平穏な日 1
「平穏な日々1」がスタートです。
フェルの第二の人生が進み出すかな?
色とりどりの花が咲き、緑鮮やかな木々が茂る庭園の一角にある白いベンチに僕は座っている。
僕がこの屋敷に来てから一週間が経った。
結局、僕の名前については、特に他意はなかった。単純に普人族の英雄であり大賢者と崇拝されるグルフェルから肖って付けただけらしい。
一瞬焦って損しました。
しかし、300年後に自分が英雄だの大賢者だの言われていると知って、顔から火がでるほど恥ずかしくなったのは仕方ないでしょ?
アルーラなんか、僕が急に顔を赤くしたものだから、病気にでもなったんじゃないかって大慌てになったぐらいだ。
「うん、だいぶん体調良くなったかな?」
始めの頃は衰弱した体に、筋力も衰えていた為、動く事もままならなかったが、昨日あたりから補助があれば歩く事が出来るまで回復していた。
これも、エルフ族に伝わる薬草学や、アルーラの親身になって看病してくれた事が大きいと思う。
「アルーラとラリーア様には感謝しないとな」
柔らかな太陽の光を浴びると体の中の毒素が浄化されていくようで、気持ち良かった。
後で知ったのだけど、この屋敷は、エルフ族が中心に治める国、フィーレフューナスの南方、
吸血鬼族の国、ラグスウィルとの国境近くにある別荘だそうで、聖戦姫を勇退したラリーア様が余生を暮らすための別荘だそうだ。
だから、それほど大きな屋敷ではないが、木とタイルが中心で飾られた、落ち着きのある邸宅だ。その中庭にあるベンチに僕は座っている。この庭は、こじんまりとしているが、変に型に填まる事のない、自然だけども鬱陶しくないよう考えられた、木々の配置が絶妙で、風通しも良く、こうしていると本当に気分が晴れやかになっていくのを実感できる。
カーン! キン! ガ!
そんな穏やかな場所に似つかわしくない、けたたましい音が響いてきた。
僕は、その音のする方を眺めている。
この庭園の先、一段低くなったところに、赤土を固め均した競技場の様なコートがある。
そのコートを縦横無尽に動き回るアルーラ。手にはエルフ族好んで使う、剣先が緑色の特殊鋼で出来た短剣を片手に、ラリーア様に必死の形相で打ち込んでいた。
「く~! お婆様強過ぎです! まったく歯が立たないよ!」
「弱音なんて、まだ早いわよ?」
相変わらず、ラリーア様はスパルタだな。僕も前世で始めて会った後、僕の支援魔法との教導訓練の時にさんざん詰られて蹴飛ばされた記憶があるよ。
そう思ったら、今は昔より丸くなったのかな?
でも、今の動きを見る限り、寿命が近いなんて思えない。もしかしたらエルフの平均寿命を物指しにしているから、僕ら普人族からすれば、まだ十数年は大丈夫なのかもしれない。
「駄目! そんなに力んでは支援強化してもらっても長続きしないし、最大限に使いこなせないわよ!」
そうか、アルーラの支援魔法との連携強化の訓練か。
僕がこうして見てるかぎり、アルーラは才能があると思う。もしかするとラリーアと同等かそれ以上かも。でもまだ粗削りなんだよな。ラリーアが言ってる通りで、無駄が多い。
「ま、まいりました!!」
お、ラリーアの圧勝というより、まだ遊ばれてる感じがするほど、差はあるな。さすがは始聖戦姫のラリーア様。でもアルーラも凄かった。
「ふー! まだまだだよ~!」
足をふらつかせながら僕の方に歩いてくるアルーラ。
負けて悔しそうだけど、清々しい笑顔をしてる。よっぽど訓練が楽しいんだな。案外、Mっ気なのか?
「なあに、ニヤニヤして?」
僕がアルーラを見て、にやけているのを不思議がる。
「え? うん、アルーラって本当に体、動かすのが好きなんだなって思ってね」
「そ、そう? まあ、本を読むよりは合ってると思うわ」
「何を言ってるんですか、勉強もちゃんとしないと、いい戦士にはなれませんよ」
アルーラに続いて、ラリーア様も体を休めに僕のいるベンチに来られた。
「アルーラ、ラリーア様、タオルをどうぞ」
僕は、おぼつかない体だけど、何か手伝いたくて横にあったタオルを二人に手渡した。
「無理はしなくてもいいのよ?」
「大丈夫です。体をならすにも少しずつ動かさないといけませんから」
心配してくれるラリーア様に笑顔で応える。
「う~ん! フェル君の臭いがする!」
僕から受け取ったタオルを思いっきり顔を埋めて、スーハー深呼吸してる。
さっき手で触った程度で臭いが移るか!
僕が、どうしたら良いのか分からず、ラリーア様を視線を投げ掛けるけど、そのラリーア様が微笑ましく笑っているのでこのまま放置することにした。
「ねえ、ねえ、フェル君! どうだった? 私の華麗な戦いは?」
「え? う~ん、その凄く綺麗でした。楽しそうで、躍動感があって、エルフ族特有の身の軽さと相まって風の様でした」
ボッ!
え? 今、音がした? いや、アルーラの顔が一瞬で真っ赤になったので音がした様に思えたんだ。
で、でもどうしたんだ?! 身体中赤くないか? 訓練用の体にフィットした薄手のスーツで、お腹とか手足の殆どが見えるから身体中が真っ赤になっているのが嫌でも目立つ。
「アルーラ! どうしたの? 熱でもあるの!?」
あれ? 余計に赤くなったぞ!?
「フェル、その辺で止めてあげてね? 失神しそうなほど恥ずかしがってるから」
恥ずかしがってる? そう言えば、タオルを顔に当てて僕に見せないようにしてるけど?
「でも、ありがとうフェル。君の素直な意見はアルーラにとって、とってもプラスになりそうだわ」
そう言ってラリーア様が僕の頭を撫でてくれる。
よく分からないけど、アルーラにとって良いことならまあ、何も聞かないでおこう。
そんな日々が続き、もうすぐ一月が経とうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。




