123 竜殺しの神槍
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
――どごうっ!
「――うおっ!? 危ねえだろ!?」
幻想形態となった竜人たちのブレスを躱しつつ、俺たちはどこか一時的に身を隠せる場所を探して岩石地帯を翔る。
彼らを操っているアガルタは最初の場所に留まったままで、「グルゥ……」と喉を鳴らしながら俺たちの様子を見据えていた。
「ふむ、高みの見物とはいいご身分だな」
「というより、隷属させている間はあまり激しく動けないんじゃないかしら? もしかしたら能力が解けてしまうのかもしれないわ」
「なるほど。なら一か八か竜人たちは放置して、アガルタ狙いで突っ込むのもありかもしれませんね」
俺がそう告げると、シヴァさんは「そうね」と頷いて続けた。
「だから私をこのまま下ろしてくれて構わないわ。あとは自分で着地するから」
「えっ!? いや、大丈夫なんですか!?」
〝自分で着地する〟って、そんなことが簡単に出来るような高さじゃないぞ!?
だが俺の心配をよそに、シヴァさんは余裕の笑みを浮かべて言った。
「ええ、もちろん。私の〝盾〟は意外と万能なのよ?」
「でも……」
「まあ本人がそう自信満々に言うのだ。やらせてやればいい。それにこいつは腐っても〝聖女〟だからな。そう簡単にくたばるようなタマでもあるまい」
「ええ、そういうことよ。だから信じてちょうだい。必ず無事に着地してみせるわ」
「……分かりました」
頷き、俺は竜人たちを引き連れたままぎりぎりまで高度を下げる。
せめてこのくらいはさせてもらわないとな。
速度はそれなりにあるが、シヴァさんならきっと無事に着地してくれるはずだ。
「じゃあ行きます!」
「ええ! 後ほど会いましょう!」
そう信じ、俺は彼女の腰に回していた手を離す。
すると、シヴァさんは重力に従って地面へと落ちていったのだが、当然俺たちの背後にいた竜人たちがそれを見逃すはずはない。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「「――っ!?」」
やつらは大顎を開けてシヴァさんに襲いかかる。
が。
「――グランドトライシェル!」
「ガアッ!?」
がきんっ! と直前でシヴァさんの身体を三つの盾が覆い、それに噛みついた竜人が自慢の牙を折られる。
さすがは〝盾〟の聖女――防御面に関しては鉄壁だ。
こっちは大丈夫だと言わんばかりに手を振るシヴァさんに頷きで返しつつ、俺はアルカに向けて言った。
「よし、なら次は俺たちの番だ。大分待たせちまったが、君の力を俺に貸してくれ」
「ああ、もちろんだ。私の心も身体も、全てはお前だけのもの――存分に扱うがいい」
「――っ!?」
頷くアルカにキスされる中、ともに天高く舞い上がった俺たちの身体を、ごごうっと神聖なる炎が包み込む。
そうして混ざり合った炎の中から飛び出したのは、一本の強靱な突撃槍――〝ランス〟だった。
「「聖女武装――スザクフォームスペリオルアームズ!!」
ごうっ! と炎を滾らせながら融合を完了させた俺たちだったが、そこでふと疑問に思っていたことをアルカに問う。
「って、あの、何故キスを……?」
「ふ、それはもちろん愛の力を高めるためだ」
「いや、でもほかの皆とはしなかったんだけど……」
「ほう? では私が〝はじめて〟というわけだな。ふむ、なるほど。そうか、はじめてか」
ふふっとめちゃくちゃ喜んでいる様子のアルカに、まあ喜んでるならいいかと表情を和らげつつ、俺は彼女に問う。
「で、どうだ? なかなか凄いもんだろ?」
「ああ。これが聖女と一体となる最強の戦闘スタイル――《スペリオルアームズ》の力というわけか。うむ、確かに素晴らしい力だ」
だが、とアルカは言う。
「この力にはさらに上がある気がする。感覚的な話だが、恐らくは融合出来る聖女の数や組み合わせといった感じだろう。まあベースとなるのが無限の成長を誇る我らが夫なわけだし、それも頷ける話ではあるのだがな」
嬉しそうな口調でそう話すアルカに、俺も「おう」と力強く頷いて言ったのだった。
「俺たちはまだまだ強くなれる。だから最後の瞬間まで俺についてきてくれ!」
「ああ! たとえ死んでも絶対に離さんから覚悟しておけ!」
ごごうっ! と炎を滾らせながら、俺たちは一直線にアガルタへと向けて空を裂いたのだった。




