26 勇者君、ヤベー奴と遭遇する
「ルークよ、勇者には何タイプかいるのだ」
少し前に魔王が解説してくれたことがある。
勇者のタイプによって対策が異なるそうだ。
まず無双型。
これが一番多い。
無双型はとにかくたくさん敵を倒すことに執着する。
そのため、できるだけ兵士を大量に配置して、気持ちよく勝たせて誘導するらしい。
無双型の中にもタイプがあって、脳筋型と魔法型がいる。
脳筋型は筋肉で敵を圧倒するタイプ。
接近戦を特に好む。
魔法型は高火力、高威力の魔法で敵を倒す。
実はこちらも接近戦を好む。
遠くから攻撃するタイプは無双型に分類されない。
どちらの方も接近戦を好むので、兵士で釣って落とし穴で地下迷宮へ。
地下迷宮には兵士を一人も配置せず、トラップも仕掛けない。
ただ延々と迷路をさ迷わせるだけ。
定期的に道順も変化するので脱出は困難。
仲間がいても一人だけ落とし穴に落とせば簡単に孤立させられる。
無双型は孤独に弱いので、敵が出てないと寂しくて死んでしまう。
三日ほどでギブアップして敗北を認めるという。
無双型の対処は簡単だが、それ以上に厄介なのは隠密型。
彼らは暗闇に紛れて領内に侵入し、ひそかに魔王の命を狙うという。
どちらかというと今はこのタイプが主流。
隠密型にはトラップや誘導兵士は役に立たないので、正攻法で戦う必要がある。
そのため、特に対策を取らずにさっさと魔王の間へ案内してしまうのが一番だとか。
あちこち探られると面倒なので、正門のすぐ近くに臨時の魔王の間を設置して、そこで迎え撃つこともあるという。
また下水道を通って来る場合もあるので、マンホールの近くて待機することもあるのだとか。
魔王城へ着いたらいきなりラスボス登場。
隠密型にはこの対応が一番効くらしい。
なぜなのか、詳しくは知らない。
ルークは無双型でも、隠密型でもなく、正攻法で攻める王道型だという。
無駄な戦闘は避けるが、別に隠れたりはしない。
魔王曰く、一番厄介な相手らしい。
どう厄介なのかは教えてもらわなかった。
別に聞こうとも思ってなかったし。
勇者の中には、どのタイプにも当てはまらない例外が存在しているという。
その例外のうちの、さらに例外。
勇者と呼べるかどうかも分からない、イレギュラーな相手。
それが……殺戮のみを目的としたサイコキラー型。
対応のしようがないとか。
ごくまれに現れ、宝箱も、床に落ちたコインにも目をくれず、弱い魔族だけを執拗に狙って殺しを楽しむのだという。
そんなやつがたまーに、本当にたまーに魔王城へやって来る。
サイコキラー型はとにかくさっさと殺すしかない。
それ以外に対応策はないと言う。
できればもう二度と相手をしたくないと、らしくもなく魔王がぼやいていた姿が記憶に残っている。
目の前にいるのは、その例外。
ルークは瞬時に理解した。
「おいおい……なんで人間のガキがいるんだぁ?
ここは魔王城だろ?
お嬢ちゃん、そいつらは危険だ。
二人で一緒にこっちへおいで」
壁の向こう側にいる何者かは、穴から腕を差し込んで手招きをする。
どうやら相手はルークを女の子だと思っているらしい。
「早く逃げな! こいつヤバいよ!」
オークのおばちゃんが小声で言う。
彼女も敵のヤバさを理解したらしい。
「おばさんはこの子を連れて早く逃げて!」
「なに言ってんだい! アンタの方こそ逃げな!」
「でっ……でも……」
「大人の言うことはちゃんと聞くん――
どがああああああああああああああああん!
防勇者扉が大きな音を立てて崩壊。
向こう側にいた人物の姿が明らかになる。
黒い髪を垂らして顔を隠した男。
前髪の間から瞳が見える。
整っていない無精ひげに、返り血で汚れた鎧。
そして……ボロボロにさび付いた剣。
明らかに勇者という風貌ではない。
「そうか……お前らは魔王の仲間かぁ……。
かーっ! 仕方ねぇなぁ!
人間を殺すのは気が引けるけどよぉ!
かーっ! 魔王の仲間なら仕方ねぇ!
殺すしかねぇよなぁ!
そっちのちっこいのも合わせてよぉ!」
そう言って男は剣先をマナへと向ける。
「こっ……この子たちには指一本――
「じゃまだぁ!」
「がっ! えっ……」
男が剣を振るうと、オークのおばちゃんがもっていた槍が真っ二つに。少し間を置いてから胸元から勢いよく血しぶきが飛び散る。
「おばちゃあああああああああん!」
ルークが叫んで呼びかけるも反応がない。
彼女は前のめりに倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
「けっ、オークごときが調子に乗りやがって……」
男は倒れたオークのおばちゃんの身体に唾を吐きかける。
「んで……次はお前らの番だけどよぉ……お前、男か?」
「だったらなんだ!」
虚勢を張るルーク。
スカートの端をマナがぎゅっと握ってしがみつく。
「お前……俺の好み。ちょー好み!
沢山楽しめそうだ……」
にやりと笑う男。
背筋に冷たいものがはしった。




