第106話 緊急捜索
俺達は自分達のギルドハウスに急行した。
しかし――既にそこはもぬけの殻だった。
店の入り口は大きく破壊され、何か大きなモノが出て行ったのが分かる。
「きゅー! ちきん~! ちきん~!」
リューが寂しそうに、ココールの名を呼んでいた。
「いないね――きっともうプリズンタートルに捕まって……」
「海にドボンって言ってたな――飛び込めるように街の端に向かったんだな!」
「追いかけますし! どっち方向が一番端に近いかな!?」
「こっちよ――! 行きましょう!」
俺達のギルドハウスの立地は、ギルドショップ街の中では街の外縁に近い方だ。
ギルドショップ街の外側の外縁エリアは、見晴らし最高の臨空公園になっている。
プリズンタートルは、きっとそこに向かっている!
「よし追いかけるぞ!」
俺達は、プリズンタートルとココールを探して走る。
「あたしが先行して偵察して来ますし! いたら知らせるから!」
矢野さんの空賊には、移動速度アップの『スプリント』を持っている。
確かレベル35で習得していたはず。
これを使えば、先行して捜索する事が可能だ。
「あ、待って優奈ちゃん! AP持って行って!」
「ありがとあっきー! じゃあ――『エナジースティール』!」
これはレベル45で習得したばかりのスキル。
矢野さんの今のレベルが45だから、本当に覚えたてだ。
効果は味方のAPを半分盗むというもの。
再使用時間は三分だ。
あきらは『闘神の息吹』持ちでAPが時間経過で増えている。
今も満タンだろうから、溢れるAPを矢野さんが抜くことでPTとしてAPが有効活用できるわけだ。
「じゃあ行ってきまっす!」
ギャル式敬礼ポーズで言った後、先行してダッシュしていった。
俺達もそれを追いかけ臨空公園へと向かう。
途中で他ギルドが自分達のNPCを救うため、プリズンタートルを攻撃しているのが何組か目に入った。やはり、俺達のギルドハウスの近くに現れたプリズンタートルはこのあたりに向かっているのだ。
「こっちで合ってそうだね――!」
「だな! けどココールはどこだよ……!」
「優奈は、もっと先まで行っているみたいね――」
暴れるプリズンタートルの範囲攻撃に巻き込まれないよう気を付けつつ、俺達は奥へ。
途中前田さんは細かく詠唱のために足を止め、守備力強化や魔法防御強化の魔法を配ってくれた。俺達だけではなく、他の戦闘中のギルドの面々にも。
支援のための回復魔法も飛ばしていた。。
これは単なる親切だけではなく、あえてMPを多く消費しているのだ。
前田さんはキャラメイク時のボーナスの初期タレントで『タクティカルマジック』を貰っている。
これはMPを消費すればAPが溜まる効果だ。
純粋な後衛キャラである前田さんがAPを溜めても……という説もあるが、これは前田さんが使うものではなく、矢野さんに『エナジースティール』で譲り渡すためのものだ。
戦闘に入るとあきらはあきらの仕事でAPが必要になる。
だから前田さんに渡す事は出来なくなる。
前田さんのAPならいくらでも持って行って構わない。
その時のために、前田さんはAPを溜めているのである。
それが、矢野さんへの支援になる。
矢野さんが『エナジースティール』を習得したことにより、前田さんの初期タレント『タクティカルマジック』が有効活用されるようになってきたのだ。
美しき助け合いの精神ですな!
「みんな~! いたよ! いましたし!」
『スプリント』の俊足で矢野さんが戻って来た。
再使用時間が来て再び使ったのだろう。
「ナイス! ココールはどこだ!? どこにいる!?」
「こっちですし! でもね、殆どもう海に飛び込まれる寸前だったし! 何とか『レッグスナイプ』で足止めしてきたけど!」
『レッグスナイプ』は銃のアーツだ。
ダメージと共に、受けた相手に時間経過で切れる行動不能の効果を付加する
見つけてすぐ『レッグスナイプ』できるAPを矢野さんが持っていて良かったな……あきらがAP譲渡していたおかげだ。
隠れたファインプレイである。
「やばいじゃん! 早く行こ!」
「急ぎましょう!」
「うん、こっちですし!」
俺達は矢野さんに付いて、全速で走る。
落下防止の柵のすぐ近くの地点に、ココールを捕らえたプリズンタートルがいた。
ほぼ海に飛び込まれる寸前。確かに矢野さんの言う通りだった。
これは『レッグスナイプ』が無かったら、取り逃していたに違いない。
「ココール! 大丈夫か!?」
俺は、檻に捕まったココールに向かって叫ぶ。
「れ、蓮~! み、見ての通りだコケ~! 無事だけどこいつ、海に飛び込もうとしてるみたいだコケ~!」
「ああ、今助けてやるからな!」
「い、いや……! いいコケ! このままオイラの事はスルーするコケ!」
ココールはそんな事を言い出すのだった。




