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21 勇者君、魔王の過去を探る

 その部屋には明かりなどはなく、司書のおねぇさんが持つランプだけが頼りだった。


 暗い場所での行動には慣れているので、特に問題はない。

 なんなら全く光が無くても普通に動ける。

 視界を閉ざされたとしても空間の把握は可能なのだ。

 ……勇者だからね(元だけど)


「ささ、こちらですよ」


 急にシリアスな雰囲気を醸し出す司書のおねぇさん。

 猫耳がピコピコ動いている。


 彼女の案内した先には、大きな格子状の棚があり、そこにいくつものスクロールが保管されていた。

 どうやらこれが魔王の過去について記した書物らしい。


「あの……どれを見たら……」

「とりあえずこれを」


 棚の中からスクロールを一束引っこ抜いて、ルークに差し出す司書。

 それを受け取り、近くにあったテーブルに広げる。


 ほこりがうっすらと積もっていたので、軽くむせこんでしまった。


 その記録には……。




 60年前。

 人と魔族は戦争をしていた。


 複数の国家が絡む大戦争。

 大勢の死者が出た。


 人間の先頭に立っていたのは一人の勇者。

 緑色の髪をしたその少年は、幼いながらも鬼神のような強さを誇り、何人もの魔族を葬って来た。


 対する魔王も負けてはおらず、勇者と正面からぶつかり合い、一進一退の攻防を繰り広げる。


 およそ1年に及ぶ死闘の末、突如として勇者が姿を消し、人間側の陣営が崩壊。

 戦争は魔族側の勝利に終わる。


 先代の魔王は、後継者として今の魔王を連れて来た。

 自分の後継ぎとして民衆に発表。

 どこの馬の骨とも分からぬ子供に政治を任せるのかと、当時は大いに反発を受けたという。


 それから30年ほど。

 少年だった当時の現魔王は各地に赴いて改革を断行。

 抵抗する貴族たちを力で馴染伏せ、領地を収奪。

 全ての領地を魔王直轄領とした。


 改革を進めた現魔王は、あらゆる抵抗勢力との政争に打ち勝ち、みごと魔王としての地位を勝ち取った。


 ……ということらしい。


 記録を読んでみたが、どうも腑に落ちない。

 現魔王はどこから連れてこられた?


「……分からない。

 もっと詳しい記録はないんですか?」

「それではこちらを」


 さっと別のスクロールを差し出す司書。

 ルークはさっそく机の上に広げる。




 現魔王が即位してすぐに、先代は病に倒れて崩御してしまう。

 国民はその死を嘆いたが、現魔王はそんなことお構いなしに改革を続行。

 この国の制度を根本から作り替え、まったく異なる社会体制を構築。

 安定した食料生産ができるようになり、税収も右肩上がり。

 インフラを整備したことで治安は安定。

 平均寿命も飛躍的に伸びた。


 先代と現魔王の関係は不明。

 詳しい記録は残されていない……と書かれているが。

 本当の所はどうなんだろうか?


 現魔王は各地から集めた有能な人材に政治を任せ、自身は現場に赴いて民衆の声を聴いて回った。

 そんな彼の姿を見た民衆は次第に心をゆるしていく。


 さて……肝心の現魔王の出生であるが……。

 結局のところ、先代が何も明かさなかったので不明なまま。

 しかしこれはあくまで表向きの話。

 本当は……。


「あの……これ、肝心なことが書いてないんですけど……」

「でしょうね。

 魔王様の秘密は禁則事項となっていますので、

 誰にも明かされないことになっているんです」

「じゃぁ……なんで!」

「もう必要な情報は揃っているはずですよ。

 あとはご自分でお考え下さい」


 司書は切り捨てるように言う。


「ううん……」


 ルークは今までのことを思い出す。


 必要な情報は揃っている?

 いったい何をどう解釈しろと?


 現魔王が史上に姿を現したのは60年前。

 当時は勇者と魔王が戦う戦争の真っただ中。

 あいつはどこから連れてこられて……。



 ……あっ。



「どうやら、お分かりになったようですね」

「いや……でも……」

「そう言えば、先代は勇者と出会ったときに、

 こうおっしゃったそうですよ。

 『極めて良い』……と」

「…………」


 全てを理解した……気になっているが。

 まだ情報が足りない。


「ありがとう、とても役に立ちました」


 ルークはそう言って資料室を後にする。

 彼の所へ行って真相を明らかにせねばならぬ。






「……おい」


 ルークが声をかけると、彼は面倒くさそうに視線を向ける。


「なんだ……わしに何か用か?」

「あんたに聞きたいことがある。

 隠し立てしないで全て話してくれ」

「何を話せと?」

「これについて聞かせろ」


 そう言ってスカートをたくし上げ、へその下の文様を露出するルーク。


「ふむ……思っていたよりも早かったな。

 真相にたどり着いたというわけか」


 ガルスタはそう言ってにやりと笑った。

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