平穏な日 8(サイド・ラリーアとサリダ)
ラリーアさんとサリダさんの秘密の話しです。
コンコン!
「はい、どうぞ」
夜も更け、館に住む人の殆どが寝静まった頃、ある部屋の扉がノックされ、静かに一人の美少女が入って行った。
「なんじゃ、話とは?」
美少女のそれにあった可愛らしい声に、似つかわしくない言葉使いで、部屋の窓際に設けられた、飴色の光沢を放つ小さな丸いテーブル。そこに据えられた椅子に座るラリーアに向けられていた。
「まあ、まずはここに座りなさいな。サリダ」
そう言って、テーブルを挟んで向かいにある椅子に手招きする。
サリダは言われるがままにその椅子へと近づくと、そのテーブルの脇に控えていた紺色のメイド服をきた給仕の女性が、音もなく椅子を引いた。
サリダも特に言葉を交わすでもなく、その椅子に腰かけると、絶妙のタイミングで椅子を押し、サリダがストレスを感じない様に着席を補助していた。
「サリダ、ルイックスのお茶で良い?」
「お! 良いねえ。新茶かい?」
「ええ、一番茶ね。今年は香りが柔らかいくて甘いわよ?」
「私好みだよ」
サリダはお茶の名を聞いた途端、先ほどまでの警戒感のある顔とは真逆な、キラキラと瞳を輝かせた期待に満ちた顔をしていた。
メイドは手慣れた手順で、茶葉を入れたポットに初めは熱めの湯を少し注ぐと、ポットの蓋を閉め手に持つ懐中時計に目をやる。
十数秒程の沈黙のあと、今度は少し冷ましたお湯を丁寧に注ぎ直す。その間に立ち上る甘い香りにサリダの顔がつられるように微笑んでいた。
メイドがポットからそれぞれのカップにお茶を丁寧に注ぎ終えると、静かに頭を下げ、そのまま後ずさるように部屋を出ていった。
「先ずは、嗜むとしようかの」
待ちきれないとばかりに、サリダがカップに指を掛け、口許へと持ってくると、その香りを鼻で楽しんでから一口ゆっくりと飲み込んだ。
「はあ~、良いものじゃのお。今年は例年になく香りが際立っておる! 何か良い事が起こりそうじゃの」
ラリーアも同じくお茶を嗜みながら、親友であるサリダの笑顔が見れた事を喜んでいた。
「で、メイドも外させてまでの話しとはなんじゃ? 今なら大抵の事なら許すし、協力してやろうぞ」
ご満悦のサリダにひと安心するラリーアは、ティーカップをテーブルに戻し今一度サリダの瞳を直視する。
「サリダ、フェル君をどう見ました?」
サリダの眉がピクッと痙攣したように動いたが、それだけで特に変わらず、お茶を楽しんでいた。
「ふう、やはりあの男の子の事か・・・・ラリーアが普人族の子を気にするなど、300年ぶりじゃないかの?」
その言葉に今度はラリーアの眉が小さく動く。
「そうですね・・・・」
暫しの沈黙が流れる。
「まあ良い。率直な感想を言おう。判らん!!」
腕を組み、ふんぞり返りながらきっぱりと答えると、ラリーアはキョトンとするしかなかった。
「わかりませんか?」
「わからん! が、ルールを探知したことといい、5才で小さいながらも防御結界を作り出した事といい、見た目通りの5才児じゃないのは確かじゃな。それにあのルールが取り乱す程の魔力感性は、ここ300年見たことがない」
ラリーアはサリダの言葉を噛み締めるように聞き入る。
「ただ、やっぱり体は5才児ですよ。絶対的な魔力量が少ない。これは魔力魂の形成がまだ不十分だからで、環境も多少影響していると考えても、子供のそれであることには間違いないでしょう」
「死にかけて捨てられていたのを拾って来たんだって?」
「ええ、何故かアルーラが物凄く反応したみたいいで、今ではあの子に夢中になってるくらいだからね」
「うん、ルールの事といい、アルーラにしても、やっぱりあの子は訳有りなのは間違いなかろう」
二人はお互いを見合い考える。その考えをサリダが確認するように問いだす。
「大丈夫なのかの? どこぞの工作員とかじゃなかろうな?」
「その可能性は無いとは言えないけど、たぶん大丈夫だと思う」
「・・・・・・そうか。お主がそう思っておるなら、あたいは、何も言わんよ。だが警戒しておくことは大事じゃぞ?」
「うん、ありがとう」
「なに、あの大戦以来の仲じゃし、今生きて残っておるのは、あたいとラリーアだけじゃからな」
なんとも言えない雰囲気が二人の間を流れていく。
「さて、話しとはそれくらいかの?」
少し冷めたお茶を啜りながら、サリダが訪ねると、ラリーアは首を横に振った。
「いえ、これからが一番大事な話しなの」
サリダは緊張していた。先程までもそれなりに重い話しだったはずなのに、これからの話の方が重要だとラリーアの瞳が訴えていたからだ。
「どうしたというのじゃ? 顔が強ばっておるぞ?」
「うん、そうなの? 強ばっている?」
サリダは頭を何度か縦に頷いた。
それを見てラリーアは一度深呼吸をして緊張を解した。
「フェル君の事なんだけどね」
「なんじゃ、今話したばかりじゃろ? 他にもあるのか?」
小さく頷くラリーア。
「サリダ、今日の訓練前のやり取りで違和感感じなかった?」
「違和感? ・・・・・別にさっき話した以上のことは・・・」
サリダは今朝ほどのやり取りを思い出すが特に変わったことはそれ以上ないと改めて確認する。
「無いのう?」
「そう、じゃあ言うけど、あの子フェル君、勢いであなたの名前を叫んでいたの覚えている?」
「ん? そう言えば、そうじゃの。おお、勢いで呼び捨てておったの! 明日はちょっと礼儀を今一度叩き込んでやった方がいいのかもな。気になるのはそんな事か? 子供はそれくらいが元気があって良かろうに」
少し不思議そうに答えるサリダだったが、ラリーアの真剣な顔のままなのが気になった。
「違うのか?」
「・・・私は、あの子達に今日サリダ達が来ることは一つも話してないわ」
「そうなのか? それは不意をつかれてあの子達もビックリした・・・・・・なんじゃと?」
「そうよ。フェル君は、あなたを見た瞬間、サリダと呼んでいたのよ」
「は、は、たまたま知っておったのでは?」
「言ったでしょ? あの子が5才児なのは間違いないって。そしてあなたは現役の時もさほど公の場に出ることが少なくて、あなたをサリダだと認識できる人なんて数えるくらいしかいないはずなのよ?」
「・・どういう・ことじゃ・・・・・」
二人は見つめ合い、そのまま黙りこんでしまった。
暫くの間沈黙が流れる。
そして、ラリーアが小さく息を吐くと話しだした。
「転生って知ってる?」
「あ? ああ人の魂があの世にいき再び現世に戻ると・・・・・まさか・・なのか?」
サリダの問いにラリーアは何も答えなかった。
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