《閑話》聖者サイド3:〝拳〟と〝斧〟
「あらあら、うふふ」
暗黒の空間に響くのは、〝盾〟の聖女――シヴァの笑い声だった。
「だから言ったじゃない。〝甘く見すぎない方がいい〟って」
急な呼び出しに何かと思えば、〝へスペリオスが討たれた〟と告げられ、自分の予想通りだったと笑いが堪えられなかったのである。
「……いい加減そのやかましい口を閉じろ。八つ裂きにされてえのか?」
最中、円卓の一角から鋭い視線が飛んでくる。
気性の荒そうな面構えをした三白眼の男性だ。
実力ではエリュシオンに次ぐと言われている〝拳〟の聖者――シャンガルラである。
月光下ならば無敵の強さを誇るという〝人狼種〟の亜人だ。
「あら、ごめんなさい。お気に障ったかしら?」
「俺は〝口を閉じろ〟と言ったはずだぞ、女」
「……」
ぎろりっ、と本気の殺意を向けてくるシャンガルラに、さすがのシヴァも戯けてはいられなかったようで、言われたとおり口を噤む。
すると、聖者たちのリーダー格であるエリュシオンが「そこまでにしておけ」と仲裁に入ってきた。
「……けっ」
それで気が削がれたと思われ、シャンガルラが視線を外す。
シヴァも肩を竦め、やれやれという顔をしていた。
「へスペリオスに関しては確かに我々の予想を大きく裏切る結果となったが、まあ大した問題でもあるまい。それだけやつらが成長していたということだ」
「あら、随分楽観的なのね。でもいいの? 神器は奪われたままなのよ?」
「それも問題はない。――〝いずれ戻ってくる〟からな」
「そう。ならいいのだけれど」
淡々と断言するエリュシオンに、シヴァもそれ以上のことは言えなかった。
「それでドワーフどもの件だが、やつらに関しては全てが終わったあとに片づけることにする。また邪魔をされても面倒だからな」
「はっ、天下のエリュシオンさまもとうとう焼きが回ったのか? そんなんだから聖女どもに舐められるんだよ」
と。
「――口を慎め、シャンガルラ。エリュシオン殿にもお考えがあってのことだ」
「……あっ?」
この円卓でもっとも巨躯の聖者がそうシャンガルラを窘める。
ミノタウロス種の亜人であり、根っからの武人でもある〝斧〟の聖者――ボレイオスだ。
が、当然シャンガルラが素直に言うことを聞くはずもなく、ボレイオスに対して牙を剥き出しにする。
「てめえも腰抜けの仲間ってわけか? ええ? デカブツ」
「そういう貴様はもう少し冷静に物事を見通すべきだ。へスペリオスの二の舞になりたくはあるまい?」
「はっ、この俺がたかが人間如きに負けるわけねえだろ」
「その驕りゆえへスペリオスは敗れた。たかが女と甘く見た結果だ」
「……ちっ」
苛立たしそうに舌打ちしながら、シャンガルラが円卓に頬杖を突く。
どうやら舌戦ではボレイオスの方が一枚上手だったらしい。
話が一段落したことを確認したエリュシオンは、やはり淡々と言った。
「とにかく計画は次の段階に入った。お前たちは引き続き己が務めを果たせ。心配せずとも小僧がフルガの力を手に入れたら存分に戦わせてやる。何せ――あれはそのための〝器〟なのだからな」




