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23 勇者君、魔王にドン引きする

「なっ……なんだよこれ……」


 その部屋にあったのは、緑色の液体で満たされたガラスケース。

 円柱状の大きなケースの中には、いくつものコードが垂れ下がっていた。

 その先端には何も接続されておらず液体の中をふよふよと漂っている。


「…………」


 ガルスタは何も答えない。

 近くにあった装置を指でつつくと、部屋に置かれていた機材が光り出した。



 ぶぅぅぅぅぅううううううん……。



 虫が羽根を鳴らすような音が聞こえたかと思うと、部屋が次第に明るくなっていく。

 機材から放たれる青い光が部屋を照らし出したのだ。


 真っ青に染まっていく小さな部屋。

 床や天井にもたくさんのコードが張り巡らされている。


 いったいこれは……何を保管する装置なのだろうか?


「おい……これって……」

「魔王様を保管する装置だ」

「……は?」


 魔王を保管する?

 意味が分からない。


「いや……何言ってんだよ」

「まぁ、簡単には受け入れられんだろう。

 この装置が実際に使われているところを目にしない限り、

 ただのガラクタの寄せ集めにしか思えんだろうて」

「なぁ、はぐらかさないで教えてくれよ。

 これは、何を、どうする機械なんだ?」

「…………」


 ガルスタは無言でルークを見つめる。


 本当に分からないのかと、バカにしているような目だった。


「なっ……なんだよ」

「本当は分かっているはずだ。

 いや――分からないふりをしているだけか」

「わかんねぇよ! ハッキリ教えてくれよ!

 なぁ! これは何をするための装置なんだよ⁉

 あいつのことをどうしようと……あっ」


 ルークは一つの答えを導き出した。


「まさか……この容器の中にあいつを?」

「その通りだ、ルーク。

 これは強制的に魔王様を生かし続けるための、

 生命維持装置なのだ」

「そんな……」


 言葉を失うルーク。


「魔王様は、魔王としての役割を貴様に託し、

 肉体が朽ちる前にこの装置の中に入って、

 この国を永遠に見守り続ける覚悟なのだ。

 あのお方がいれば、この国は今の形を保てる。

 平和な時代がとこしえに続くのだ。

 だから――」

「そんなこと許されるのかよっ⁉」


 思わず大きな声を出してしまった。


「ふざけんなよ!

 あいつを犠牲にしてお前らは呑気に過ごそうってのか⁉

 死ぬことすら許さないで……!

 こんな得体のしれない物の中に閉じ込めて!

 お前らは満足なのかよっ⁉」

「わしだって本当はこんなことしたくない。

 だがな……あのお方は自分で……」

「そこで何をしているっ!」


 勢いよく扉が開け放たれる。

 そこにいたのは……魔王!

 その人!


「おい! これはどういうことだ⁉」

「ルークよ……ついに見つけってしまったか。

 まぁ、もとより隠すつもりはなかったが……」


 魔王はルークの傍に寄って、そっと肩に手を置く。


「余のために憤ってくれているのだな。

 その気持ちは嬉しい。

 だが……」

「うるせぇよ! この馬鹿!」


 ルークは魔王の手を払いのけた。


「お前、バカじゃねーの⁉

 こんな分けわかんねぇ機械で無理やり生かされて、

 それで満足なのかよ⁉

 自分の意思で死ねなくなるんだぞ⁉」

「もとより覚悟の上だ。

 この国が亡びるよりもずっといい」

「そもそも何で魔王の文様を移す必要があるんだよ!

 お前が魔王を続ければいいじゃねぇか!」


 ルークがそう言うと、魔王は深くため息をついた。


「できることなら、余もそうしたい。

 だが……どうしても肉体がもたんのだ。

 この身体が朽ちる前に、文様を貴様に受け継がせねばならん。

 完全な形でな……」


 魔王はそう言って上着をはだけさせ、へその下あたりを露出させる。

 そこにはルークと同じ形の文様が刻み込まれていた。


「これは魔王の証。

 いや……この文様そのものが魔王と言うべきか。

 かつてこの世界に存在していた邪神。

 奴が忠誠を示す証として下僕に与えたもの。

 魔王の名を冠する者たちによって受け継がれ、

 今は余の身体に刻み込まれている。

 貴様のは……まぁ、下準備みたいなものだ」

「なんで俺が魔王に選ばれた?」


 ルークの問いに、魔王は肩をすくめる。


「余のタイプだったから」

「え? それだけ⁉」

「ああ、それだけだ。

 ちなみに先代も顔が好みだったからという理由で、

 多大なる犠牲を払って余を捕えて次世代の魔王に選定した。

 今となっては彼の気持ちもよく分かる。

 好みでもない相手とことを致すなど考えたくもないからな」

「…………」


 そんなくだらない理由で選ばれた?


 ルークは例えようのない怒りを感じて、身を震わせる。


「おっ……お前ぇ……」

「そう怒るな、ルークよ。

 余もつらかったのだ。

 敗北したと思ったら、素っ裸にひん剥かれ、

 無理やり身体を拘束されて、あれやこれや。

 ああ……思い出したくもない」


 そう言いながらうっとりした表情を浮かべる魔王。

 ルークは気持ち悪くて鳥肌が立った。



 ううううううううううううううううううう!



 突然、サイレンが鳴り響く。


「え? 何だよこの音⁉」

「勇者警報だ」

「え? 勇者警報⁉」

「うむ、勇者が来襲した時は、

 この警報が鳴らされることになっている」

「ってことはつまり……」

「新たな勇者が攻めてきたのだ」


 魔王は割とマジで真剣な顔をして言った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >「余のタイプだったから」 シンプルでいい理由~!
[良い点] 追いついた。 魔王の真相、そういうことだったのですね。 人間の国にいたとしても政治手腕で上に行けそう。 ルークの気持ちの揺れもいいですね。 さあて勇者警報が響く中、彼らはどんな選択をするの…
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