27 魔王様、大活躍!
「魔王様! 大変です!」
玉座の間に報告が入った。
監視モニターを観察するオペレーターからアナウンスが入る。
どうやらルークが危ないらしい。
魔王はすぐさま魔法で映像を映し出す。
ルークとマナ、倒れたオークのおばちゃん。
そして得体のしれない男。
危機的状況にあることは明らかだった。
「おっ……おばちゃあああああああああん!」
魔王が真っ先に心配したのはおばちゃんの方。
ルークはまだ怪我をしていない。
実は魔王。
ルークのことはあんまり心配していなかったりする。
なぜなら……あの文様には仕掛けがあるからだ。
あの文様は、魔王の器たる者の証。
行動を制限すると同時に、力を与える。
勇者の力は使えないルークだが、すぐさま殺されるということはない。
まだ少しの間は大丈夫だろう。
マナもルークが守るだろうから……。
しかし! おばちゃんは別!
彼女のことは誰も守ってくれない!
「すぐに救護班を呼べっ! 現場に向かわせろ!」
『はっ! 了解しました!』
魔王の声を拾うアナウンス。
彼女は城内の人員に的確に指示を出す。
『魔王様はいかがされますか⁉』
「俺は直接奴を討伐しに向かう!
手出しは無用だ!」
『ええっ……』
魔王は玉座の間を飛び出し、両手を組んだ姿勢でめっちゃ早く走る。
足が速く動きすぎて残像しか見えない。
映像から確認した勇者の風貌から、今回来襲したのは特殊型のサイコキラーだろう。
あの手の輩は何度か相手をしたことがある。
問答無用で殺しても心が痛まないので気楽でいい。
しかし、犠牲が出るのは困る。
なんとしてでもおばちゃんを……。
「うがあああああああああああ!」
ルークの悲鳴。
どうやら近くにいるらしい。
「ルーク! どこにいる⁉」
「魔王⁉ いるのか⁉ 俺はここだ!」
ルークが呼びかけに応じた。
声のした方へ向かうと……防勇者扉が壊されていた。
あたりにはスケルトン兵の残骸が散らばっている。
壁に開いた穴の向こうで、髪の長い男がルークの胸倉をつかんでいた。
「そいつから手を放せ! この慮外者!」
「あ゛っ⁉」
魔王の言葉に反応し、ぎょろりとこちらを見る勇者。
明らかにまともな精神状態ではない。
何かしら薬物を摂取しているのだろう。
まぁ……勇者にはよくあることだ。
不安を消そうとして薬に手を出すものも多い。
ルークはそう言ったものに手を染めず、ここまでよく頑張った。
「その手を放せ、これは警告である」
「てめぇが魔王か!
こいつが大切なのか?
んなら、人質にするぜ!」
ルークの背後に回り、彼の首筋に刃を近づける勇者。
へらへらと笑っている。
「ばかああああああ! はなせええええええええ!」
マナが顔を真っ赤にしながら涙をこぼし、全力で叫んでいる。
怖いだろうに……ルークを放っておけないのか。
ルークの顔には殴られた跡があった。
口元には血が垂れた跡もある。
おそらく、マナを守ろうとして勇者と戦ったのだろう。
まったく……俺の大切なものをこんな風に……。
魔王は珍しく怒った。
両手の拳を強く握りしめる。
「人質をとったところで、状況は変わらん。
これは最終警告だ。
今その二人を解放すれば、お前を赦してやる。
二度と言わんから心して答えよ」
「あっ⁉ 何言ってんだおま――
バシュっ!
音もなく、勇者の首が吹っ飛ぶ。
魔王は瞬時に移動して彼の首を手刀で刎ねたのだ。
「え?」
噴き出す鮮血を頭からかぶり、驚愕して固まるルーク。
何が起こったのか分からず目をぱちくりさせている。
力を失った勇者の身体は仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
アンデッドとして復活しない限り、この身体は腐って土に還るだけだ。
「るうううううううぐうううううううううう!」
泣きわめくマナがルークの胸に飛び込む。
彼は優しくその身体を受け止めて抱きしめていた。
「おばちゃん! しっかり!」
「うーん……」
魔王が倒れていたオークのおばちゃんに呼びかけると、彼女はゆっくりと身体を起こした。
「はぁ……やられちゃったね。
傷はそんなに深くないから大丈夫かもね」
「何を言っている! 手当てが必要だ!
労災はこっちで申請しておくから!
休養中は全部、有給つけておくからね!」
「いや……こんな傷、二、三日治すれば治りますよぉ」
「なおらない! なおらないから!」
魔王は必死に彼女を説得する。
放っておいたら明日にでも職場復帰しそうな勢いだ。
それから少しして、救護班が到着。
怪我をしたオークのおばちゃんを連れて行った。
マナはステファニーが迎えに来た。
幸い、どこも怪我をしていなかったらしい。
孤児たちも無事だという。
「はぁ……良かった」
ため息をつくルーク。
背中を壁に預け、力なく座り込んでいる。
「お前は大丈夫なのか?」
「別に平気だよ。
多分、この文様のせいじゃないのか?
殴られてもあんまり痛くなかった」
文様はその持ち主を守るように作用する。
勇者が彼を殺していなかったのは、単に文様の力で守られていたからだ。
「とりあえず、お前にも治療が必要だろう。
特別に俺が見てやるから……」
「いい、ほっといてくれ」
「…………」
にべもなく、軽くあしらわれてしまう。
しかしここで引くわけにはいかん。
「黙れ、貴様は余の奴隷だ。
奴隷は主人の言うことを聞かねばならん。
特別に時間を作ってやるから、
この後、二人っきりで過ごそう」
「……え?」
意外そうに魔王を見上げるルーク。
その表情に嫌悪感はなく、むしろ期待に満ち溢れていた。
「さぁ、行くぞ。手のかかる奴だ」
「え? 何すんだよ……放せって……うわぁ!」
ルークを抱きかかえる魔王。
お姫様抱っこである。
「はっ……放せよ! 恥ずかしい!」
「うるさい! 黙れ!」
「いっ……いやだこんなの!」
「暴れるな!」
じたばたと暴れるルークだが、魔王の力にはかなわない。
大人しくお姫様抱っこされることになった。
「あらやだ……かわいい!」
「ほんとねぇ……」
「…………」
魔王にお姫様抱っこされる姿をオークのおばちゃんたちに冷やかされ、顔を真っ赤に染めるルーク。
そんな彼を見て、魔王はとっても満足するのであった。




