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25 勇者君、みんなと一緒に避難する

「はーい、みんな付いて来てねー!」


 ステファニーの誘導に従い、孤児院の子供たちが避難を開始する。

 魔王城の地下にはシェルターがあり、そこにこもって勇者をやり過ごすと言うのだ。


 ルークは子供たちの後をとぼとぼとついて歩いた。


 本当だったら魔王と一緒に戦いたい。

 けれども今の自分には戦う力など何もない。

 普通の男の子と同じくらいの力しか……。


 せいぜい、一発殴るくらいが関の山だろう。


 ふと、自分が魔族側になって戦おうとしていることに気づく。

 どうして魔王なんか助けなくちゃいけないのだ。

 あいつが死ねばこの呪いも……。


 へその下をそっとさするルーク。


 この文様は魔王との繋がりを示すもの。

 失えば二人の関係はたちまち途切れる。

 それは嫌だなと思いながらも……素直にその繋がりを肯定できていない自分に気づく。


 ああ……俺はアイツを愛してしまったんだろうか。


 ぼんやりと彼を思うルークだった。

 自分の気持ちがいまいち理解できないでいる。


「はーい! ここから中に入ってねー!」


 ステファニーが案内したのは、地下へ続くヒミツの入り口。

 床下収納に見せかけたナイスな隠し扉だ。


 床の扉を開くと、そこには調味料などが入れられるナイスな収納。

 その収納の籠をひょいと持ち上げると、地下へ続く階段が姿を現した。


 子供たちはステファニーの誘導に従い、ゾロゾロと階段を下りて行く。

 先頭の子がランプを持って降りて行くと、小グループに分かれた子供たちがリーダー係の子に従い、一塊になって下りて行く。

 小さい子が混乱しないようにする仕組みらしい。


 子供たちまでしっかりと集団行動できているさまを見て、魔王軍の質の高さを実感。

 人間たちに同じことができるだろうか?


「せんせー! マナちゃんがいませーん!」

「え⁉ うそっ!」


 年長の子供が言うと、ステファニーは顔を青ざめさせる。


「どっ……どうしよう⁉」

「俺、探しに行ってきます」

「待ってルーク君!

 迎撃態勢中の魔王城はとっても危険なんだよ!

 それは君もよく知ってるでしょ⁉」

「だから俺が行くべきなんです。

 一応これでも元勇者ですから。

 トラップくらいなんてことないですよ。

 それに……」


 あの子を死なせたくなかった。

 マナを救うのは自分に課せられた試練だと思う。


 ルークは逃げずに戦う覚悟を決めた。


「……相応の覚悟があるんだね?」

「はい」

「分かったよ、後で他の警備の人たちにも連絡しておくから。

 でも……油断しちゃだめだよ。

 勇者って本当に何するか分からないからね。

 あいつら、人間でも平気で……って、ごめん」


 はっとして口を手でふさぐステファニーだが、ルークは気にしていない。


「いいんです、言っていることは正しいと思います」

「ルーク君みたいな勇者は嫌いじゃないよ。

 気を付けて……ね。

 マナちゃん、多分トイレにいると思う」

「分かりました!」


 ルークはさっそく近くにある女子便所へと向かった。




 場内は勇者を迎え撃つべく、物々しく様変わりしていた。


 床の一部に穴が開いて、底には針山やマグマ。

 天井には監視用の目玉の化け物(名前を言ってはいけない!)が張り付いて辺りを見回し、あちこちにゴーレム兵やアンデッド兵の姿が確認できる。


 どうやら、できるだけ死者を減らすために、倒されても復活できる種族だけで守りを固めているらしい。

 これも魔王の計らいなのだろうか?


「ルークくん! ルークくんったら!」


 誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 そちらを見ると、オークのおばちゃんが手招きしている姿が見えた。

 彼女の足元にはマナがいる。


「マナ! 見つけてくれたんですか⁉」

「一人でトイレに行ってたら置いてかれちゃったんだって!

 早くみんなの所へ連れて行ってあげて!」


 よかった……心の中で安堵するルーク。

 予想よりもずっと早く発見できた。


「すみません! ありがとうございます!

 あっ、でもおばさ……お姉さんは避難しなくてもいいんですか?」

「あらやだよぉ、ルークくんったら……。

 おばちゃんに気を使っちゃってぇ。

 かわいい子だよ、本当に」


 嬉しそうににんまりとするオークのおばちゃん。

 やっぱりオークだから笑うと怖い。


「おばちゃんはね、これが仕事だから。

 勇者が現れたらとっちめてあげる!」

「でっ……でも……」

「心配してくれるなんて、優しいねぇ。

 ルークくんのお仕事は、マナちゃんを無事に……」

「勇者だああああああああ!

 勇者がでたぞおおおおおおお!」


 話の途中で誰かの声が聞こえて来た。

 見ると、何人ものスケルトン兵が廊下に集結し、武器を手に身構えている。

 どうやら向こうの方から勇者が近づいてきているらしい。


「いけない! すぐに防勇者扉を閉めないと!」


 オークのおばちゃんは壁にある丸くて赤いスイッチをぽちっとな。

 すると天井から分厚い壁が降りて来て廊下を完全にふさいでしまった。


「ほらっ! 早く逃げて!」

「でも壁が……」



 どがああああああああああああああああん!



 壁に穴が開いた。

 向こう側から誰かがこちらを覗き込んでいる。


「みぃつけたぁ」


 ねっとりと絡みつくような声。

 明らかにまともではないと分かる。


 これが……勇者なのか?

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