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22 勇者君、真相にたどり着く

「この文様……ただの呪いじゃないんだろ」


 ルークは挑むような視線をガルスタへ向ける。


「ふっ、察しの通り。

 だが……わしの口から仔細を語るわけにはいかん。

 貴様が勝手に自分の考えを述べる分には構わんが」


 ガルスタはそう言って小ばかにしたように笑う。


 ここはひとつ、ずばり真相を言い当てて彼を驚かせてやろう。

 それしか真偽を確かめる方法はない。


「この呪い……てゆーか文様は……。

 魔王から直接受け継がれるものなんだろ。

 だったら……この文様を持つ者こそが、

 魔王として認められるんじゃないのか?」

「……どうしてそう思う?」

「それは……」


 ルークは入浴中に魔王がタオルを取らなかったことを思い出した。


「あいつにも、ここと同じ場所に同じ文様があるはずだ。

 それを隠すためにあいつは俺の前で裸にならなかった」

「ふむ……実際に目にしたわけではないのだな?」

「確かめる必要は無いと思う。

 アンタのその反応から正解だって分かるからな」

「なるほど、ただの子供とは違うようだ。

 勇者としての素質を持つだけあって頭も回る」


 そう言いながらも、ガルスタはどこか小ばかにしたようにルークを見ている。


「だが……魔王様に同じ文様があったところで、

 文様を受け継いだものが魔王になるとは限らんだろう。

 その根拠は?」

「あいつが執拗に身体の関係を迫るのは、

 この文様を受け継がさせるために必要な行為だからだ。

 アンタがこの前、俺にしゃべった内容からそう推測できる」

「ふむ……」


 目を細めるガルスタ。


 彼は以前に、魔王との行為がすでに終わっているかどうか確認していた。

 それはつまり……性交渉が魔王を存続させるために必要な儀式であることを意味する。


「あんたが言っていた、世継ぎを孕ませるっていうのはつまり、

 俺があいつから文様を継承して魔王になるってことだろう。

 だから魔王”は”助かるなんて言い方をしたんだ。

 ――違うか?」

「ああ、その通りだ。大した名探偵だよ、まったく」


 ガルスタはうんざりした様子で肩をすくめた。


「ってことはつまり、あいつは人間なんだろ?

 そして――」


 ルークは鋭い視線をガルスタへ向ける。



「あいつも――勇者だった」



 ルークの言葉に、ガルスタは何も答えない。

 その沈黙が肯定を意味していることは明らかだった。


「60年前に先代魔王と戦った伝説の勇者。

 それがあいつの正体だ」


 ルークはきっぱりと断言する。

 明確な証拠があるわけではないが、ほぼ確信している。


「その通りだ。

 あのお方のお名前はレイベルト・ウィンガー。

 最強の勇者として恐れられていた男。

 だがまぁ……先代には敗北したわけだが」

「…………」


 観念したガルスタは、ようやく真相を口にする。


 レイベルトという名前については聞き覚えがある。

 勇者の中の勇者として知られる、伝説的存在。

 ルークが生まれるよりもずっと前に存在していた、歴代勇者の中でも最強と目される人物だ。


 まさか歴史上の人物と実際に顔を合わせることになろうとは……。


「あいつのつのは……偽物とか?」

「うむ……」


 ガルスタは頷いて肯定した。


 魔王が髪を洗う時に触るなと言っていたのは、偽物の角が取れてしまうことを恐れたからだろう。

 今思い返すと実に分かりやすい。


「なんで……なんであいつは魔王なんかに?

 俺みたいに無理やり従わされたわけじゃないんだろ?」

「どうしてそう思う?」

「それは……」


 彼の働きぶりを見ていれば分かる。


 魔王は自らの意思で、民のために身を粉にして働いていた。

 決して誰かに命令されて動いていたわけではないだろう。


「あいつは心の底から魔族たちを愛していた。

 いや……魔族だけじゃない。

 人間も同じように愛していた。

 あのマナって子や俺のことも大切にしてくれた。

 だから……」

「お前の言う通り、魔王様は世界を救おうとしている。

 終わりのない人間と魔族との戦いに終止符を打ち、

 混沌に満たされた世界に平穏をもたらそうとしている。

 全てあのお方の意思だ。

 しかし……」

「時間が足りない」


 ルークの言葉に頷くガルスタ。


「うむ、察しの通り、魔王様のお身体はそう長くはもたん。

 文様の力によって肉体の老化はある程度軽減されるが、

 60年も経てばさすがに限界を迎える」

「あいつ、本当は何歳くらいなんだ?」

「80は越えているはずだ」


 本来ならばよぼよぼの老人。

 彼の容姿は30代前後くらいにしか見えない。


 文様の力をもってしても、寿命の延長は難しいらしい。


「でも……文様を移して俺が魔王になったら……。

 あいつはどうなるんだ?

 助からないだろ」

「ああ――そのまま放置すれば助からない。

 だがまぁ、対策はすでに考えてある」

「対策?」

「ついてこい、見せてやる」


 ガルスタは研究室の奥へとルークを案内する。

 そこには頑丈に閉ざされた鉄製の扉があった。


「この中に、ある装置が保管されている。

 文様を移したあと、

 魔王様の肉体はそこに保管されることになっている」

「……保管?」


 あまり良い予感はしない。

 はやる気持ちを押さえながら、ルークは鉄の扉を開いた。


 そこには……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >それを隠すためにあいつは俺の前で裸にならなかった そういうことか! これはうまい! >だから魔王”は”助かるなんて言い方をしたんだ。 そういうことかそういうことか!
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