第101話 救世主的アイテムの発見
「ほ~ぉ。広ーい~! でっかいですし!」
「おー! マジでスゲーな!」
俺と矢野さんは、フロアの賑やかさに感心していた。
陳列用の台座とショーケース。そこに乗せられたアイテム。性能説明のプレート。
その一対一の組み合わせが、それはもうとんでもない数でひしめいている。
さすがアイテム厨達のコレクション。
ギルドで代々引き継いでいるであろうその数は、数千にもなるだろう。
ここはほむら先輩がギルドマスターを務めるギルド全覧博物館の所有する人工浮島に建てられたアイテム博物館である。
ココールの育成方針についてのヒントを得るべく、ここにやって来たのである。
情報屋もいいが、自分が欲しい情報が決まってないと意味無いしな。
ココールの魔改造については、まだふわっとしてるので具体的に聞ける情報が無い。
ここで色んなアイテムを見ることで、これだって言うものが見つかればと――
まあ見つからないにしろ、前から一度来てみたかったし、気分転換にもいいだろう。
ちなみに、ここに来ているのは俺と矢野さんとリューのみ。
あきらと前田さんはココールと一緒に店番しつつテスト勉強だ。
もうテストは近いし、二人のどちらかには学年トップ取ってもらわないと!
その代わり俺達戦力外組は、打開策を探してこいってわけだ。
うちのギルドの孔明的な何かとして、ココールは何とかして見せる!
そして『ワシが育てた』して悦に浸ってやるぞ!
「あきらのぉ~あきらのぉ~」
リューがあるショーケースの前で止まり、声を上げた。
喋る単語増えて来たかもなぁ。
俺達の名前も覚えてくれるようになった。
ココールの呼び方は『ちきん』だが……
で、なにがあきらのかと言うと、ショーケースの中のアイテムだった。
あきらの愛刀『スカイフォール』である。
で、その隣には全く同じ『スカイフォール』と思いきや『スカイフォール+1』が飾ってある。厳密に言うと今あきらが装備してるのは『スカイフォール+1』だな。
律儀に別アイテム扱いで、更にその右の『スカイフォール+2』と三本並んでいる。
「こんなに何本も『スカイフォール』集めるの大変だっただろうなー……」
確立数千分の一だろ? 凄い情熱だぞ。流石アイテム厨の巣窟。
アイテムコンプ率どの位なんだろうなー。
「おお~銃とか盾もいっぱいありますし!」
と、矢野さんは目を輝かせる。
やっぱ自分が使ってる系統の装備は気になるよな。分かる分かる。
「おー! この『ブラックサンダー』って射程2倍だって、すっご! こんなんあるんだーね、ほしー!」
「ほほー。射程距離は正義だからなー。入手経路がどうかだな。OEXだからレアモンスターのドロップかねー」
Oが同時に一つしか持てない。EXが他人に渡せないだ。
つまりEX属性は、合成して売るという事が出来ない。
要は商品としては扱えない。それでは、合成できる価値が薄れる。
なので、普通はレアモンスターのドロップだろうと推測できる。
中には合成品のくせにOEXと言うイミフな代物もあるが――
暗器とか暗器とか、暗器とかね!
「銃剣も飾ってんねー。何これ『プリズムバヨネット』だって、キレーですし!」
ショーケースの中でキラキラ七色に輝く銃剣だった。
確かに矢野さんの言う通り、見た目が非常に美しい。
「特殊性能は――『追加効果:敵の弱点に合わせた属性ダメージ』か。七色なのが色んな属性を持ってるって事なんだな。これもいいモンだなー」
こっちもOEXですが!
「今度情報屋でどいつが落とすか聞いてみよーかな」
と、矢野さんが言う。
欲しいアイテムを発見するにはいいな、ここ。
「落ち着いたら、これ狩りに行くのも悪かねーなー。あきらがいれば驚異のアイテム運で出してくれそうだし」
「お? マジでぇ? あたしのために?」
「ああ、いいんじゃね。最近矢野さんにはお世話になりまくりだからな。ギルドショップ流行ってるのは矢野さんのお陰だろ? 日頃の感謝を込めてってやつだな」
矢野さんのデザインが好評で、ラッピングアイテムの売り上げは全体的にいい。
お気に入りのアイテムに好きなペイントを選んで施すオーダーメイドも好調だ。
「感謝なら、あたしもしてるけどねー。お互い様ですし」
「え? そうなの? コキ使って悪いなあって思ってたんだが……」
「まあ、自分でも意識してなかった才能? 見つけて貰った気がしますし。お客さん喜んでくれるし、あたしもバカはバカなりに使えるじゃんって。恥ずかしながらけっこーやりがい感じてんの、最近」
と、はにかんだ笑顔が印象的だった。爽やかだー。
矢野さんはあれだなー。ギャルなのに中身は良く出来た人間だよなー。
ある意味、俺達の中で一番まともかもしれない。
「じゃあ、これからもコキ使わせてもらうからよろしく!」
「おけー! それなりに任されたし!」
で、こうして親睦を深めるのも結構だが問題はココールだよ。
あいつを覚醒させるためのキーアイテムがここに眠ってないものか……
NPCのココールには、プレイヤーと違って五つのタレント枠が存在しない。
だからそれに該当する効果は装備で補わないと。
俺の『イクウィップリング』とか『ラッシングリング』みたいな感じのやつって事だ。
装備は渡して変える事が出来るからな。
何かいいものないかな――
暫くミュージアム内をうろうろし、色々と物色していく。
そんな中――
「ん? 何だこれは――」
説明のプレートが無いショーケースがある。
その中にはダチョウのやつかってくらいでかい卵が。
何の卵だ? 説明が無いし分からん。展示ミスかな。
「きゅー? あーくしゅー……?」
と、リューがあるショーケースの前で止まり、首を捻っていた。
中にあるのは、変な形をした槍だった。
穂先が尖っていないのだ。
本来鋭い穂先であるはずのものは、何故か握手を求める手の形の金属パーツだった。
何だこりゃ?
ハンドシェーク(OEX)
種類:槍 装備可能レベル:20 攻撃力:1 獲得AP:1
ガード性能:55 ガードブレイク性能:1
特殊性能:この武器で倒した敵の止めを刺さず、和解して仲間にする。
装備時のみ仲間にしたモンスターは『招集』&『解散』する事が可能。
仲間モンスターは一度倒されるか、装備解除すると復活しない。
仲間にできるモンスターは自分のレベル以下まで。
同時に『招集』出来るモンスターは一体のみ。
レアモンスターには無効。
ほう――?
攻撃力は弱いが、なかなか面白そうな性能じゃないか?
これで倒せば、敵を仲間にできるんだろ。
しかも自分と同レベルまでの敵までいけるわけだ。
重要なのは判断基準がステータスでなくレベルって事だな。
如何にココールのステータスが低かろうと、レベルさえあれば仲間にできるのだ。
恐らくココールと同レベルのモンスターは、ココールより大分強いだろう。
これ装備させて仲間モンスターを仕込めば――
それなりに他ギルドのNPCと勝負になるかも知れんぞ!
「おおおおおおー! 出た出た救世主的アイテム!」
敵は俺達が瀕死にさせて、最後ココールに殴らせるスタイルで仲間にしよう。
これまでの感じだと1ダメージでも与えられるのか不安だが、そこはレベル上げたら治るかもしれないし。
矢野さんに『リベンジブラスト』してもらって反撃ダメージで削るとかもありかも。
説明文の『この武器で倒した敵の~』の部分は検証の余地ありだ。
『リベンジブラスト』状態で『ハンドシェーク』で武器ガードの反撃ダメージは『この武器で倒した』扱いかも知れないしな。
それに、アーツならココールでも当てられるとかあるかもしれないし。
つまり、抜け道はどうとでもなるだろうと。
これさえ手に入れれば――!
「え? 何々どれよ高代ー」
「これだよこれ! 『ハンドシェーク』!」
「ほうほう……?」
と、アイテム説明を眺める矢野さんの横で、俺は声を上げていた。
「はっ!?」
さらに俺の中にビビッと閃くものが!
そうだよ! このコンボなら――一点突破でトップに立てるかもしれんぞ!
「行ける! 行けるぞ――!」
よーし見えたぞ! 俺達の魔改造の大筋が!
『ハンドシェーク』はこれ絶対取らないとだ!
また明日、入手法を調べに情報屋に行ってみるか。




