36 勇者君、邪神に食われる
「うわああああああああ!」
邪神の体内へ引き込まれたルークは、全身に何かがはいずりまわるのを感じる。
目の前には巨大な目玉。
そして無数にうごめく触手。
ルークは両手両足を拘束され宙づりの状態になる。
そこへいくつもの触手が伸びて来て体操着の隙間から触手が侵入し、彼の身体をほしいままに弄ぶ。
あまりの恐怖に思わず悲鳴を上げた。
しばらくすると触手が身体の表面を撫でまわす感覚が快楽に変わり始める。
身体の敏感な部分を執拗に嘗め回すそれの表面には柔らかな凹凸があり、擦れるたびに電撃が走ったかのような快感を覚えるのだ。
それが何本も、何本も……。
「うぅ……くぅ……!」
全身を包む快楽に抗いながら、嬌声を上げまいと唇を噛むルーク。
しかしそれがあらぬ場所に侵入しようとしたところで、たまらずに助けを求めた。
「魔王おおおおおおおおお! 助けて!
こわい! こわいよ! 助けてよぉ!」
とても勇者とは思えぬ子供のような悲鳴。
しかし、彼のおかれた状況を鑑みれば、それも仕方ないと思えるだろう。
経験したこともないような快楽に見舞われ、彼は怖くて仕方がないのだ。
誰かにそれを触られたこともない。
ましてやこんな……。
「ルークうううううううううううう!」
魔王の声が聞こえた。
たまらずに叫ぶ。
「早く! 早く来てくれ! 助けてくれ!
もうだめだ! 俺はもう……」
「落ち着けルーク!
貴様には今、勇者の力と魔王の力が備わっている!
そんな触手、簡単に引きちぎれるだろう!」
「……え?」
言われてようやく気付く。
今の彼には相応の力が備わっているのだ。
邪神とて恐れる必要はあるまい。
「そうか……くそっ! ぐっ!」
拳を握りしめ、思いっきり力を籠める。
両手を拘束していた触手を引きちぎると、彼の身体に触れていたものが一斉に引っ込んでいった。
拘束が解けて宙へ放り出されたルークは、そのまま地面に着地する。
全身に謎のねっとりした液体が張り付いているが、もう不快感はない。
「大丈夫か、ルーク!」
心配した魔王が駆け寄って来た。
「ああ、なんとか」
「剣は? 剣はどうした?」
「え? あっ」
ルークは落とした剣が巨大な目玉の前にあるのを発見。
すぐにでも取りに行きたいが……。
「あいつに何をされるか……」
「大丈夫だ、ルーク。自分を信じろ。
あの剣を手に取って目玉に突き刺せ」
「そんなことして大丈夫なのかよ?」
「今のお前に勝てる者などいない。
たとえそれが邪神であったとしても!」
魔王の言葉に、少しずつ自信を取り戻していくルーク。
なんとかやれそうな気がしてきた。
二人の周囲には無数の蠢く触手。
これらの攻撃をかいくぐって剣を取り戻し、目玉に突き刺す。
簡単なミッションに思えるかもしれないが、なかなかにハードルが高い。
相手は腐っても神。
容易に倒れてくれるはずもないだろう。
「余が魔法でサポートする。
貴様は剣を取り戻すことだけに集中せよ」
「分かった」
「うむ、素直で物わかりの良いやつだ」
そう言ってルークの頭をなでる魔王。
二人がこんなやり取りを呑気にしている間も、触手たちは空気を読んで何もしない。
「行くぞ!」
「行ってこい!」
ルークが走り出す。
剣へ向かって真っすぐに。
魔王は触手を寄せ付けないよう、様々な魔法で援護をする。
あちこちに火柱や電撃が発生し、全ての敵を鎧袖一触。
負ける気がしない。
「とった!」
剣を手に取るルーク。
勝利を確信した、その瞬間……。
ぬぉ!
足元が崩れたかと思うと、彼を取り囲むように極太触手が現れた。
タコやイカが獲物を飲み込む要領でルークを取り込もうとする。
しかし……。
ばしゅ!
剣を引き抜いたルークはそれらを一閃。
あっという間に粉々に裁断される。
「楽勝だな!」
「ぬわあああああああああああああああ!」
「おい! 何やってんだよ⁉」
「ルーク、すまん余はもうだめぽ……」
「おいいいいいいいいいいい!」
魔王が触手に捕まり、大きな穴が開いた触手の中に飲み込まれてしまったのだ。
今すぐ助けに行ってやりたいが、彼の救出に手間取っていたら敵からの反撃をゆるしてしまう。
むしろこのまま……。
「邪神! 魔王を返せえええええええええ!」
ルークは剣を目玉に突き立て、そのまま勢いよく押し込んでいく。
目玉からは生暖かい液体がドバドバとあふれ出し、足元に流れて行く。
これで魔王を……。
「ムダダヨ……るーくクン」
ルークの周囲に現れる無数の目玉。
これが邪神の本体ではなかったのか⁉
「おい! 魔王を返せよ!」
「ツギノ……マオウハ、キミダヨ。
アレハモウ……ヨウズミ」
「ふざけんなバカ!」
魔王を用済み扱いされて、ルークは感情を高ぶらせる。
「あいつは……あいつは俺にとって大切な奴なんだよ!
返せよ! すぐに! あいつを返してくれ!
魔王がいなくなったら俺は……」
「ジャァ……カエスネ」
「……え?」
邪神がそう言うと、太い触手の中から何かが吐き出される。
ルークの目の前に何かがゴロンと転がった。
それは……。
「魔王……嘘だろ……」
ルークの顔から表情が消えた。




