71 聖神器の誕生
ずーんっ、と三人揃って膝を抱えているアルカたちに嘆息しつつ、俺たちは火山島――マグリドへと向けて出発した。
幸い、二人であればスザクフォームが使えるので、通常の数倍の速度で空を飛ぶことが出来、空が茜色に染まる前にはマグリドに着くことが出来た。
これならばそこまで時間がかからずに里へと戻ることが出来るだろう。
あんまり待たせると三人とも拗ねてしまいそうだからな。
一応あとでお土産も買っておこうと思う。
ともあれ、俺たちはそのまま神殿の入り口へと降り立つ。
「……イグザさま?」
すると、見覚えのある巫女装束の女性が驚いたようにこちらへと駆けてきた。
――カヤさんだ。
「お久しぶりです、カヤさん」
「お、お久しぶりでございます……。ど、どうしてこちらに……? それにそのお姿は……」
困惑している様子のカヤさんを落ち着かせるべく、俺は笑顔を浮かべて言った。
「あはは、ちょっと色々ありまして。今は聖女である彼女たちとともに旅をしているんです」
「聖女さま方……?」
「ええ。私は〝弓〟の聖女――ザナよ。よろしくね、カヤさん」
「同じく〝拳〟の聖女――ティルナ。よろしく、カヤ」
「は、はい。私はこのマグリドで巫女を務めております、カヤと申します。どうぞよろしくお願いいたします、聖女さま方」
恭しく頭を下げるカヤさんに、俺はさっそくここへ来た目的を告げる。
「それで俺たちがここに来た理由なんですけど、今一度ヒノカミさまにお会い出来たらと思いまして」
「そうでしたか。今はここもヒノカミさまをお祀りするための神殿となっておりますので、とくに町長の許可を必要とはしておりません。なのでどうぞ私についてきてくださいませ」
「はい、ありがとうございます!」
そう微笑むカヤさんに、俺たちは揃って頭を下げたのだった。
◇
一方その頃。
ドワーフの里――ナザリィの工房では、へスペリオスの残した〝神器〟についての検証が行われていた。
「ふーむ……」
机の上に安置された杖型神器を、ナザリィをはじめとした聖女一同がじっと見据えている。
「確か〝亜人種のために与えられた聖具に勝る武器〟だと言っていたな。ならば作ったのは亜人種か?」
「分からぬ。じゃがこのような武器を作った記憶など我らドワーフにはありゃせん。そしてたとえドワーフであろうとも、これほどのものを作ることは不可能じゃ」
「それは〝稀代の天才〟と呼ばれるあなたでもですか?」
「まあ無理じゃな。こんなものを作れるとすれば、それはもうこいつの名のとおり〝神〟くらいしかおらんじゃろうて」
お手上げとばかりにナザリィが肩を竦めていると、オフィールが物珍しげに神器を見やって言った。
「へえ、じゃあ神さまが作ったってことじゃねえのか?」
「そんな単純な……」
胡乱な瞳を向けるマグメルに、アルカディアが「いや」と神妙な顔で首を横に振る。
「まんざらそうとも言い切れんぞ。現に我らは創まりの女神を含めた六大神のうち、すでに四柱……いや、厳密には三柱と会っているのだ。彼女らが実在する以上、その力を受けた武具類が存在していたとしてもなんらおかしくはないだろうさ」
「確かにそうですけど……。ですがこのように禍々しい代物を、果たしてあの女神さま方がお作りになられるでしょか?」
「どうだかな。けど雷のやつは結構やべえ感じなんだろ? だったらそいつが作ったんじゃねえか?」
「まあ〝破壊〟を司っているのは事実だからな。その可能性も否めんだろう。それでこいつはどうするのだ?」
アルカディアの問いかけに、ナザリィは腕を組んで頭を悩ませる。
「問題はそこじゃ。こんな物騒な代物を里に置いておくわけにもいかんしのう。かと言って、わしにはこいつを破壊する術はない。むしろおぬしは使わんのか? 同じ〝杖〟の聖女じゃろう?」
「あんな下劣な方と一緒にしないでください。それに私にはこの聖杖があるんです。そんな禍々しい感じの武器なんていりません」
そう言って聖杖を神器に突きつけたマグメルだったのだが、
――ぶおんっ。
「「「えっ?」」」
その瞬間、聖杖が淡い輝きに包まれる。
「お、おい、こんなところで術技をぶっ放そうとするんじゃねえよ!?」
「そ、そんなことするはずないでしょう!? こ、これは私の意志とは無関係です!?」
どうやらマグメルが何か魔力を込めている感じではなさそうだった。
では一体何が起こっているのか。
唖然とする一同の前で、聖杖はきらきらと光の粒子になっていく。
「せ、聖杖が……っ!?」
そしてマグメルの手を離れ、粒子は未だ机の上に安置されていた神器のもとへと飛んでいき、そのまま吸い込まれるように消えていった。
すると。
――ぶわあっ!
「「「――なっ!?」」」
突如目映い輝きが神器から放たれ、堪らず一同は目を眇める。
そうして光が収まってきた後、彼女たちが目にしたのは、先ほどとは打って変わって神々しい輝きを放ちながら滞空している一本の杖だった。
「こ、これは……」
「まさか融合したというのか……?」
「いや、むしろ〝元来の姿に戻った〟とでも言うべきか……。聖杖を取り込んだことで禍々しさが完全に浄化されておる……」
「はは、よく分かんねえけど聖杖がパワーアップしたってことだろ? ならラッキーじゃねえか。ほら、受けとってやれよ」
「は、はい……」
オフィールに言われ、マグメルは宙に浮いていた杖を恐る恐る両手で握る。
「――っ!?」
その瞬間、杖から今までにない力の漲りを感じ、マグメルは大きく目を見開いた。
「どうやら本当にパワーアップしたようじゃのう。まあ元々処分に困っていたものゆえ、おぬしが使ってくれるというのであれば万々歳なのじゃが……さすがにこの事態は想定外じゃわい」
「そ、そうですね……。私も驚いています……」
「だがこれで一つはっきりした。神器があれば我らはさらなる力を得られるということだ。もちろんほかの神器があるかどうかは分からぬが、〝杖〟があったくらいだ。恐らくはほかの代物も存在するだろう。もしかしたらそれに連なる聖者どももな」
「はっ、だったら全員まとめてぶちのめしてやるだけのことだぜ!」
そう不敵に笑うオフィールだったが、ふと何かに気づいたらしい。
彼女は「そういえばよ」とマグメルの杖を指差して言った。
「こいつの名前はどうすんだ? 聖杖に浄化された神器だろ? つまり〝聖神器〟ってか」
「いや、それじゃと〝杖〟が抜けておるではないか。まあ総称で言うなればそれで構わんじゃろう。その杖バージョンゆえ――〝聖神杖〟じゃな」
「聖神杖……」
反芻するように呟き、マグメルは新たなる自身の杖――〝聖神杖〟にごくりと固唾を呑み込んでいたのだった。




