第108話 山吹色のお菓子
「コケーッ!?」
崩れ落ちるプリズンタートルの檻から、ココールが排出されて吹っ飛んだ。
空に高く飛ばされバタバタ羽を動かすのだが、残念ながらココールは跳べない。
「ココールくんが落ちちゃう!」
「受け止めるぞ!」
俺達四人で落ちてくるココールをキャッチした。
「コ、コケ~……! 助かったコケ~。みんなありがとうコケ~!」
そこに鳴り響くレベルアップのファンファーレ。
格上のプリズンタートルを倒したことで、俺達のレベルが上がっていた。
俺43、あきら45、前田さん45、矢野さん46!
俺だけプリンセススカルリングの検証で経験値を無駄にしたから、少しレベルが低い。
「やったぁ~! レベル45、来たああぁぁぁ~♪」
あきらが嬉しそうに飛び跳ねていた。
それもそのはず、ソードダンサーのレベル45で覚えるモノをあきらは楽しみにしていたのだ。
自分が欲しかったスキルの習得レベルに達した時って、確かにテンション上がるよな。
で、何を覚えたかと言うと――
「じゃーん! ねえねえ見て見てー!」
あきらは嬉しそうにくるんと回りながら、両手に持った二本の剣を掲げて見せる。
一本はいつものスカイフォールだが、二本目はこの時のために用意しておいたらしい矢野さんのペイント入りの剣である。
明らかに、どう見ても、楽しみにしていたのが丸わかりである。
「おぉ! いいなぁあっきー! 二刀流ですし!」
「格好いいわね」
そう、ソードダンサーのレベル45で二刀流を覚えるのだ。
やはりソードダンサーのジョブ性能自体は高い。
我が永遠のライバル二刀流は、そりゃあもう言わずもがなの国民的人気スキルだ。
みんな大好き。ゲーム界のアイドル。むしろ弱かったら苦情が来るレベル。
俺的にはどんなゲームでも立ち塞がって来る、目の上のタンコブである。
「うんうんっ! わー! モーションが全然違うね~。気持ちいいなぁ♪」
嬉しそうに素振りを繰り返すあきらである。
おのれ二刀流め、うちのマイベストフレンドまで誘惑しやがるか。
まあ――楽しそうなので別にいいが。
「コ、コケーッ!? 何かオイラ、めっちゃレベルが上がってるコケよーっ!?」
一方こちらにも、レベルアップの音とロゴを鳴らしまくってるヤツが!
ココールにも経験値が入ったのだ。
レベル1だったし、秘密兵器プリンセススカルリングのおかげで経験値が爆増。
結果レベルアップ音は猛烈に連打された。
「す、すごーいココールくん! レベル上がりまくってるよ!」
「で、でもあれですし――プリンセススカルリング……」
「ほ、ほんとに良かったのかしら――」
「大丈夫だ! 問題ない!」
俺は大きく頷いて断言する。
結局ココールは、レベルアップ音を29連打して終了した。
レベル1からレベル30にジャンプアップだ!
「お、おお……おいらのレベルがこんなに――」
「どうだ! 強くなったぞ、ココール!」
「ほ、ほんとにコケ……?」
ココールは自分のステータスを表示してみて――
「コ、コケーッ!? 何じゃこりゃコケーッ!? ま、まるで成長していないコケー……!」
まあそうだよな――ココールの成長率はこうだ。
【成長率(筋/耐/器/敏/知/精/魅)】
1/3/1/1/1/1/1
ここにプリンセススカルリングを装備すると――期待値がこうなる。
【成長率(筋/耐/器/敏/知/精/魅)】
0/1/0/0/0/0/0
プリンセススカルリングは経験値3倍の代わりに成長率が1/3だからな。
0なら、レベルが上がってもステータスが上がらないわけだ。
かろうじてVITとそれに伴ってHPがちょっと上がっていく程度だ。
NPCにはLUBもないしな。
LUBやタレント枠、ジョブの概念があるプレイヤーは、この世界においてとても有能な人材という設定なわけだ。
だからその有能なプレイヤー達の集まるレイグラント魔法学園が、世界の最高学府と呼ばれているのである。
「大丈夫だ、お前はそれでいいんだよ」
俺はがっくり崩れ落ちているココールの背中をぽんと撫でる。
「どうせ弱いんだから、1でも0でも関係ねえ。成長率なんて気にするな。レベルだけ上げて何とかなる能力で勝負するんだ。一点特化でその部分だけで勝負するのがジャイアントキリングの基本だ」
「ほ、ホントかコケー……?」
「ああ! それより何かスキルは覚えてないか?」
「こ、コケー? あ、これはコケ? 『ゴールデンイエロー・スウィーツ』……?」
スキルのヘルプテキストを見てみよう。
ゴールデンイエロー・スウィーツ(再使用時間 0/300秒)
<効果> 悪徳商人の必殺技。山吹色のお菓子を渡して相手に助けてもらう。
交渉成立したモンスターは『招集』&『解散』する事が可能。
仲間モンスターは一度倒されるか、装備解除すると復活しない。
仲間にできるモンスターは自分のレベル以下まで。
「あ、悪徳商人の必殺技コケか……? ウチの店はそんな悪い事はしてないコケー!」
「いや、だが――これは……」
これはあれだぞ。
俺が目を付けていたハンドシェークの効果とほぼ同じだ!
きっと山吹色のお菓子は銭投げなんだろうが、そこはこの際仕方ない。
俺が欲しかった効果をココール自身が覚えてくるとは!
「いいぞココール! お前才能あるぜ!」
「そ、そうコケか……?」
「ああ、これなら勝ち目はあるはずだ! 他の奴等の度肝を抜いてやろう!」
「わ、分かったコケー! 蓮に付いて行くコケ!」
俺とココールは、がっちりと握手を交わしたのだった。
あとは、レベルをガンガン上げるだけだ!
フフフ――見てろよ、ジャイアントキリングしてやるからなぁ!
そんなこんなで――この襲撃イベントで俺達はココール護り切り、レベルの大幅アップに成功したのだった。




