表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/41

9 勇者君、子供たちと遊ぶ

「なんだよ……これ」


 ルークは目の前の光景に言葉を失う。


 そこにいたのは魔族の子供たちだ。

 リザードマン、オーク、ワービースト、ゴブリン、ハーピー、ラミア……など。

 多種多様な種族の子供たちが童謡を歌っている。


 子供たちはみんな笑顔で楽しそう。

 無理やり歌わされているのではない。


「はーい、どうやらお客様がきたようですよー!

 みんなちゃんと挨拶してねー!」


 子供たちの前に立っていた下半身が蜘蛛の女性が言う。

 アラクネと呼ばれる種族だ。


「え? お客さんって……俺?」

「他に誰がいるんです?

 ほらほら、勇者様。

 こっちへ来て下さいな」


 アラクネが手招きして自分の方へ呼び寄せる。

 引っ込みがつかなくなったルークは、仕方なく彼女の元へ。


「はーい! 皆さんちゅうもーく!

 勇者のルーク君でーす!

 遊びにきてくれましたー!」

「「「わーい!」」」


 下半身が蜘蛛の女性が手を上げて呼びかけると、子供たちはいっせいに手を上げて応える。


 最初は何かの訓練かと思ったが……違う。

 本当にただ歌って楽しんでいるだけだ。


 彼らは心底、楽しそうに笑っているのだ。


「あっ……あの……俺は何を……」

「子供たちと遊んであげて下さい。

 勇者様なんですから」

「はぁ……」


 勇者だから子供と遊ぶ?

 どういう理屈か分からないが……。


「くらえ勇者! 魔王キック!」


 突然、肌が青い男の子が飛び蹴りをして来た。

 全く痛くないが、いきなり蹴られるとイラっとする。


「しねぇ、勇者ぁ!」


 誰かが持っていた本を投げて頭にぶつかった。

 全く痛くないが、いきなり物をぶつけられるとイラっとする。


「勇者のバーカ! あほ! まぬけ!」


 口汚く罵る子供もいる。

 全く痛く……。


「このクソガキどもおおおおおおおおおおお!」


 怒ったルークは反撃に出る。


 子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行くが、一人ずつ捕まえてジャイアントスイングで放り投げて行く。

 もちろん、怪我をさせないように細心の注意を払いつつ、できるだけ丈夫そうな子供を選んで。


「もっともっと!」

「やってやって!」

「楽しい! 楽しい!」

「だああああああああっ! うるさいっ!

 抱き着くな! 触るな! 股の間に手を突っ込むな!」


 子供たちに纏わりつかれ、身動きが取れなくなるルーク。

 無理やり引きはがすこともできるが、さすがにそれはやめた。


 弱い者はたとえ魔族でも傷つけない。

 ルークなりの矜持があるのだ。


「……うん?」


 あることに気づく。

 部屋の隅で小さくなっている子供が一人。


 不思議に思ったルークはその子の所へ行く。

 すると……あることに気づいた。


「あれ? この子……」

「気づきましたぁ?」


 世話係のアラクネの女性がやって来ていう。


「その子、人間ですよ」

「……え?」


 黒い髪を腰まで伸ばしたその少女は、明らかに人間だった。

 獣の耳もしっぽもない。

 牙も生えてないし、角もない。

 肌の色も、赤や、青や、緑ではなく、ルークと同じ色。


 どこからどう見ても人間である。


「なんで人間がここに……」

「以前に魔王城で拘留されていた人間の女性が生んだんです。

 他の子たちと一緒に面倒をみることになりました。

 まぁ……どうせ皆、孤児ですから。

 一人や二人、増えたところで……」

「え? 孤児?」


 ルークが尋ねると、アラクネは肩をすくめた。


「ええ、みんな両親を勇者に殺されたんです。

 あっ……あなたではなく、他の勇者にね。

 アナタたちは直接魔王様の所へ行ったので、

 領内での犠牲者はゼロでしたけど」

「…………」


 確かに魔王城ここでは誰も殺していない。

 しかし、ここへ来るまでに何人もの魔族を殺してきた。


 そんなことは今、どうでもいい。

 確かめたいのは……。


「その拘留されてた女って言うのは……」

「死にました、病気でね。

 少し前に来た一味の仲間で、勇者の子を身ごもっていました。

 ご存じの通り、魔王様は全ての勇者を撃退しています。

 他の仲間は逃げましたけど、

 彼女の母親だけはここにとどまったのです」

「どっ……どうして?」


 その問いに、アラクネはにやっと笑って答える。


「そんなのぉ……決まってるじゃないですかぁ」

「…………」

「わざと置いて行ったんですよ、勇者が」

「……え?」


 思っていたのと違う答えが返って来た。


「この子、望まれた子供じゃなかったみたいです。

 勇者は国へ帰ったらお姫様と結婚して、

 王位を継ぐつもりだったみたいで」

「え? じゃぁ……」

「置き去りにされたんですよ。

 最初からそのつもりで連れて来たんじゃないですかねー。

 邪魔だから魔王様のせいにして謀殺しようとしたんでしょ。

 お腹の中の子、ともどもね」


 それが本当だとしたら、恐ろしいことだ。

 その勇者は本当に人間なのだろうか?


「おい、ステファニー!

 どうしてここに勇者がいる⁉」


 誰かが部屋に入って来た。

 年老いた竜族の男だった。


 丸い縁の眼鏡をかけた、緑色の二足歩行をする竜。

 身体の大きさは人間とそう変わらない。

 もったりとした半纏はんてんのようなものを羽織っている。


「ええっと……そっちから遊びに来てくれて……」

「そうか、お前が連れて来たのではないのか。

 勇者、悪いがちょっと付き合ってもらうぞ」

「え?」


 突然現れた竜族の男は、ルークの手を引いて子供たちのいる大ホールから連れ出していく。


「皆、お礼は?」

「「「ありがとー!」」」


 彼が部屋から出る際に、子供たちはいっせいに挨拶をする。


 その中に、人間の女の子も混じっているのが見えた。

 彼女は決して仲間外れにされていたのではない。


 そのように思えた。

次回、挿絵です。

苦手な人はご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おおお! 勇者からしたら敵ですが、孤児って聞くとかわいそうに思えますね。 母親置いていった勇者ひどい…… 面白い!
[良い点] 出てきたな、黒いたらこが。(笑) だからたらこ作品は油断できねぇ。(褒めてますよ) [気になる点] 魔王は勇者を「どういうもの」として子供たちに教育しているのだろう。 親の敵であるはずの勇…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ