121 竜人の里
まあポルコさんの好み諸々に関してはさておき。
俺たちは黒人形化された〝槍〟の聖者――アガルタを追い、竜人の里を目指して高速で空を飛び続けていた。
シヴァさんの話だと、すでにアガルタは里に到着しているようで、同胞の竜人たちと激しい戦闘を繰り広げているという。
それを聞き、もう少し早く出発していたらと唇を噛み締める俺だったが、しかしシヴァさんの表情はまったく深刻そうではなかった。
というのも、
「あら、さすがは竜人と言ったところかしら。意外と善戦……いえ、むしろ彼らの方が押しているくらいよ」
どうやら思った以上に竜人たちが強かったらしく、アガルタの方が分が悪いようである。
どれだけの人数差があるかは分からないが、黒人形化された神器持ちの聖者と互角以上に渡り合うくらいだ。
相当高い戦闘力を持つ者たちが揃っているのだろう。
「ふむ。そういえば、一部の亜人たちはフィーニスさまが魔物を作ったあとに、それを参考にして作られたそうだな」
「ええ、そうよ。竜人はその最たるものね。竜種と人の特性を合わせて作られた者たち。そして幻想形態への進化率がもっとも高く、しかも魔物たちと意思の疎通まで出来るそうよ。まさに人の上位種のような存在ね」
「なるほど。ならアガルタを抑え込めるのも納得だな。まあ問題は、アガルタ自身もその幻想形態に進化出来る可能性があるってことなんだけど」
「そうだな。シャンガルラに続いてカナンまでもが幻想形態に進化したのだ。恐らくはアガルタも使ってくるとみて間違いないだろう。もっとも、たとえ何が来ようと私の《スペリオルアームズ》の前では全てが無意味だがな」
ふっと自信満々に笑みを浮かべるアルカに、シヴァさんが問う。
「あら、随分と自信があるのね?」
「当然だ。今までの《スペリオルアームズ》とは違い、私のは真に強い絆で結ばれた〝究極形〟と言っても過言ではないのだからな。あまり正妻を舐めるな」
「あらあら、それはそれは。でもその割には随分と出番が遅かったようだけれど?」
「ぐっ、相変わらず一言多いやつだ……っ」
ぐぬぬ、と悔しそうな顔をするアルカに口元を緩めつつも、俺は力強い口調で言った。
「でも相手が竜人の――しかも幻想形態である以上、今までよりも強い力が必要なのは確かだ。恐らくは竜種の中でも最強クラスのやつを相手にしなくちゃいけないわけだからな。というわけで、俺たちの絆をがっつりと見せつけてやろうぜ」
「ああ、もちろんだ。やつの鱗を祝言用のドレスにでもしてやるさ」
にやり、と不敵な笑みを浮かべるアルカだったのだが、
「え、えっと、出来ればドレスは普通のにしようか……?」
「ふむ?」
個人的にそれはやめていただきたい俺なのであった。
◇
そうして俺たちが辿り着いたのは、まさに岩石地帯とも言うべき場所だった。
草木がまったく生えておらず、乾いた地面とごつごつの岩に囲まれた山脈地帯である。
トゥルボーさまの住まう砂漠地帯の方がまだ緑があった気がする。
こんなところで本当に生活を営んでいけるのだろうかという感じだが、こういう厳しい環境の中で育ったからこそ、竜人たちは皆強靱な力を備えているのかもしれないな。
と。
「――ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ずがんっ! と激しい衝撃音が辺りに響き渡る。
見れば、アガルタと思しき黒い人影が、白銀の飛竜によって岩壁に叩きつけられていた。
飛竜の周囲にはほかの竜人たちの姿もあり、皆一様に武器を握りながらアガルタを睨みつけていた。
「あら、もしかして私たちの出番はないんじゃないかしら?」
ちらり、とシヴァさんがアルカを見やりながら言う。
すると、アルカは少々焦った様子で言った。
「い、いや、そんなことはないはずだ。仮にも終焉の女神の力を授かりし者なわけだし、この程度で終わることなど断じてあろうはずがない。というか、もうちょっと気合いを入れろ、〝槍〟の聖者! お前の力はそんなものじゃないだろう!?」
「いや、君どっちの味方なの……」
無意識にアガルタの方を応援し始めているアルカに、俺はがっくりと肩を落としていたのだった。




