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19 勇者君、コイバナに花を咲かす

 ステファニーと宿直室へ移動するルーク。

 そこには仮眠用のベッドが二つと、丸い大きな机に椅子が数脚置いてあった。


 ステファニーは椅子を必要としないのか、そのまま机の前に移動して頬杖を突く。

 こちらが口火を切るのを期待している様子。


 ルークはやれやれと思いながら椅子に腰かけ、何から話すかと思案する。

 が、これと言った話題が思いつかない……。


 なんと話を切り出すか迷っていたところ、ステファニーの方から質問を投げかけて来た。


「魔王様とはどこまでいったの?」


 直球すぎる質問である。


「ええっと……キスはしたかな。さっき」

「え? まだキスだけなの?

 それもさっきのが最初?

 嘘でしょ?」


 意外そうにするステファニー。

 もっと深い関係になっていると思っていたらしい。


「いや……嘘じゃないです」

「もう最後までしてると思ったのにー!

 もしかしてプラトニックな関係なのかな?」

「ええっと……プラトニック?」

「エッチとかしない関係ってこと」


 その関係で終わればどんなにいいか……。

 ルークは心底、魔王が彼の身体を求める関係に嫌気がさしている。


 いや……正直言って、嫌なわけではない。

 彼に迫られると胸が高鳴るのも事実だ。

 だけど……最後の一線は越えられそうにない。

 あそこにあれをぶち込まれるなんて、考えただけで寒気がする。


「……うん」

「なぁんだぁ……そうなんだ。もったいないなぁ」

「え? もったいない⁉」

「だってすごく気持ちいいよ、エッチ」

「…………」


 彼女はつまり、そう言う志向の持ち主なのだろう。


 まぁ……別にその価値観を否定するわけじゃない。

 ルークにだって人並みにそう言う欲望はある。


 今まで、何度か恋愛する機会があった。


 一緒に旅をした僧侶の女の子。

 名前をモニカという。


 聖職者である彼女は、男性とのセクシャルな関係を禁じられていた。

 そのため恋愛関係に発展することはなかったのだが……ルークはひそかに恋をしていた。


 彼女のことが好きかと聞かれると、そうだと答えるだろう。

 もちろん、自分を慰めるために脳内で何度かお世話になったこともある。

 彼女のちょっとした仕草や言葉、身体から発せられる匂いに劣情を催したこともある。


 けれども……関係が発展することはなかった。

 ただ目的を同じくする仲間というだけ。


 身体を重ねるどころか、キスすらままならない。

 そんな程度の関係だった。


「もしかして君……童貞?」

「だからなんですか?」


 むっとした表情で質問に答えるルーク。

 そんな彼を見てステファニーはくすくすと笑う。


「あっ、ごめんね。怒った?」

「別に怒ってないです」

「またまたぁ、素直じゃないなぁ」


 そう言ってけらけらと笑うステファニー。

 ちょっと馬鹿にされている気がする。


「せんせぇ、おしっこぉ」


 宿直室へ枕を抱えた女の子が目をこすりながら入って来た。

 黒い髪をした人間の子だ。


「ああ、起きちゃったんだ。

 一緒にトイレ行こうか……」

「……うん」


 ステファニーは人間の女の子を連れてトイレへ。

 残されたルークはぼんやりと魔王のことを考える。


 あいつ……俺のこと、本当はどう思ってるんだろうな?


 なんとなく彼の気持ちを考えていると、胸の奥がむず痒くなる。

 好意を向けられるのは嫌じゃない。

 むしろ、割と嬉しかったりはする。


 あの男はなんだかんだ言ってルークを大切にしているのだ。

 今まで出会ったどんな人よりも……。


 だけど、セクハラされたり、女ものの服を着せられたり、毛を剃れだの、はしたないマネはするなだの、色々と注文を付けるのは勘弁してほしい。

 普通に接してもらえないだろうか、普通に。

 そうすればこちらも相応の態度で接するのだが……。


「戻って来たよー!」

「たよー!」


 二人が戻って来た。


 女の子はすっかりと目が覚めてしまったのか、とても活動的。

 このまま素直にベッドへもぐりこんでくれそうにない。


「……お帰りなさい」

「あのねぇ、マナちゃんがお話ししたいことがあるんだって」

「マナちゃん?」

「この子の名前だよ」


 そう言ってステファニーは黒髪の女の子の頭をなでる。


「ええっと……話って?」

「マナね、魔王様のこと大好きなの。

 だから……痛いことしないであげて欲しいの。

 お兄ちゃん、勇者なんでしょう?」


 マナは不安そうな表情で言う。


「確かに俺は勇者だけど……。

 今はアイツの奴隷だから逆らえないんだ。

 痛いことなんて絶対にできないよ」

「……ほんとぉ?」

「ああ、本当だ」

「よかったぁ!」


 マナは途端に嬉しそうな表情になる。


「よかったねーマナちゃん。

 勇者のお兄ちゃんは魔王様に痛いことしないって!」

「うん!」

「これでぐっすり眠れるかな?」

「お菓子食べたい」

「調子に乗るな、こら!」


 ステファニーがマナの額を指でつつくと、両手で額を押さえて痛がるポーズをするマナ。

 微笑ましい光景だ。


「あの……この子はどうして魔王を?」

「それにはね、色々あるんだよね」

「いろいろー!」


 楽しそうにぴょんぴょん跳ねるマナ。

 よっぽど魔王になついているらしい。


「んじゃ、私はこのこ寝かせてくるから。

 ここで待っててねー!」

「待っててねー!」


 マナを連れて部屋を出て行くステファニー。

 一人残されたルークは身体をのけぞらせて天井を仰ぎ見る。


 あいつ……本当にいい奴なんだな。


 魔王を死なせたくないと強く思った。

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