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第111話 空の裂け目

「だあああああーーーーっ!?」


 桟橋沿いをいきなりニトロで爆走しているため、驚いて逃げる他プレイヤーやNPCの悲鳴も外から聞こえてきた。

 操舵室の中の俺達はもうもみくちゃである。

 あ、何か柔らかいものが顔に――


「きゃー!? ヤダ、止めてよ! あたしはそーいう担当じゃありませんし!」


 矢野さんの胸に俺の顔が埋まっていた。


「そーだよ蓮くん! そこはわたしにしとかないと怒られるよ!」

「何がだ……! つーか不可抗力不可抗力……!」

「コケーーッ!? 噛みついて掴まんなコケーーーッ!」

「ちきん、あむあむーー!」


 と騒いでいると、ふっと速度の圧が緩んだ。

 ああ、ニトロの効果が終わったのか……? やれやれ――


「あら? もう終わり? もっともっと」


 前田さんは、ニトロの発動レバーをがっちょんがっちょん引いたり戻したりしている。


「いや前田さん、そんなにしたら壊れるぞ! スキルみたいなもんで再使用時間(リキャスト)があるんだろきっと」

「そう……残念ね。どのくらいでもう一度使えるようになるのかしら?」


 おもちゃをお預けされた子供のような表情で前田さんは言った。

 指まで咥えてしまいそうな感じだ。


「さぁ?」

「じゃあ私が検証するわね!」


 と、嬉しそうにシステムウィンドウを開くと、現在時刻を確認しつつ――


「いち!」


 がっちょん! とまた舵輪の取っ手レバーを引っ張った。


「に!」


 がっちょん!


「さん!」


 がっちょん!


「……」


 一秒ごとに発動レバーを引っ張って再使用時間(リキャスト)を確かめるつもりか。


「……楽しそうだし、暫くほっとくか」

「そうだねー。外に出ちゃお! スクショ取りたいし!」


 と、あきらが操舵室から甲板に出て行った。


「あたしもー。『空の裂け目』っての探すんだよね? どんなんですし?」

「おいらも行くコケー。レベルを上げなきゃだからコケな! レベルこそ力だコケ!」


 まあココールの言うことは間違っていない。

 ココールにとってはステータスなぞ意味がないのだ。

 元々の低成長率に加え、経験値3倍の代わりに成長率が1/3になるプリンセススカルリングを装備している。

 その状態のレベルアップでは、ココールの成長期待値はこうだ。


 【成長率(筋/耐/器/敏/知/精/魅)】

      0/1/0/0/0/0/0


 レベルが上がってもちょっとVIT(耐久)と最大HPが増えていくだけだ。

 本人の戦力はレベル1と殆ど変わらない。

 しかもバトル中すべての能力値がダウンする『ノミの心臓』持ちである。

 このせいでココールはまともに相手に攻撃を当てることもできない。

 だから直接戦わせることは諦めるしかない。

 だが活路はある。

 悪徳商人の必殺技こと、ココールの覚えた新スキル『ゴールデンイエロー・スウィーツ』だ。

 これは、自分のレベルまでのモンスターをカネで仲間に出来るのだ。

 またしても銭投げ、マネーパワー勝負だがとにかくレベルさえ上げれば勝負ができる。

 どうせ成長率は最下級クラスなのだから、ばっさり切り捨て、レベルの高さだけに一点突破して

悪徳商人の必殺技に賭ける。

 尖りに尖った一点突破こそ弱者の戦いだ。総合力では負けても、一点で勝つべし!

 その一点とはつまりレベルの高さだ。

 つまりココールの言うようにレベルこそ力なのだ。


「よし、じゃあ俺も――リュー行こうぜ!」

「きゅきゅー!」


 せっかくココールもやる気になっているし、俺もしっかり協力してやらないとな。

 ココールを指名して育成方針を考えたのも俺だし。


「わー! ほかの飛空艇も結構いるねー! すごーい!」


 甲板に一足早く出たあきらがスクショを取りまくっていた。


「あれひょっとして『空の裂け目』を探しに来たライバルですし?」

「あー、そっかあ、そうかも! 他の狩場は妨害工作で潰れてるもんね」

「なるほどな、プライベートダンジョンを持ってなくて、飛空艇なら用意できる所は『空の裂け目』に群がってるって事か。中に入っちまえば専用エリアだもんな。多分入り口の争奪戦だなー」


 なかなか思う通りにはいかないものだ。


「とにかく、『空の裂け目』自体はどんな感じか確認したいよな」

「そだねー。どこですしー?」

「よし、わたしカメラのズームで探しちゃうよー!」


 と、俺達はそれぞれ別方向を見渡して探してみるがそれらしきものは特に見つからない。


「あっちの飛空艇が集まってるあたりに近づく方がいいのかねー」


 俺は船の右手を眺めながら言った。

 前田さんに言って近づいてもらうかな……


「でも蓮くん、あの飛空艇みんなこっちに向かってるみたいだよ? ズームで見た感じ」

「んーでも何にもありませんし?」

「あ! みんな下だコケ! 下を見るコケ!」


 甲板から身を乗り出したココールが下を指差していた。

 なるほど盲点、真下は見ていなかった。

 俺達は甲板から身を乗り出して下を見た。

 空と海の青と雲の白、その鮮やかな色合いの中に、真っ黒い渦のようなものが現れている。


「ほほー! あれか! まるでブラックホールだな――」

「わぁ。これも何か絶景だね! スクショスクショ!」

「早速入ってみるですし!」


 しかし真下というのは飛空艇にとってはちょっと厄介かも知れない。

 垂直下降ってできるのか? 旋回しながらちょっとずつ高度を下げる感じなのか?

 まあいいや、とりあえず前田さんに言おう。


「よし、前田さんに――」


 俺達は操舵室を見た。中にいる前田さんは、相変わらずキラキラした瞳でニトロのレバーをがっちょんがっちょんやっていた。

 まあ、俺達は悪かったのだろう。


 ズゴオオオォォーーーーッ!


 次の瞬間、爆音がして船体がガクンと揺れた。

 ニトロの再使用時間(リキャスト)が来たのだ。

 油断していた俺達は急加速に耐えられず、船から投げ出された。


「「「どわあああぁぁーーーっ!?」」」


 完全なるスカイダイビングだ。

 ゲームの中でもこんなに風を感じるんだな。ってか怖い! ゲームでも!


「うわあぁ~~~! これもある意味絶景だね!」


 声に振り向くと確かに絶景だった。

 あきらの方が俺より上にいたから、スカートの中が見えてますしね!

 しかしそれはさて置き、なんか楽しそうだなあきらは! よく平気だな!


「ひぃぃぃぃーーーっ! 死ぬ、死ぬ、死にますしいぃぃ~~!」


 半泣きの矢野さんの反応の方が普通だと思う!


「コケーっ! おいら飛べないコケよーーーー!」


 悲鳴を上げるココールはリューにしがみついて、リューもその重さに引き摺られて落ちていた。

 そして賑やかに落下する俺達の先には、口を開ける『空の裂け目』が待っていた。

 その黒い口に近づくと、俺達はフッと吸い込まれ、目の前が暗転した。

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