第103話 プリズンタートル
「なあ、何のためにコレ配ってるんだ?」
と俺は謎の袋についてアルフレッド君に聞いてみる。
「さあ……僕もこれを配るお手伝いをと言われているだけで、わかりません」
「ああ、そうなのか」
「それでは、他の方にもお配りしますので――」
俺達の前からアルフレッド君が去っていく。
すると雪乃先輩が口を開いた。
「根回しさ」
「根回し?」
「ああ。悪役中の悪役は名前の通り悪役に憧れる奴等の集まるギルドでな。ネトゲで悪役プレイと言えばどんな事を思い浮かべる?」
「そりゃやっぱPKとか、イベントへの妨害行為とか、アイテムの不当な価格操作とか、地形を利用した攻撃で倒されてはいけないボスキャラを倒すとか――」
「ああ。言ったように色々あるが――学校管理のこのゲームでそんな事ばっかりやっていたら、すぐ垢バンになるし別アカ転生もできんだろう?」
アカウントをバンされるつまり強制解約とか強制退場ですね。
「ですよね」
「だからあらかじめ、周りに謝っておくと。これから悪さしますが、あくまでプレイなので、許して下さいとな。あれだ、バラエティ番組で芸人が他の演者に対し本番中に失礼な事を言うかもしれませんが、番組を盛り上げるためなのでお許し下さいと言っておくようなものだ。そうする事により、本気で怒られないようにしておくのさ」
あくまでピカレスクなプレイをしたいだけで、リアルにピカレスクなわけじゃないと。
ただ人に迷惑をかけるスタイルなので、後で揉めないように先に謝っておくと。
なるほどまあ、人のプレイは人それぞれだわな。
「つまり、コレ配ってるって事は何かやらかすって事ですよね?」
「ああ。それも近々に、だ。注意しておいた方がいいぞ」
「了解です」
校門から校舎への通路の左右は、鮮やかな色の花壇に彩られている。
ふと俺が見た花壇には、花の間にちょんと大きな卵が置かれている。
何だあれ? 最近何気なく卵が目に付くなー。気のせいか?
で、俺と先輩は別れてそれぞれの教室へ。
「あ、おはよー蓮くん!」
「おう。おはよう」
それから特に何事も無く授業は終了。
「はい! ゲームバカども! いよいよ週明けからテスト期間になりますが、この週末もログイン自体はいつもの週末と同じようにできますからねー。でもあくまで自習のためだから! そこんとこよろしく!」
まあ、教科書とかゲーム内アイテムだからな。
電子データとしてリアル側でPCから閲覧も可能で、それをプリントアウトすれば紙の教科書にもできるが――
ゲーム内でもギルドハウスとか、校舎にも自習室とか図書室とかあるし、何だったら飛空艇とか船とか何でもだが、好きなところで勉強すればいい。
自分の気に入った場所で勉強すれば捗る説!
まあリアル午後十時で強制ログアウトだからそれ以降だとリアル側でやるしかないが。
「皆が勉強してるからこそ競合無しでレアアイテムを狩りに行くとかもできますが、テストの点がひどい事になっても先生は知りませーん! 自己責任でおねがいします!」
まあそういう奴もいるよなー絶対。
ほむら先輩のギルドとかここぞとばかりにアイテム狩りに行きそうだわ。
俺も入試は五教科合計241とアレな感じだったが、今度はもっと稼ぐぞ!
まだまだ欲しいタレントがあるのだ!
「よっし! 目指せ学年トップ! 絶対飛空艇ゲットして見せるからね!」
あきらも気合が入っていた。
ギルド対抗ミッションのためにも、この週末はみんなで集まって勉強だな!
「さて、じゃあギルドハウスに戻るか――ココールも待ってるし」
俺達は四人で校舎を出ようとするが――そこで異変に気が付いた。
「うわああああああ!?」
「な、何だこいつ!?」
「こ、こんな所にモンスターかよ!?」
外からそんな喧騒が聞こえてくるのだ。
「何だ!?」
「モンスターって!」
「行ってみますし!」
「そうね!」
俺達は急いで校舎から外に出た。
すると、校門を出てすぐの所に大型のモンスターがいるのが目に入った。
プリズンタートル レベル60 王冠アイコン(レアモンスター)
サイズは見上げるほど大きく、4、5メートルほどはありそう。
タートルつまり亀の名の通り基本は甲羅を備えた体型だが、顔は亀と言うよりもっと凶悪な感じで、サイとかに似ている。鼻先や額に生えた角が凶悪に反り返っていた。
甲羅部分もトゲトゲが生えて痛そうな感じである。
だが最も目立つのは甲羅の一部が盛り上がってできた、格子に囲まれた小屋のような部分だ。プリズンって名前だから牢屋イメージか?
何のためにそんなものがくっついて――?
既にその場に居合わせた生徒たちとプリズンタートルは、戦闘状態に入っていた。
この場はモンスターの占有権はフリーで横殴り可能らしく、PTやギルド、学年、クラスなどは関係無く乱戦になっている。
ギルド対抗ミッションの英雄候補NPCの中にも、戦闘に参加している者がいた。
学校を見学に来ていた所を巻き込まれたに違いない。
そして、どうやらプリズンタートルの狙いはそのNPC達のようだった。
プリズンタートルはスカッド・インプリズンの構え!
おお? 何だ!?
俺が注目していると、格子の牢屋部分が甲羅から分離し、NPCに向け物凄い勢いで飛んでいく! パージした牢屋部分と本体とは、鎖のようなもので繋がっていた。
ギャリリリィィィイッ! ガチャーン!
どこのギルドの候補かは知らないが、ガタイのいい人間の青年NPCが捕獲された。
NPCを捕らえると、鎖はギュルギュル巻き戻り、また元に戻る。
「な、何だ!? くっ――出せええぇぇぇ! っ!? ううう――っ!」
中で暴れるが、暴れると牢内に電気ショックが走るようだ。
これは外から助けるしか――
「大変だ――! おい助けてやろうぜ!」
「おう!」
「大丈夫、これはそんなにレベルが高くねえし、いける!」
校門前に集まっていた生徒達が、口々に言い合う。
「俺達も加勢しようぜ!」
俺の呼びかけにみんな頷いてくれた。
校門に向かって走る。
プリズンタートルには、わっと人が群がっていく。
が――
「ふっふっふっ――今だああぁぁぁっ! サイクロン・サーーーーイズッ!」
「「「うあああああああああああっ!?」」」
突如プリズンタートルの周囲に巻き起こった暴風が、プレイヤーたちを跳ね飛ばす!
俺達はまだ遠かったから巻き込まれずに済んだが――
「くっくっくっくっ――ふふふふふ――はーっはっは!」
プリズンタートルの甲羅の上に、デカい鎌を携えた人影が!
あいつがコレをやったのか――!
聖澤愛子(3-G)
レベル196 闘士 ギルドマスター(悪役中の悪役)
む――あれか、悪役ギルド! しかもギルドマスターかよ!




