40 それから
邪神の望みに応じて契りを交わした二人は、その力によって無事に元の世界へ戻って来られたのでした。
ちなみに悪いドラゴンは首を刎ねられ、平和になったとさ。
めでたし、めでたし。
「って、簡単に〆ようとしてんじゃねーよ」
メイド服姿のルークが玉座に腰かける魔王にツッコミをいれる。
「仕方なかろう。
あの竜も辞世の句を詠む暇もなく、
貴様に首を刎ねられてしまったのだ。
見せ場もくそもなかっただろうが」
少年の姿になった魔王が言う。
長く伸ばした髪の毛に小さなつけ角。
中性的かつ端麗な容姿。
元の魔王の姿とはかけ離れた幼い顔つきになってしまったが、どことなく面影を残している。
長い髪のせいで女の子に見えるが、彼がレイベルトその人であると瞳が持つ力強さが訴えている。
「だって……お前のことを襲おうとしたから……」
「余を守ろうとしてくれたのは嬉しい。
感謝もしている。
だが、もう少し情緒と言うものがあっても良かったと思うのだ。
いきなりすぱーんと首を刎ねてしまっては、
面白みもくそもないであろう」
「ふんっ、せっかく助けてやったのに!」
不満そうにふくれっ面になるルーク。
やっぱりかわいい。
竜の首を落としたルークだが、彼が魔王の称号を受け継ぐことはなかった。
若返ったレイベルトが魔王として政治に携わり、ルークは身の回りのお世話をメイドとして働き続けることになったのだ。
呪いの文様はすでにルークに移されている。
レイベルトのへその下にハートの文様は消失済みなので、すでに魔王としての力を失っている。
しかし、それでも二人は毎晩のように、身体を重ねて愛し合っている。
飽きるということは多分、当分の間はないだろう。
「まぁ、貴様はよく頑張った。
これからもその調子で頼むぞ」
「なぁ……今のお前って弱体化してるんだっけ?」
「ああ、魔法は使えるがな。
戦闘能力はタダの一般人と変わらん。
この前みたいに勇者が襲ってきたら、
一瞬で首を刎ねられるだろう」
そう言いながら、魔王は自分の喉元に水平にした手を当てる。
「分かった、じゃぁ俺が守ってやればいいんだな?」
「そう言うことだ、よしなに頼む」
「任せろよ。誰が来ても守ってやるから」
「ふむ、心意気やよし。だが……」
魔王はそっとルークの尻に手を伸ばした。
「こっちのほうはもう少し慣れてもらわぬとな」
彼はそう言いながらスカートをめくる。
今日のパンティは黒だった。
「ばっ! この変態!」
慌てて尻を隠すルーク。
顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
「はっ、実に可愛らしい。
ベッドの上で余があまりに可愛がり過ぎたからか、
最近は身も心も乙女になりつつあるな」
「くぅ……仕方ないだろ……だって気持ちいいんだもん」
「ふむ、気持ちがいいか。
元勇者とは思えぬ言葉だなぁ」
「うっ、うるさい……」
唇をかみしめ、悔しそうにしながら顔を背けるルーク。
やっぱりかわいい。
「あんなに甘い嬌声を上げられては、
余もついむきになって攻めてしまうのだ。
許せよ、ルーク」
「べっ、別に怒ってるわけじゃ……」
「魔王おおおおおおおおおおお!」
突然、玉の間の扉が開かれる。
四人の男女がなだれ込むように部屋へ入って来た。
「魔王! 貴様を倒して世界を平和にする! 覚悟しろ!」
そう言って剣を構える黒髪の美少年。
あまりに美しい中性的な顔立ち。
琥珀色に輝く瞳。
そして自信に満ちた表情。
彼は間違いなく魔王を討伐しに来た勇者であろう。
しかし服装は黒で統一されており、なんかとても見た目が地味。
最近の流行なのかシルバーのアクセをじゃらじゃらさせている。
中二病真っ盛りの中学生かな?
彼の後ろには可愛らしい少女が三人いるが、例によって文字数の無駄なので彼女たちの描写は割愛する。
「はぁ……また勇者かよ。
魔王、別にあいつら倒しちゃってもいいんだよな?」
「きわめて……よい」
「は? なんて言った?」
ルークはぼそりと呟いた魔王の言葉を聞き逃さなかった。
「おい! もう一度言ってみろよ!
何が極めて良いんだ⁉」
「いや……口が滑っただけで……」
「俺がいるのにアイツまで手籠めにする気かよ⁉
変なこと考えてたら、マジで許さねぇからな!」
「だから……その……」
胸倉をつかむルーク。
目を反らす魔王。
「おっ……おい! 何だその変態は!
なんで男なのにメイド服なんて着てるんだ?!」
「あ゛っ⁉」
勇者の言葉にルークが反応する。
「てめぇ……今なんて言った⁉」
「変態って言ったんだよ。
どう見ても変態だろ、お前」
挑発するかのように笑う勇者。
我慢ならなくなったルークは両手を握り合わせて、パキパキと音を鳴らしながら玉座の前の階段を下りて行く。
「お前……今、レベルはいくつだ?」
「ふっ、89だよ」
勝ち誇ったように言う勇者。
ルークはそのまま歩き続ける。
「そうか……」
「なっ……なんだよ、止まれよ!」
「…………」
「こっちくるなっ! 何だコイツ⁉」
無言で近寄って来るルークに気圧されて、勇者は後ずさりする。
「ククク……そうか、レベル89か。
ちなみに努〇値って知ってるか?」
「え? 〇力値?」
「あと、種〇値は?」
「え? え?」
何のことか分からずに混乱する勇者。
「俺を倒すには99でも足りないぞ」
「うっ……嘘だ!」
「嘘だと思うならかかって来いよ」
「このっ――あべしっ!」
勇者が一歩前に踏み出そうとした瞬間、額をのけぞらせて勇者が吹っ飛んだ。
「え? 勇者君⁉」
「いやあああああああ!」
「酷い! こんなのってないよぉ!」
一瞬で倒されてしまった勇者に女の子たちが駆け寄る。
「ふんっ、デコピン一発でこれか」
そう言って中指を小刻みに動かすルーク。
彼はデコピンで勇者を倒してしまったのだ。
「「「おぼえてろー!」」」
気絶した勇者を連れて部屋を出て行く三人の女の子たち。
一瞬で決着がついてしまった。
「はぁ……何だったんだアイツら」
「よくやったルーク。
しかし、すぐに次が来るぞ。
気を抜くな」
「え? 次?」
「魔王おおおおおおおおおお!」
突然、玉の間の扉が開かれる。
四人の男女がなだれ込むように部屋へ入って来た。
「魔王! 貴様を倒して世界を平和にする! 覚悟しろ!」
そう言って剣を構える黒髪の美少年。
「おい……魔王! これどうなってるんだ⁉
何で勇者が連続で来るんだよ!
それに勇者警報はどうした⁉」
「実はなぁ……最近、課金制度を導入したのだ」
「え? 課金っ⁉」
「勇者たちから代金を受け取って、
面倒なトラップやモンスターをスルーさせる制度だ」
「え? は?」
何を言っているのか分からない。
「金を払うだけで障害をスキップできるからな。
勇者たちに大ヒットしてウハウハだぞ。
この制度を導入したことで財政も安定。
医療保険、子育て支援、介護問題、その他諸。
あらゆる面でこの制度が役に立っているのだ」
「おっ……おまっ……」
「だからなぁ、ルーク。
貴様が頑張って戦ってくれないと、
大量に襲ってくる勇者に殺されてしまう。
頑張って余を守ってくれ」
「ふざけんなあああああああああああ!」
さすがに我慢ならなかったルーク。
彼は魔王の両側のほっぺを優しく引っ張る。
「いだだだだ! にゃにしゅりゅんだ!」
「テメェは俺を何だと思ってるんだ!
まさか身体目当てでこんな身体にしたんじゃないだろうな⁉」
「そんなつもりは……」
「魔王おおおおおおおおおお……ってあれ?」
さらに別の勇者たちが部屋へ入って来る。
「おい……まだ終わってないのかよ!」
「そっちこそ順番待てよ!
俺たちの方が先だぞ!」
「あっ、アレも極めてよい」
「魔王てめぇ……!」
次から次へとやって来る勇者たち(何故か全員、美少年
魔王の間はどんどん勇者だらけになる。
「と言うことで……だ。
余を独占したかったら、勇者どもを全て倒すのだ」
「こっ……これも計算づくで……俺を……」
「さぁ、ゲームの始まりだ。
果たして貴様は何人倒せるのかな?」
魔王は不敵に微笑む。
ルークは諦めたように、ため息をついた。
「分かった、お前の言うとおりにする。
でも……」
「ああ、仕事が終わったら、後でたっぷり可愛がってやる。
貴様が満足するまで、好きなだけ」
「……うん」
王の間に押し寄せた勇者とその仲間たちを前に、ルークは臆することなく戦いにのぞんだ。
かつて、この世界には魔王がいた。
いつの頃からか……魔王なる存在は姿を消す。
代わりに現れたのはメイド服を着た少年。
彼はあらゆる勇者を打ち倒して伝説となり、地の果てまでその名をとどろかせる。
やがて人間たちは勇者を送り出すのを止め、勇者と言う言葉も聞かれなくなった。
魔王も勇者もいなくなった平和な世界。
赤髪の少年がどうなったのか、記録には残されていない。




