第105話 自由な先輩達
フロイは俺達の方をぎろりと睨む。
「よぅてめえら……! この場でぶっ殺してやりてえが、今日はそんな暇はねえ。挨拶だけにしといてやるよ」
「これは何のつもりでやってんだよ!?」
「カラナート教主国とやり合ってるミシュリアにテコ入れされちゃ、堪らねえんでな。お前らが鍛えようとしてるミシュリア人共を消させてもらう――! プリズンタートル共はミシュリア人をとっ捕まえて、そのまま海にドボン! だ。死にやしねえが、当分行方不明だな。はーっはっはっは! じゃあな!」
フッとフロイの姿が掻き消えた。あの野郎逃げやがった!
何てこった! つまりこれは、ギルド対抗ミッションの妨害イベント的なものだ。
下手をすれば折角ドラフトで獲得し、ここまで鍛えた英雄候補を失う事になる。
おのれウチのココールに手は出させんぞ!
「おい、じゃあ早く助けようぜ!」
「ああ!」
「皆で協力しよう!」
近くにいたプレイヤーが、そう言い合う。
しかし、黒いロリっ娘すなわち聖澤先輩がその前に進み出るのだった。
「よーく考えよ~♪ これはーチャンスだよ~♪」
あーそんなCMあった気がする。お金は大事だよ~♪てやつな。
「チャンス?」
「ギルド対抗ミッションは英雄候補の育成レースだよ? ライバルのギルドのNPCがいなくなれば、自分達は有利じゃない? だから助ける必要無いんじゃないかな~?」
聖澤先輩の言う事は確かにその通りだ。
ギルド対抗ミッションで勝つことを考えたら、自分達のNPCの安全が確保できているなら、他のギルドのNPC救出に手を貸す事は敵に塩を送る行為でしかない。
しかし嫌な所を指摘してくるなー。さすが悪役ギルドの長。
「そりゃそうだけどなあ……」
「だ、だけど……放っておくのもなぁ」
「おい、あいつはうちのギルドのNPCなんだ、手伝ってくれよ!」
周囲のプレイヤーの一人の呼びかけに、しかし反応は鈍い。
聖澤先輩の言葉が刺さっているのだ。
「まぁ、この状況でベターな行動って、自分のギルドのNPCを護りに行く事じゃないかな~? やる事があったら、手伝えなくても仕方ないでしょ?」
あ、上手い。罪悪感を感じずに他ギルドNPCを見捨てる口実を教えた。
自分達にもやる事があったら仕方ないですもんね? って事だ。
「そうだな……よし、俺ギルドハウス見に行くから!」
「俺も!」
「僕も!」
「私も!」
周囲のプレイヤー達が減っていく。
残るのは捕らわれたNPCと同じギルドの人達――と俺達。
「ほら君達も行きなよ。私は止めないからね~」
「い、いけません! 是非救出に協力してあげて下さい! 僕の同胞が……!」
「あーこら、アルフレッド君! 余計な事を言わない!」
「で、でも……愛子さん!」
と、先輩とアルフレッド君が揉めている中――
「「「「「「『マジックエンゲージ』!」」」」」」
大量の掛け声が! 俺達は声のした方を向く。
「あ、ほむほむ先輩――!」
矢野さんの言う通りだった。
「ちょっと変な呼び名で呼ばないでくれる!」
あーほらやっぱり怒られた。
それはさておき、近くの建物の屋上にほむら先輩をはじめとした全覧博物館のメンバーの皆さんが! 皆見事に魔道士だな――!
「行くわよ――一斉攻撃!」
ほむら先輩の号令一下。
「「「「「「『グランドサンダー』!」」」」」」
ズガグシャドガシャアアアアアアアアアアアァァァァン!
とんでもない轟音を巻き起こしつつ合体魔法が炸裂!
もんのすごいぶっとい稲妻が天から落ち、プリズンタートルを直撃した。
合体魔法の迫力の凄まじさは、眩しすぎて目が開けられない位だった。
超威力の雷撃魔法の直撃を受けたプリズンタートルはあえなく一撃死していた。
その場に沈んで動かなくなる。
檻も開き、中のNPCも解放されていた。
「す、すんげー威力……」
「高レベルの『マジックエンゲージ』重ね掛けだもんね――」
俺達は呆気にとられていた。
プリズンタートルをブッ飛ばされて、聖澤先輩はお怒りだった。
「あーこら! ちょっとほむほむ! 何すんのよ!? 他のギルドなんて助けなくてもいいって言ってるじゃん!」
「ほむほむ言うなっ! 別に助けたわけじゃないわ。このプリズンタートルは新種のモンスターだから……即ち、新種のアイテムを持っているかもッ! ふふふふふふ……だから狩るわ! 狩らざるを得ないッ! 狩り尽すわよ、皆ッ!」
ほむら先輩の目がギラァッとすんごい輝いている。
あ、何かアイテム厨の本性が見えたかもなー。
俺達の前に現れる時って、割とまともなお姉さん風だったからなー……
「「「「「おおおおおおー!」」」」」
先輩のPTの皆さんもギラギラした眼差しで応じていた。
しかしまあ、この状況では頼りになる軍団だな。
「くっ……! あーもう勝手にしなさい! 私、他の所に行くわ! 行くわよ、アルフレッド君……!」
「は、はい――」
と、立ち去ろうとする聖澤先輩に声をかける人が。
「まあそう言うな。せっかくなんだからアイテム厨なんぞ放っておいて、私と対人戦しようじゃないか?」
出た対人戦厨、雪乃先輩!
「む、雪乃ね――!」
「さぁ戦おう! 今すぐにだ! お前と戦うのはなかなか面白いからな!」
「いっつもやってるでしょ! 今ここでやる必要ないじゃん、別イベント中なんだから」
「いいじゃないか、いつもと違うシチュエーションもオツだろう? 違った何かが見られるかもしれんぞ?」
「あーもう、めんどくさいなあ!」
はははは。雪乃先輩も相変わらずだなー。
ほむら先輩といい、自分の欲の赴くまま行動してるのに、結果として事態鎮圧の役に立ってるのが凄い。
「おい蓮。行っていいぞ、お前達のココールを護ってやれ」
「正直、スルーして別の候補用意してもらう方がいいと思うけどね?」
あれ、雪乃先輩もほむら先輩も俺達を行かせるために?
「さぁ対人戦だ! デュエルだ!」
「新種のアイテムよッ!」
……いや気のせいだな。
とにかく、俺達も俺達のやるべき事を――
ココールを助けに行くぞ!




