33 魔王様、死ぬ
「いたぞ! アレだ!」
魔王はドラゴンを発見した。
洞窟に潜り始めてから10分後のことだった。
「いや、早いだろ」
「途中で魔物に出くわさないように魔法を使ったのだ」
「虫よけのあれな」
「落石も全て魔法で防いだ」
「そもそも魔族ってトラップ無効だもんな」
魔王はルークをお姫様抱っこしてここまで連れて来た。
そのため、いくらトラップを踏もうが発動しない。
「余にはあらゆる耐性が付いているからな。
毒だろうが麻痺だろうが睡眠だろうが、
全ての罠が無効になるのだ!」
「ラスボスが状態異常になったら笑えるもんな」
「と言うことで、さっそく竜を倒していく。
ふはははははははは!」
「お料理するみたいに気軽に言うな」
目標の竜は巨大な穴の中で丸まって眠っている。
寝首をかけば簡単に首を取れるだろう。
「それではルーク、さっそく行ってこい。
戦う前にバフをかけてやろう。
ほーれほれ」
「…………」
「準備は整った。
勇者と魔王の力を手にした上に、
バフを限界までかけた貴様に敵う者はいない。
さぁ、奴の首を取って来い」
「……分かったよ」
ルークは剣を両手で構え、穴の中へ飛び込んでいく。
真下には竜の首。
アレを切断すれば……。
ぎょろっ!
そうは問屋が卸さない。
竜はすでに目覚めていたのだ。
がきいいいいいいん!
「なっ⁉ バリアだと⁉」
剣を振り下ろして首を切断しようとすると、どこかで見たことのある六角形の文様のバリアが現れた。この障壁を破らない限り敵を倒すことはできない。
「くっくっく、俺が気づいていないと思ったか?!
人の家に勝手に上がり込んでぎゃあぎゃあうるさ――
「えいっ!」
「ぎゃああああああああ! 何してんの⁉」
ルークは好きをついてバリアをの隙間から竜の身体をつつく。
爪と爪の間のデリケートなところを狙ったのだ。
「いや、バリアに隙間があったから……」
「お前本当に空気読めないな!
こういうのは名乗りを上げるまでまっ――ぎゃあああああ!」
何度もバリアの隙間を塗って攻撃するルーク。
竜もたまらず悶え苦しむ。
「ほっんとなんなの⁉
名乗りすら上げさせないって空気読めなくない⁉」
「詠唱中にも普通に攻撃するけど?」
「え? 何それ! こわい!
詠唱中は攻撃しちゃダメってルールでしょぉぉぉ⁉
もう怒った! 本気で怒った! 今から前を――
「えいっ!」
「ぎゃああああああああ! やめろって言ってんだろ!
あれ⁉ いつの間にかバリア消えてるし!
なんで⁉ どうし……あっ」
竜は上を見あえげる。
魔王がひそかに呪文を詠唱し、バリアを消したのだ。
「ふざけんな! マジふざけんな!
お前らずる過ぎるだろ!
本来このバリアは100万ダメージ与えないと――
「えいっ!」
「ぎゃあああああああああ! 目があああああああ!
え? 何したの⁉ お目目がじゃりじゃりするぅ!」
「砂投げた」
「え? 砂⁉ 勇者が砂投げるの⁉
まるで子供の喧嘩じゃん!
なにこれ⁉ ホントなにこれ⁉ マジなにこれ⁉」
ルークの繰り出す攻撃に混乱する竜。
かつてこんな汚い手を使う勇者がいただろうか?
「いいぞ! 俺の教えた攻撃方法が効いているな!」
高みの見物を決め込む魔王。
にやにやと意地悪い笑みを浮かべている。
「お前かっ! こんな汚い手を教えたのは!」
「はっはっは! その通りだ!
今のルークは地上最強。
その最強の存在に必勝法を教えれば、
貴様のような竜であってもイチコロよぉ!」
「いくら何でも酷すぎるだろ!
ラスボス戦で砂投げる勇者が何処にいるんだよ!」
「何を言っている。
戦いに卑怯もくそもない。
勝てばよかろうなのだぁ!」
「くっそ! こいつっ!」
さすがの竜も激怒り。
このままでは頭の血管が切れそうだ。
「なぁ、もう首落としてもいいか?」
「構わん、さっさとやれ」
「分かった」
「ねぇ! さっきから何なの⁉
まるでお魚の首を落とすみたいに言わないでくれない⁉
そんなにあっさり殺さないでよ!
俺、この話のラスボスだよ⁉」
「「さっきから何言ってるか分からない」」
「分かれええええええええええええええ!」
渾身のメタ発言を一蹴され、もはや打つ手なしの竜。
このままでは単なるギャグシーンで終わってしまう。
何としてもラスボスとしての矜持を保ちたい。
そう思った竜は……。
「畜生……こうなったら最後の手段だ!
竜の宝玉を使った――
「えいっ!」
「ぎゃああああああ! 今度はなんだ⁉
辛い! お口が辛いよぉ!」
「タバスコとからしとワサビ混ぜた瓶を口に入れた」
「ほんっと最後まで酷いなお前ら!
ごほっ! がはっ! もういい!
説明とか全部カット! くたばれクズども!
異界門!」
竜が叫ぶと、どこかで何かがはじける音がした。
きっと竜の宝玉とやらが砕け散ったのだろう。
「おい! どうなるんだ魔王!」
「大丈夫だ、きっと何も起こらない。
どうせ最後の悪あがき――ぬわああああああああああ!」
突然、竜の頭の上に黒い球体が発生したかと思うと、あたりの物を勢いよく吸い込み始めた。
気を抜いていた魔王はうっかりその中へ吸い込まれてしまう。
「まおおおおおおおおおおおおおおお!」
ルークの叫び声が洞窟内にこだまする。




