龍神教団 2
レノアとフェルのコンビ。
案外良いかも?
帝都の街は、ほぼ石造りの家が多く、木材は窓枠や屋根等の一部で利用している程度だ。
そのおかげか、建物の基本構造は強く、一般的な建物でも3階建て以上が普通に並んでいる。
僕とレノアは、その建物の屋根の上を、飛んだり跳ねたりしながら移動していた。
その動きは戦士かと思う程の身体能力であり、魔導士であるレノアや僕では無理な動きのはずなのだが・・・・
ゴルドの言っていた馬車を追って街中を走り出した僕とレノアだったが、入り組んだ街中と人が行き交う事で、上手く前に進めずにいた。このままでは、どんどん引き離されていってしまう。
「このままでは、引き離されてしまいます。上を行きますので着いて来て下さい」
「え?」
いきなりそう叫んだ、レノアが一瞬魔力を高めたと思ったら、一気に3階の屋根上まで跳躍してしまった。これには、ちょっと驚いた。
だって、支援属性しか持ってないはずのレノアが超人的な動きをしたからだ。
僕もそうだけど、支援属性しかない魔導士が最弱だと言われる所以は、自分を守る術が著しく無いからだ。
支援属性は、他人を支援強化する魔法や魔術は使用出来ても、自分を支援強化する事は出来ない。
自分を守る為には、他の属性魔法を使うか、魔術を使用するか、魔法魔術に頼らない、剣術、体術等の、武芸を身に着ける必要があった。
他属性は元々無い。魔術は使用するのに術式や魔力操作が著しく時間と精度を要求されるので、咄嗟の対応が出来ない。
支援属性しかない魔導士が、いくら剣術などを学んでも、他の戦士みたいに、自己強化属性を持っている者と比べると、比べようもない程差が出る。
だから、最弱と言われているのに、目の前の女の子レノアは、いとも簡単に、身体強化を使って建物を飛び越えて見せたのだ。
「じゃあ、僕も」
意識をほんの少し体内の内面に向け魔力を操作。右手の中指に嵌めていた指輪をイメージし、魔力を流し込む。
すると、一瞬で足元に円形の魔法陣が現れ、体を中心に上へと昇り始める。
魔法陣が通り過ぎた体の表面には、魔法陣で書かれた紋様が光の線となって表れ、そして体に吸い込まれるように消えて行った。
タン!
僕は軽く足で地面を蹴ると、一気に建物の屋根の上へと到達した。
「やはり、フェル殿も使用出来たのですね」
「僕の方はびっくりだよ。まさか魔術操作による身体強化が使えるなんて思ってもみなかった」
「はい、この魔術石の中に、強化用の魔術が組み込まれています。結構レアなアイテムらしくて入手しにくいと聞きますけど、フェル殿も持っておられたのですね?」
う~ん、僕の場合は、入学前に色々と自分で作成したんだよね。魔術石は、僕達魔導士にとって、特に支援属性しか持たない魔導士にとってはとっても必要な物なんだ。
「私の家は、代々受け継いでいて持っておりますが、今では貴重なアーティファクトとして多くは無いはずなのですが」
「ま、まあ、僕も代々ね・・・それより、もう帝都の外苑まで来たよ。そろそろ馬車に追いつくんじゃない?」
「そうですか・・・では、ここからは下へ降りて後を追います」
適当にごまかす。
まさか、アーティファクトになっているとは? レノアの魔術石の指輪もたぶん僕が作ったものだ。あれ以降新しく作られてないのか?
取りあえず魔術石の事は後で考えるとして、今はクルルの救出が先だ。
レノアは話しを中断して地上へと降り、建物の影へと身を潜めた。
僕もそれに倣って、レノアの後を追い、同じ様に建物の影に隠れた。
ゆっくりと建物の角から顔を覗かせ、視線を先に送る。
そこは帝都の街壁西門、魔獣や魔物、他国からの侵攻などの脅威から守る為に作られた、人の高さの10倍くらい高い塀に設けられた西の正門。
この先には西側諸国へと続く街道が無数に広がっている。
「ここから、出るつもりなのか?」
僕達は、建物の影からジッと様子を見ていると、西門を警護している兵士が馬車に近づき、門を出るさいの通行証などの確認を始めた。
御者と何か話し合う兵士。暫く話し合っていると、馬車を、兵士達が休憩や不審者が居た場合の取り調べや一時抑留するための詰め所へと誘導し始めた。
「なんだろう? 不審に思って取り調べを受けるのか? それならクルルも無事保護されるだろうけど?」
「はい、そうであれば一番いいのですが」
僕とレノアは様子を伺うが、馬車は幾つかある建物の影に入り、詳しく状況が確認出来ない。ただ、数人の兵士が荷物を抱えていたり、他にも幾つかある荷馬車の検査でもしているのだろうか? 数人の兵士が動き回っているのが見えるだけで、当の馬車の動きは目立って無かった。
「フェル殿! あの馬車が動き出しました!」
レノアの声で、僕も他の場所の観察を止め、追いかけている馬車の方を注視する。
「あれ? そのまま西門を出てしまうぞ?」
「クルル様はどうされたのでしょう?」
レノアの声に少し焦りが見え始めた。
普通なら、兵士の検査で見つけられると思っていたのに、検査を通ってしまい、その馬車は平然と西門を出ていこうとしている。
「このまま街の外に出た瞬間に馬車を止めよう」
「はい!」
僕とレノアは、詰め所より少し離れた場所で街壁の下までやって来ると、壁の上へと跳躍し、そのまま街の外へと降りる。
すると、前方かなり先ではあるが、先ほどの馬車が街道をさらに西へと向かって走り出しているのが見えた。
「追いつくよ!」
「はい!」
僕たちは、魔力操作を強め、強化術式をさらに強めると、一気に馬車へ向かって飛び出していく。
その差はみるみるうちに縮まるとレノアが腰に帯刀していた小刀の柄に手を掛け、抜刀すると、どう見ても鞘とは明らかに長さの合わない長刀が現れた。
「その鞘、まさか簡易の魔術収納が付与されている?」
「はい、これも我が家に伝わる、アーティファクトです」
「そう・・」
そういえばこういうのも作った事があるな。
でも、こうしてみると、レノアって魔導士より戦士の方がしっくりくるんだよな?
「フェル殿! 急襲します!」
「あ、ああ!」
それより今はクルルの保護が優先!
先ずレノアが馬車と並走するように走り、一気に御者台へと跳躍! それに気付いた白いフードを被った御者が懐から短めのナイフを取り出し、飛び上がっていたレノアに向けて投擲してきた。
しかしそのナイフはレノアに到達する前に空中で弾き返され遥か後方へと飛んで行く。
その光景に驚く御者の隙をつき、レノアがすぐ横へと着地すると、電光石火の早さで、御者に切りつけ馬車から突き落としてしまった。
躊躇のない洗練された動きだった。
レノアはそのまま、馬の手綱を握りしめ、馬の速度を落としていく。
それと同時に、僕は馬車に跳び移ると、素早く馬車の扉を勢い良く開いた。
「フェル殿! クルル様は!?」
「・・・くそ! やられた!」
扉を開いた馬車の中には。2、3人分の白装束の服と、クルルが着ていた学校指定の制服が脱ぎ捨てられているだけで、人の姿は見つけられなかった。
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