34 魔王様、黄泉の国で元カレに会う
「うっ……ここは?」
あたりを見渡すと、そこは死者が集う黄泉の国だった。
それっぽい墓石、それっぽい枯れ木、それっぽい月。
骸骨やゾンビが徘徊し、カボチャを被った人とかも歩いている。
どうやらここは死人の国らしい。
ふむ……余は強制的に黄泉の国へ送られてしまったか。
つまりこれは俗に言うゲームオーバー。
余の人生はここで終わってしまった!
「おい、久しぶりだな……レイ」
聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにいたのは先代の魔王。
彼は昔の姿のまま目の前に現れた。
浅黒い肌に立派なつけ角、もっさりとしたあごひげ。
黒いパンツと黒いブーツ、そして黒いマント。
へその下にはハートマーク。
全体的にきたない。
昔見たまんまの姿。
「ああ……アナタでしたか」
「貴様もついにこちらへ来たわけか。
それほど時間も経っていないと思うが」
「いえ、アナタが無くなって30年は経ちます。
お別れしたのも随分と昔に思えますが」
「ふむ……地上ではそれほど時が経っていたのか……。
俺もこちらへ来て何かしていたわけではないからな。
時間の感覚が狂うのも仕方ないかもしれん。
それはさておき……」
先代魔王はにやりと笑って魔王を見る。
「久しぶりに俺に抱かれてみないか?
こっちらにはろくな男がおらんでな。
久しぶりに貴様のしまり具合を味わいたいのだ」
「お断りいたします」
「はっ……?」
魔王の言葉に目を吊り上げる先代魔王。
「貴様……この俺に逆らうつもりか?」
「あなたに従う義理などない。
俺は自由になったんだ。
もうお前に身体を捧げたりはしない」
「ふんっ……そう言っていられるのも、俺が……」
「分かっていないようだからハッキリ言ってやる。
くそくらえだ、バカ野郎!」
魔王の言葉に、先代魔王はピクリと口元を動かす。
「貴様ぁ……この俺に歯向かうつもりか?」
「いえ、歯向かうつもりなどありません。
ですが……私を捨てたのはアナタの方でしょう。
さんざん慰み者にした挙句、他の男たちに色目を使い……。
先に裏切ったのはアナタの方だ」
「はっ!」
鼻で笑う先代魔王。
「俺がお前なんかにマジになると思うか?」
「少なくとも、最初はそうだったはずです」
「くくくっ……お前と言う奴は……。
本当に何と言うか……純な奴だな。
まぁ、いい。
断るというのなら仕方あるまい。
力づくで――
「待てよ!」
そこにルークが現れた。
「ルーク⁉ どうしてここに⁉」
「お前の後を追って来たんだよ!
なにあっさり吸い込まれてるんだよ、バカ!」
「なるほど、これが貴様の愛妾と言うわけか」
ルークをじっと見つめてほほ笑む先代魔王。
「なっ……なんだよ?」
「貴様を俺の奴隷にしてやる。
死ぬまで奉仕させてやるからそのつもりでいろ」
「はぁ? 死ねよ」
ルークは突然の宣言に腹を立て、殺意を露にする。
「くくく……血の気の多いこと。
まるで昔のお前のようだな、レイベルト」
「その少年に手を出さない方が良いですよ」
「俺が負けるとでも?」
「ええ、勝てると思っているのなら、
是非とも戦ってみてください。
2秒と持たないでしょう」
「何をバカな――
瞬間、ルークの剣が先代魔王の喉笛を切り裂いた。
「……⁉ ……っ!」
声にならない悲鳴を上げる先代魔王。
そのまま膝をついて崩れ落ちる。
「ふんっ、口ほどにもない」
「気をつけろルーク。
ここは黄泉の国だ。
住人たちは全て死者。
あの男とて例外ではない」
魔王はルークの傍に寄りながら言う。
「お前……あの男とどんな関係だったんだ?」
倒れた先代魔王の方を見てルークが尋ねる。
「さっきの話を聞いていたのか?
だとしたら話すことはもうない。
先ほど奴と交わした会話が全てだ」
「そうか……まだ戦えるか?」
「うむ、今のお前ほどではないとはいえ、それなりに強い。
だが……あの男を一撃で屠るだけの力はないぞ」
「大丈夫、俺がお前を守るから安心しろよ」
ルークはそう言って剣を構える。
「くくく……これは一本取られたな」
ユックリと立ち上がる先代魔王。
首元の傷は完全に塞がっていた。
「見ろ……奴の姿を。
どんなに傷ついたとしてもすぐに立ち上がる。
この世界の存在を殺すことはできん」
「聖属性の魔法なら?」
「貴様も余も魔王の呪いを受けている。
その系統の魔法は使えないと思うが?」
「ううん……」
状況はすこぶる悪い。
どんなに敵を倒しても、何度でも復活する。
早く脱出の手立てを見つけないと……。
「最後通告だ、レイベルト。
もう一度、俺の奴隷となれ。
その少年も俺に寄越せ。
貴様にしたように、奴隷として可愛がってやる」
「断る! これは俺の奴隷だ!」
「はぁ……やっぱり奴隷なのかよ……」
ルークは不満そうだ。
「うっ、そうだな……確かに奴隷はいかんかもしれん。
なら恋人と言うことで……」
「今更、おせぇよ……バカ」
「悪かった、今までのノリでつい言ってしまったのだ。
許してくれぬか、ルークよ」
「別に怒ってねーよ、バカ!」
「あの……俺を放って痴話げんかとかやめてくれない?」
困惑した様子で先代魔王が言うが、二人は止まらない。
「ばか! 本当にお前バカだよな!
少しくらい俺の気持ちを分かってくれよ!」
「分かっている、分かっているとも。
だからこうして謝っているだろうが!」
「そんなの謝った内にはいらねーよ! バカ!」
「まったく本当にしょうがないな、お前は……。
帰ったらちゃんと気持ちよくしてやるから許してくれ」
「こんなところでそんな話してるんじゃねーよ!」
二人はますますヒートアップしていく。
「あのぉ……ねぇ……俺のことなんだけど……」
完全放置された先代魔王。
しょぼーん。




