騒がしい日常 6
そこは男にとっては魔界だった
串焼きを食べ終わり、クルル達とまた街中を散策していると、女性陣が何かを見つけたのか、目の色を変えて急に走り出した。訳も分からずにクルルに手を引かれ着いていくと、ある建物の前にところで、立ち止まった。
「ここは・・・」
僕は額から冷や汗を流す。
ここは、危険だ。ここに入るのはリスクが高すぎる。
たぶん、高難度の遺跡調査や、亜竜討伐なんかより、ずっと難度の高い依頼だと思う。
「お兄ちゃん、ここに入りたい!」
「え、でもほら、ここ、僕やゴルドが入るにはちょっと問題があるんじゃない?」
「そうですわね、確かにゴルドは難しいでしょうけど、フェル様なら大丈夫では?」
何で僕なら良いの?
「そうですね。フェル殿ならこういったセンスもお持ちのような気がしますので大丈夫な気がします」
レノアまで! 大丈夫じゃないって!
「クルル、お兄ちゃんに可愛い髪飾り選んで欲しいな!」
「選ぶのは良いのですけど、ここに入る勇気はさすがに・・・」
「大丈夫! お兄ちゃん入ろ!」
クルルが僕の腕を完全にホールドして、ぐいぐいと引っ張って行く。
さすがに力ずくで抵抗する訳にもいかず、僕は引っ張られるがままにその危険地帯へと連れ込まれそうになる。
「フェル、おれはこの場所から応援しておいてやるからな! 頑張るんだぞ!」
「なに、一人だけ逃げようとするんだ!」
僕は引きずり込まれながら、ゴルドの襟首の所を鷲掴みにする。
「は、離せ! フェル! 一人で犠牲になってくれ!!」
「そうはいくか! ここまで来たなら一蓮托生だ! ゴルドも来い!」
ゴルドは涙目になりながら、建物の入り口に手を掛け入るのを拒むが、その後ろから同じように建物に入ろうとする、裕福そうな夫妻に睨まれ、スゴスゴと中に入ってしまった。
そこは異世界だった。
そう言えば昔、邪龍神に飲み込まれて一緒に異界にそこへ落ちた時、チラッと向こうの世界を垣間見た気がしたんだよな。
ん~、思い出せない。でもこんな感じだったかも? そんなわけないか。
「お兄ちゃん! ねぇ、ねぇ! この髪飾りどうかな?」
いきなりクルルが、僕の所に来て、自分の青い髪に赤色の宝石をアクセントにした、鮮やかな緑色の魚か何かを模った髪飾りを付けて、見せてくれる。
「う、うん、凄く髪の色に合っているし、デザインもクルルにとても似合っているよ」
「本当!? 嬉しい!! じゃあね、じゃあね!」
ああ、あんなにはしゃいじゃって。よっぽど楽しいんだろうな。
「あ、あのう、フェル様? このブローチに合いますでしょうか?」
今度はファーナが、白いブラウスに会わせた水色の大きな宝石が埋め込まれたブローチを付けて僕に見せてくれた。
それは良いんだけど、胸の少し上辺りにつけるものだから、嫌でも胸に視線が行ってしまって、ちょっと恥ずかしいかも。
「う、うん、とっても形が良いね。僕は好きだな」
「あの~、どこを見て言っていらっしゃるのかしら?」
「え!? え、その、ですね!」
「フフ、冗談ですわ。フェル様ってほんと可愛らしいお方ですわね」
からかわれた? でもファーナ、顔を少し赤らめて嬉しそうな顔をしている。
ま、まあ、冗談だって言っているし、怒っているわけじゃなさそうだから良かったのかな?
「フェ! フェル殿!!」
やたらと緊張した面持ちで、声が裏返っているレノアが、僕の所にやってきた。
「どうしたの?」
「そ! そのですね、こ、こ。こここ。ここ」
「落ち着てね?」
「ひゃい!」
「フー、スー、フー げほげほ!」
深呼吸が逆だよ? それじゃ肺の空気を出し切って辛いよ?
「そ、そのですね、こ、このゆ、ゆ、指輪はどうでしょう!? ハア、ハア、」
白くて綺麗な右手の薬指に嵌めた、細かな銀細工の指輪を僕に見せてくれた。ちょっと手が震えているし、肌がほんのり赤くなってないか?
それにしても、綺麗な指だな。すうっと、細いけど、骨ばってなくてとても柔らかそうな指だ。
その指に嵌められた、指輪は、派手さは無いけど、とてもレノアに合ったデザインだった。
「うん! 凄く似合っている。レノアの綺麗な指に合っていると思うよ」
「き、綺麗! で、ですか?」
「うん?」
僕が返事をすると、レノアが指輪を大事そうにもう片方の手で上からギュっと握りしめ、俯いてしまった。
「きれい、きれい、きれい、きれい・・・・・きゃ」
声が小さく手、よく聞き取れなかったけど、今、きゃ、とか言ってなかった? レノアが?
「やっぱり、フェルって女に苦労するタイプだな」
ゴルド、しみじみと言わないで欲しいんだけど。
まあ、みんなが喜んでいるから良いんじゃないかな?
「さあ! 次、行こう、お兄ちゃん!」
「え? 次?」
「そ! 2階に行くよ!」
僕は、クルルの勢いに乗せられて、お店の2階へと上がっていった。
「い!? こ、ここは?!」
読んでいただきありがとうございました。




