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《追章》その27:意外な特技


「ねえ、イグザ」



「うん? どうした?」



 ある日のことだ。


 復興作業を終えて拠点へと戻ってきた俺に、何やらティルナが棒状のものを手に声をかけてきた。



「これ、今日行った村のおじいさんからもらった」



「お、もしかして〝釣り竿〟か?」



「うん。人魚の話を聞かせてほしいっていうから、聞かせあげたらお礼にくれた」



「へえ」



 ティルナから釣り竿を受け取り、まじまじと見やる。


 少し短めだが、綺麗な竹製の釣り竿だ。


 きっと小柄な彼女でも扱いやすいよう選んでくれたのだろう。


 ありがたいことである。



「よかったな。せっかくもらったんだし、今度一緒に釣りにでも行くか? まあ俺あんまり上手くないんだけど……」



 釣りとかエルマと旅をしていた時以来だからな。


 それも数えるほどしかやったことないし……。


 と。



「大丈夫。わたしもあんまり上手くない」



 えっへん、とティルナが誇らしげにその慎ましやかな胸を張る。



「そっか」



 そんな彼女の愛らしい姿に思わず笑みがこぼれていた俺だったが、ふと疑問に思ったことがあり、それをティルナに問う。



「そういえばティルナのお父さんは漁師だった気がするんだけど、もしかして釣りとか一緒にできないくらい早い時期に……?」



 もしそうなら無理をしてるんじゃないかと思っての問いだったのだが、



「ううん。お父さんは割と最近までお母さんとイチャイチャしてた。単にわたしが下手なだけ」



「そ、そうか……」



 予想外の回答に思わずずっこけそうになってしまった。


 ま、まあ仲がいいのはいいことなんだけど……。


 と。



「――ふふ、なんだか楽しそうね」



「「!」」



 ふいにシヴァさんがそう笑いながら廊下を歩いてきた。


 どうやら彼女も今日の作業が終わったらしい。



「お疲れさまです」



「お疲れ、シヴァ」



「ええ、お疲れさま。……あら? それは釣り竿かしら?」



「うん。村のおじいさんからお礼にもらった」



「そう。いいわね、釣り。私、こう見えても結構得意なのよ?」



「え、そうなんですか?」



 驚く俺に、シヴァさんは「ええ」と頷いて言った。



「ほら、前に一人でずっと旅をしていたって言ったでしょう? 確かに料理はできないのだけれど、魚なら焼けばまあ食べられるしね。それにいい暇潰しにもなるし」



「なるほど。よかったら今度俺たちに釣りを教えてもらえませんか? どうやら二人揃ってあんまり上手くはないみたいでして……」



 俺がそう苦笑しながらお願いすると、シヴァさんはふふっと嬉しそうに笑って言った。



「わかったわ。じゃあ明日の午後なんてどうかしら? 確か二人とも忙しいのは午前中だけだったはずだし」



「ええ、俺は大丈夫です。ティルナはどうかな?」



「うん、わたしも大丈夫。とても楽しみ」



「ふふ、なら明日の夕食は魚料理に決まりね。頑張って皆の分も調達してきましょう」



「はい」「うん」



      ◇



 というわけで、お手頃な清流へと足を運んだ俺たちは、揃って釣り竿を手にシヴァさんからの指導を受ける。


 もちろんティルナはいただいた釣り竿で、俺とシヴァさんは適当に買った安いやつだ。



「さて、じゃあ始めるけれど、今回はこういう〝疑似餌〟を使った釣りをするわ。これを川の流れに乗せるようにして釣るの。ずっと待ってるのも退屈だしね」



「わかりました。具体的にどうすればいいですかね?」



「とりあえずあそこら辺に投げて、川の流れに乗せながらゆっくりと引き寄せる感じかしら? 根気が大事だから釣れなくても焦らないようにね」



「はい。わたしやってみたい」



「そう。なら早速実践してみましょう」



 好奇心旺盛に手を上げたティルナに一番手を任せ、俺たちは彼女の様子を静かに見守る。



「えい」



 言われたとおり、ひゅっと疑似餌を投げたティルナは、それを川の流れに乗せながらゆっくりと引き寄せる。


 ――ぐいっ!



「「「!」」」



 するといきなりヒットがかかり、ティルナが「おおー」と興奮気味に竿を引く。



「釣れた」



 そうしてぶいっとピースするティルナの手には、手のひらサイズほどの魚が見事に宙づりになっていた。



「おお、やったな!」



「うん。これもシヴァが教えてくれたおかげ。ありがとう」



「ふふ、どういたしまして。というより、元々才能があったんじゃないかしら? さすがは漁師の娘さんと言ったところかしらね。この調子でどんどん釣っていきましょう」



「「はーい」」



 揃って返事をし、俺も教えられたとおりの方法で釣りを始めたのだった。



      ◇



 それから俺たちはいい感じに魚を釣り上げ、空が茜色に染まる頃には十分なくらいの食材を調達することができていたのだが、



「シヴァ、そろそろ帰ろ?」



「も、もう少し待ってもらえるかしら? つ、次こそ来そうな気がするの」



 シヴァさん、まさかの釣果ゼロである。


 ぐぬぬと唇を噛み締めながら竿を引いてはいるが、


 ――ちゃぽんっ。



「「「……」」」



 やはり魚はかからず、なんとも気まずい空気が俺たちを包み込む。


 すると。



「……どうやら私を本気にさせたようね……っ」



「「――っ!?」」



 シヴァさんががばっと目元の布を取り、〝眼〟による水中透視をした後、



「〝盾〟よ!」



 ――ざぱんっ!


 術技で恐らくは魚がいるであろう箇所を囲むと、



「はあっ!」



 そこに疑似餌を投擲し、無理矢理食わせたではないか。


 ――ぴちぴちっ。


 そうしてついに念願の一匹目を釣り上げたシヴァさんは、どや顔でそれを俺たちに見せつけ、こう言ったのだった。



「ふふ、口ほどにもない相手だったわ」



「「……」」



 そ、そうですね……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 口ほどでもないのはどっちだよ~! 盾オババ! あすみません盾はしまってくdふんぎゃ!?!?
[一言] まあ そうなるんじゃないかとw
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