35 魔王様、邪神を召喚する
「もう怒ったぞ! 許せん!」
先代魔王は指パッチンする。
すると地面から先代魔王が次々と生えてきた。
「なるほど、分身の術か」
「こいつら強いのか?」
「おそらく、一体一体が先代と同じ強さを誇る」
「マジかよ……畜生!」
お互いに背中を合わせる魔王とルーク。
敵がいつ襲ってきてもいいように態勢を整える。
「それで……どうするんだ?
どうやったら奴を倒せる?」
「ルーク、一ついいことを教えてやろう。
この手の無限に増殖して、無限に再生する相手の倒し方。
それは……」
「…………」
「相手が諦めるまで殺し続ける、だ」
ルークはその言葉を聞いてため息をついた。
「はぁ……そんなことだろうと思ったよ」
「余のやり方に納得がいかないと?」
「ちげーよ、それしか方法ないなって」
「では、お互い頑張るとしよう。
頼むから途中で尽き果ててくれるなよ」
「そっちこそ」
一斉に襲い掛かる先代魔王の群れ。
二人はそれらを次々となぎ倒していく。
ザシュ、ズシャ、バコっ!
二人の目の前には数百体にも及ぶ先代魔王の死体。
敵は一定時間経つと土に吸い込まれるように溶けていき、また別の先代魔王のコピーが生えてくる。
倒しても倒してもきりがない。
2時間ほど戦い続けると、次第に二人の顔に疲労感が浮かぶ。
「くそっ……本当にきりがないな。
本体を倒した方が早いんじゃないか?」
「さっきみたいに再生して終わりだぞ」
「バラバラに刻んで再生できなくするとか」
「無駄だ、どうせコピーに精神を移植して復活する。
何度やっても何をやっても……うん?」
魔王はあることに気づいた。
「もしかしたら……いや……でも……」
「何か分かったのか?」
「ここは黄泉の国だからな。
もしかしたらアレが呼び出せるかもと思ってな」
「あれ?」
「邪神だ、邪神」
魔王は邪神を呼び出す魔法を使うことができる。
しかし……当の邪神はすっかり地上に興味を無くして関わろうとしないので、この魔法を使っても呼び出すことはできない。
だが……黄泉の国であれば、もしかしたら……。
よしんば邪神を呼び出せたとしても、役に立つとは思えない。
しかし、このまま手をこまねいているよりもずっとマシ。
「そんなの呼び出してどーすんだよ?」
「どうにもならん、とにかくやってみるしかない」
「そっか……じゃぁ、任せるわ。
時間は俺が稼ぐから安心しろよ」
「何を言っている、余も戦うぞ」
「詠唱しながらどうやって?」
「殴ったり、蹴ったり、それくらいはできる」
魔王がそう言うと、ルークはにやりと笑う。
「そっか、なら安心だな」
「最後まで諦めるなよ」
「そっちこそ」
詠唱が終わるまでの間、二人は敵の猛攻を防ぎ続けた。
先代魔王のコピーはワンパターンな攻撃しかしてこないので、割と簡単にいなせる。
しかし……。
「くそっ……こいつら本当にしつこいな……」
ルークがこぼす。
コピーは次から次へと生成され、攻撃の手を緩めようとしない。
さすがに雑魚でも長時間相手をし続けていると辛い。
ちなみに、コピーたちは一体一体が勇者に匹敵するレベル。この前侵入した勇者と同じくらいの戦闘力がある。つまり、魔王やルークなら瞬殺できるが、ずっと戦い続けていると面倒。
そう言うレベルの相手だ。
倒した数が1000を超えたあたりから、ルークの表情が曇りだす。
単純に疲れてしまったのだ。
その変化を先代魔王は見逃さなかった。
「今だああああああああああああ!
あの赤髪のガキに攻撃を集中させろおおおお!」
先代魔王の宣言と共に、一斉に襲い掛かるコピーたち。
さすがにこれはまずいとルークが不安になると……。
「…………」
涼しい顔で詠唱を続ける魔王が百裂キックで全てのコピーを蹴り飛ばして無力化したのだ。
「すっ……すげぇ」
ルークは初めて、心の底から魔王を尊敬した。
なんだかんだいってやる時はやる男。
彼の中で魔王の株が急上昇していく。
「くっそぉ……レイベルトぉ!
そんなに俺を受け入れるのが嫌なのかぁ!
あんなに可愛げがあったのに……見る影もない。
絶対に許さんぞおおおおおおおおおお!」
先代魔王が吠える。
しかし、魔王は相手にしない。
そしてついに……。
「……!」
詠唱が完了した。
魔王の頭上に魔法陣が錬成される。
そこから……。
ぬぎゃああああああああああああ!
聞いたこともないような悲鳴を上げて、黒い触手が次々と魔法陣から這い出てくる。
その触手の中央に巨大な口。
あれが……邪神なのだろうか?
「くそっ! 邪神を呼び出しただと⁉
うわああああああああああ!」
触手は先代魔王とそのコピーを次々とつかんで口の中へ放り込んでいく。
あっという間に全ての複製を飲み込み、敵は跡形もなく消え去ってしまった。
「かっ……勝ったのか?」
「いや、まだだ」
「え?」
「邪神は必ず生贄を要求する。
対価を支払わない限り、召喚者を許してくれない」
「つまり……どうするんだ?」
「俺が生贄になる」
「ふざけるなっ!」
魔王の言葉にルークは思わず声を荒げた。
「俺との約束は⁉
ちゃんと魔王の証を引き継ぐって!」
「すまないな、その約束は果たせそうにない。
しかし、その文様があれば手立ては残されている。
俺が死んだ後のことはガルスタに任せ――あっ」
「あっ」
ルークの身体に触手が巻き付く。
「うわああああああああああ!」
「ルークううううううううう!」
吸い込まれていくルーク。
彼の身体が邪神に飲み込まれていく。




