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10 勇者君、タイムリミットですよ

 ルークは竜族の男に連れられ、研究室のような場所へと連れていかれた。


 たくさんの実験器具と本がぎっしり詰まった棚。

 そして……人が入れるくらいの大きな容器。


 いったいここで何をするつもりなのだろうか?


「……出せ」

「え?」

「出せと言ったんだ!

 文様だよ、文様!」

「あっ……はい」


 言われるがままスカートをたくし上げ、へその下の文様を露にする。


「ふむ……もう十分か。

 契りはまだ交わしていなかったと思うが……」

「ええっと……まだですけど……」

「そうか、まだか……」


 竜族の男は力なくうなだれ、近くにあったスツールの上に腰かける。


「あの……なにか……」

「魔王様はな、もう長くはないのだ。

 早く世継ぎを孕ませないと……もう……」

「……え?」


 色々と混乱するような言葉を吐く男。


 とりあえず情報を整理しよう。


「すみません……魔王が長く持たないって、本当なんですか?」

「こんなことで嘘をついて何になる。

 あの人の身体はもう限界だ。

 もって1年。

 早ければ数か月で……」

「…………」


 ルークの前ではごく普通にふるまっていた魔王だが、まさか寿命が近づいていたとは……。

 このまま時間が経てば、いづれ朽ち果てるだろう。


 しかし、そんなことよりも……


「世継ぎを孕ませるって……俺が?」

「ふふふ、お前は男だからな。

 身体構造上、子を孕むことはできん。

 だが……まぁ……呪いを孕むことはできる」

「……え?」


 どういう意味なのか。

 竜族の男はわけを話してくれた。


 魔王はある呪いにかかっており、その呪いを解かない限り病の進行を止めることはできない。

 呪いを解くには契りを交わすしかない。


 ……とのことだった。


「じゃぁ、俺があいつに抱かれれば……」

「まぁ、魔王は助かるな。魔王は」

「……?」


 彼の物言いに疑問を感じたが、何も聞かないでおくことにした。


「そうか……分かった」

「できれば早いうちに頼む。

 あの方が倒れてしまったら、この国は終わりだ」

「はぁ? なに言ってんだよ。

 魔王の代わりなんていくらでもいるだろ?」


 勇者の代わりがいるように、魔王の代わりだってすぐに見つかる。

 そんな風に思ったのだが……。


「確かに、代々魔王は王位を赤の他人に譲り、

 この国のまつりごとを司ってきた。

 しかし……あの方は特別なのだ。

 あのような有能な魔王はもうは二度と現れないだろう。

 もし、あの方を失ったら……この国は今の形を保てない。

 そうなればまた世界は混沌の時代を迎えるだろう」

「…………」


 あの魔王の代わりはいない。

 なんとなく納得できた。


 混沌の時代とは、ルークが生まれるずっと前の時代。

 人と魔族とが全面的に争い、各地で大きな戦いが繰り広げられていた。


 村が焼かれ、畑が荒らされ、人が死に絶える。


 そんな混沌とした時代が、かつて本当にあったのだ。

 人々は今よりもずっと苦しい生活を強いられていたことだろう。


 その時代を終わらせた政治的手腕は確かなもののはずだ。

 ルークが思っている以上に、あの魔王は有能なのかもしれない。


「なぁ……もしもの話だけど。

 あいつが死んだら……あの子はどうなる?」

「……あの子?」

「さっき、他の子どもたちと一緒に遊んでいた、

 人間の女の子だよ」

「ああ……あの子か。

 間違いなく、死ぬだろうな。

 誰が次の魔王になろうとも、

 人間を生かしておくほどお人よしではあるまい」


 竜族の言葉を聞いて、ルークは決意する。


「……分かった、なんとかするよ」

「ふむ、その言葉が聞けて何よりだ。

 そんなお前を応援するために、ある物をくれてやろう」


 竜族の男はそう言って棚を漁って一つの箱を取り出す。


「なんだよ……それ」

「とりあえず開けてみろ」


 掌に乗るサイズの小さな箱。

 開けてみると中には……。


「……は? なにこれ?」


 ルークはその正体が理解できなかった。

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