14 勇者君、会議に同席する
病院の中には大勢の患者がいた。
待合室に並んだベンチ。
腰かけて順番を待つ患者。
受付には何人もの女性がいて、順番に案内をしている。
魔王は患者たちに挨拶をしながら、奥の部屋へ進んでいく。
両開きの大きな扉の前に彼が建つと、護衛の部下二人がさっと前に出て扉を開いた。
中には老齢の魔族の男たちが席についており、魔王が中へ入ると彼らは一斉に立ち上がる。
「「「魔王万歳っ!」」」
年老いた魔族たちはいっせいに叫んで右手の拳を突き上げる。
魔族が忠誠を誓う時にするサインだ。
「お前たち……それはしなくていいと言っているだろう!
余に絶対的な忠誠を誓う時代は終わったのだ!」
魔王はそう言いながら気恥ずかしそうに苦笑いする。
彼らとは古い付き合いのようだ。
「さて……早速報告をしてくれ」
魔王は奥の席に腰かけながら言う。
彼が着席するのをまってから、老人たちは席に着く。
護衛の部下は外で待機。
ルークも一緒に出て行こうとすると……。
「お前は残れ、そこに座っていろ」
そう言って部屋の隅に置いてあったスツールを指さす魔王。
言われたとおり腰かける。
「ではまず……」
魔王が口火を切って、会議が始まった。
何やら難しそうな話をしているが、要は予算と人員の配分の話をしているらしい。
病院を運営するには資金が必要。
税金で賄っているが、税収が思ったより上がっておらず、必要な予算が確保できていない。
このままでは治療に必要な設備の維持が困難になってしまう。
人材の確保も進んでおらず、現場では人手不足が常態化している。
医療技術を学ばせるための機関の設立が急務である。
んなことを老人たちは代わる代わる報告していた。
魔王は渡された書類の束に目を通しながら話を聞いて、メモを取っている。
いつものふざけた顔とは違って実に真剣。
老人たちの報告が終わると、魔王は矢継ぎ早に質問を始めた。
彼らはその一つ、一つに丁寧に答える。
実に円滑なやり取りが行われていた。
「そうか……分かった。
では今まで通り業務に励んでくれ。
人材確保のための教育機関の設立は何とかする。
予算は必ず確保するので安心して欲しい。
では……これにて」
「「「魔王様万歳!」」」
魔王が席を立った途端に、老人たちも一斉に立ち上がって忠誠を示すポーズをする。
そんな彼らの姿を見て苦笑いする魔王。
彼はルークに手招きをしながら部屋の出口へと向かう。
扉の前に立っていた部下二人がさっと入り口を開き、魔王は老人たちに手で挨拶をしてさっさと外へ。
ルークも置いて行かれないよう、慌ててついて行った。
「「「魔王万歳!」」」
改めて挨拶をする老人たち。
彼らの忠誠心はよほど強いらしい。
「なぁ……あいつら、いつもああなのか?」
ルークは廊下を歩きながら魔王に尋ねる。
「うむ、長い付き合いになるのだが……。
昔の癖が抜けておらんのだ」
「昔の癖?」
「余が魔王になってすぐの頃。
彼らは直属の部下だった。
忠誠を誓ってくれたのは良いのだが……。
いまだに盲目的に崇拝するので困るのだ」
「…………」
あの老人たちは、魔王のかつての部下だった者たち。
それが人々の治療を行う病院の運営を担う国の要として働いている。
魔族とは……人を殺すだけが能の存在ではなかったのか?
人間の大人たちは誰もがそんな風に言っていたが……。
「次は市庁舎へ行くぞ」
「……え?」
「予算の調整に行かねばならんのだ。
ついでに作物の取れ高も確認しておきたい。
地方の街や村が正しく治められているか。
国境警備に穴はないか。
他にも確認すべきことが沢山ある」
次々と今後の予定について話す魔王だが、ルークは疑問に思う。
それらすべての事柄を正確に把握できているのだろうか?
「なぁ……誰かサポートとかしなくていいのか?
予定とか全部自分で調整するの大変だろ?」
「なめるな、勇者」
魔王は不敵に笑って言う。
「予定なら、全部ここに入っている」
そう言って自分のこめかみを人差し指と中指でトントンと叩く魔王。
そんな彼の姿を見て何も言えなくなってしまった。




