24 勇者君、手のひらで踊らされていたことに気づく
『勇者警報発令! これは訓練ではない!
繰り返す! これは訓練ではない!』
先ほどから城内のアナウンスが鳴り響いている。
その切羽詰まる様子から、ただ事ではないと分かる。
「なぁ……こんなに大げさにする必要あるのか?
さっきから変なBGMが流れてるし……」
城内ではアナウンスと一緒に、重低音のドラムと共に軽快なBGMが流れている。
なんだかとても決戦したくなる気分。
「馬鹿者! 勇者の襲来は一大イベントだ!
これから忙しくなるぞ!
ガルスタ! すぐに防衛システムを起動させろ!」
「はい! かしこまりました!」
ガルスタは敬礼して部屋を出て行く。
「防衛システム?」
「ちょうどいい、見せてやろう」
魔王はそう言って手のひらに魔法陣を錬成。
すると、魔法陣にある映像が浮かび上がる。
うぃいいいいん……
床に穴が開いて、そこから宝箱がせり上がってくる映像が見えた。
「宝箱? これが防衛システム?」
「うむ、宝箱で勇者を誘導して時間を稼ぐのだ。
奴らが中身に気を取られている隙に、
場内で働く者たちの避難を完了させる」
「え? 宝箱にそんな効果が⁉」
思えば、ルークが魔王城へ来た時。
やけに貴重な品が入った宝箱が、これ見ようがしにあちこちに配置されていた。
あれは勇者を誘導するためのデコイだったのか⁉
「ああ……勇者たちは宝箱に目がないからな。
ひとつ見つけると、次も次もと宝箱を求め、
無駄に探索を続けるのだ。
貴様も片っ端から部屋を調べて回ったと思うが?」
「…………」
心当たりがありすぎる。
確かに彼の言う通り、城のいたるところを探索した記憶がある。
そのおかげで魔王の所までたどり着くのに丸一日かかった。
「宝箱は最もシンプルかつ低コストな誘導剤。
どんな勇者も欲望には抗えんのだ」
「でも……宝箱だけじゃ……」
「ああ、そうだな。
他にも色々とトラップを仕掛けた。
たとえば……」
映像が切り替わる。
こんど映し出されたのはピカピカに光る床。
「ダメージ床。
これは勇者たちもできるだけ避ける。
しかし、この床のある先にも宝があるのではと、
彼らは変に期待してしまうようだ。
なのでどうでもいい場所にあえて設置する」
「…………」
こちらも心当たりがあった。
無駄にダメージを食らいながら、宝箱を探した記憶がある。
「ダメージ床の先に貴重品を設置しておけば、
彼らはますます探索に躍起になる。
これも誘導テクニックの一つだ」
「トラップだけで殺せそうだな」
「うむ、雑魚だけならトラップで十分。
しかしながらそれだけでは奴らの進撃を止められない。
そこで役に立つのが……」
次に映し出されたのは、淡い光を放つ床。
心を癒すような優しい光があふれ出している。
「ここは勇者たちにとっての癒しの場所。
ここでテントを張ればゆっくりと休める。
そう言う設定になっている」
「え? 設定?」
「余の部下たちに命じて、
ここにいる時だけは手を出さないようにさせている。
そうすると、勝手に安全地帯だと思い込んで、
無駄に長居するようになるのだ」
「…………」
やはり心当たりがあるルーク。
何も言えずにいる。
「このような工夫により、
勇者たちの誘導にかかるコストは大幅ダウン。
およそ70パーセントのコストカットに成功した」
「そうなんだ、すごいね」
「ああ……この手法が確立する前は、
無駄に死人を出していたからなぁ。
ちなみに城内の守りはアンデッドとゴーレムに任せている。
あいつらは殺されても復活できるからな」
「…………」
やけに魔物の種類が偏っているかと思ったら、全て魔王の作戦だったとは。
ルークは今の今まで気づかなかった。
「なんだ……さっきから黙って」
「いや、別に」
「言いたいことがあったらはっきり言え。
何か不満でもあるのか?」
「不満なんてねぇよ!」
魔王の手のひらで踊らされていたと分かって、プライドが傷ついたルーク。
とってもご機嫌ななめなのである。
「何を怒っているのだ……。
まぁ、そんなことよりも、貴様も早く避難をするのだ。
今の貴様は戦闘力5のゴミだからな。
勇者が襲ってきたら殺されてしまう」
「勇者は人間を殺したりしないだろ」
「男のくせに女もののメイド服を着ている貴様は、
魔物と見間違えるくらいに変態だと思うが?」
「……っ!」
さすがに我慢ならなかった。
「うるせぇ! ばか! しね!」
ルークは怒って部屋を飛び出した。
「余は玉座の間に行っているから、
貴様は早く子供たちと避難するんだぞー!」
魔王が心配して声をかけてくれたが無視する。
今のルークは怒り心頭なのであった。




