういうのは起きないんだよな。
あきらと一緒にいると起きるのだ。
リアルでも持ってる人間はゲームでも持ってるのかねー。
「どうしますし? いきなり突っ込んで追いかける? あれ逃げるんだよね?」
「逃げ足が凄く早いって、ガイドブックにも書いていたわね」
矢野さんと前田さんの言う通り、本当にはぐれメ〇ルよろしくめちゃくちゃ逃げるらしい。
しかも足が超速く、攻撃のダメージも殆ど通らないと書いてあった。
防御力無視で回避無視の『デッドエンド』なら一撃必殺できるか?
HPは低いらしいからな。
とりあえずガイドブック的には、逃げられない地形に追い込んで倒せと書いてある。
「ちょっと待てよ……ここは出口がどこかにあるはずだよな? そこを塞いだら、あいつを閉じ込められるって事になるよな――」
ヤツに気づかれるより早く、出口を抑えたいな。
そしてゆっくり追いかけよう。
「よし、一旦逆に行こうぜ。出口を探して塞いどけば、あいつも逃げられねえし」
「なるほどね。じゃあいこっか!」
俺達は反転して後ろに進んで行き――そして出口を見つけた。
洞窟の壁の一角に絵画のようなフレームが張り付いて、その奥に黒い空間のうねりのようなものが見える。フレームの中にブラックホールがある感じか。
「お! 多分、あれが出口だな――よし、じゃあここに一人残って出口を塞いでやろう」
「おいらが立ってようかコケ? どうせ攻撃は出来んコケ」
そうだな、『ゴールデンイエロー・スウィーツ』はまだ試せてないしな。
となるとココールの戦力はゼロだ。ここは肉の壁になってもらう方がいいか。
「んじゃ頼むぞココール」
「オーケーコケ!」
俺達は再びゴールデンバニーの元に進むことにした。
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