115　〝弓〟の決着

「「はあああああああああああああああああああっ！」」

　――どひゅうううううううううううううううううううっ！

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！」

　――どぱんっ！

　空を縦横無尽に翔ながら、俺たちは戦闘を続けていた。

　エルフの里からはもうかなり離れているので、恐らく流れ弾が当たることはないと思うが、なるべくやつの攻撃が地表に届かないよう細心の注意を払って攻撃を誘導する。

「グギ……ガ……ッ」

　放った攻撃がことごとく相殺または躱され続け、さすがのカナンもイラついているようだった。

　――だがそれでいい。

　やつの注意が俺たちに釘付けになっていてくれれば、それだけこちらも〝準備〟がしやすくなるからだ。

「あと二ヵ所か？」

「ええ、そうよ。それで〝仕掛け〟は終わるわ」

「よし」

　頷き、俺はカナンに向けて弓を構える。

「「グランドテンペストアロー！」」

　――どばあああああああああああああああああああんっ！

　光の矢が高速で螺旋を描きながらカナンへと迫る。

「グガウッ！」

　だがダークハイエルフと化したカナンの速度はかなり向上しており、直前で躱されてしまった。

　――ずがんっ！

　おかげで俺たちの攻撃はそのまま木々を薙ぎ倒し、地表を大きく削る。

　あまり自然を壊したくはないのだが、今は仕方あるまい。

「ウグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！」

　――ずびゅうううううううううううううううううううっ！

　カナンの追尾攻撃を躱しながら、俺たちは最後のポイントとカナンが重なるように弓を構える。

「「グランドエクレールシュート！」」

　――どひゅうううううううううううううううううううっ！

「ギッ!?」

　さすがは雷属性の最上位最速武技だけあって、カナンも避けきれなかったらしい。

「グ、ガ……ギ……ッ」

　これで行動不能になってくれれば楽なのだが、カナンは左半身を吹き飛ばされてもなお憎悪の視線を俺たちに向けていた。

　それどころか、

「グギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

　雄叫びとともにずりゅりと失った半身を再生させていた。

　よほど取り込んだ生命力に余裕があるらしい。

「でも妙よね。戦い始めてから何度か私たちの攻撃が当たってはいるけれど、彼はそれを取り込めている時といない時があるみたいだし」

「ああ。恐らくはさっきザナが言ったように、取り込める量に限度があるんだと思う。俺たちの攻撃は基本的にどれも高威力だからな。よほど力を使った時じゃないと溢れちまうんだろうさ」

「みたいね。まあだからこそ念には念を入れて、これだけ大がかりな仕掛けを施したのだけれど」

「そうだな。あとはやつを所定の位置まで誘き出すだけなんだが……」

　俺たちに攻撃を無効化されて苛立っていたくらいだし、もしかしたら挑発が効くのではなかろうか。

　そう考えた俺は、少々苦手ではあるものの、不遜な口調でカナンに語りかける。

「どうした？　お前の力はそんなものか？」

「グルゥ……ッ」

　……おっ？

「正直、がっかりしたよ。皆から強制的に力を奪っておいてこの程度とはな。〝弓〟の聖者が聞いて呆れる」

「グギギギギ……ッ！」

　どうやらこちらの言葉はカナンに届いているらしい。

　それがカナン自身の意識なのかは分からないが、とにかく挑発は有効のようだ。

　なら、と俺はさらにやつが反応しそうな言葉をかけ続ける。

「お前、本当は単にエルフたちを見返したかっただけなんじゃないのか？　だから手柄を立てたくてエリュシオンの仲間になったんだろ？」

「――ッ!?」

「そりゃ〝異端種〟だの〝忌み子〟だの言われ続けてりゃ当然だよな。あの女の人を真っ先に狙ったのも頷けるよ。けどな、それで本当にお前はいいのか？　フィー二スさまの操り人形になったまま、誰も見返すことが出来ずに俺たちに倒されるんだぞ？」

　と。

「……僕、ハ……負ケ、ナイ……ッ」

「「！」」

　黒人形化したカナンが明確に言葉を発し、俺たちはまだ彼の意識が残っていることを知る。

　もしかしたらこれなら……。

「「……」」

　俺たちは無言で頷き合い、そしてカナンに対して声を張り上げた。

「ならかかってこい！　お前の力を俺たちに見せてみろ！」

「ウ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

　カナンがなりふり構わず特攻を仕掛けてくる。

　その瞬間、俺たちは一瞬にして上空へと舞い上がり、仕掛けていた五属性同時攻撃の武技を発動させた。

「「――グランドフルエレメンタルディセント!!」」

「――ガッ!?」

　あらかじめ打ち込んでおいた五つの地点から、それぞれの属性攻撃が飛び、天空に超巨大な弓と矢を顕現させる。

　それとは別に五つの点がそれぞれを結んで結界となし、カナンの逃げ場を完全に失わせた。

　そして。

「「いっけえええええええええええええええええええええええええええっっ!!」」

　――どばああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!

「――ッ!?」

　カナンの頭上に五色渦巻く光の矢が降り注いだのだった。