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105 〝拳〟の決着


「「グランドトールハンマーッ!!」」



 ――ずがあああああああああああああああああああんっ!



「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」



 肥大化させた雷の両拳で巨狼の脳天を叩き割る。


 堪らず後退った巨狼の顔面に、俺たちはすかさず追撃の右拳をお見舞いした。



「「グランドプロミネンスブローッ!!」」



 ――どがんっ!



「ゲ、ガァ……ッ!?」



 ずずんっ! とその巨体を横たえる巨狼を前に、俺たちはほうっと一息吐く。


 すると、ティルナがテンション高めに話しかけてきた。



「凄いよ、イグザ! わたしたち、一つになってる!」



「ああ、そうだな。これが俺たちの本当の力だったんだ」



「うん! わたし、イグザ大好き!」



「お、おう。俺もティルナが大好きだよ」



 よほど嬉しかったのか、そう言ってくれるティルナに俺も恥じらいつつ顔を綻ばせる。



 聖女と一体化することにより、その真価を発揮する究極の戦闘スタイル――《スペリオルアームズ》。



 まさかこんな力の可能性があるとは思わなかったが、これならば神器と完全融合した聖者たちとも互角以上に戦えるだろう。


 と。



「グルゥ……ッ」



 巨狼が憤りに満ちた顔でこちらを睨みつけてくる。


 かなりのダメージを与えたはずなのだが、やつの再生力を鑑みれば、この程度で終わりはしないだろう。


 事実、やつはすでに身体を起こそうとしており、一瞬でも隙を見せたら即座に襲いかかってくるに違いない。


 ゆえに俺たちは構えを崩さずやつを見据え、そしてごごうっと右腕に浄化の炎を纏わせた。



「これで最後だ、シャンガルラ。だからあんたも――全力でかかってこいッ!」



 ――どぱんっ!



「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



 俺の言葉に呼応するかのように、巨狼……いや、シャンガルラが大地にクレーターを穿つ。


 そして〝拳〟の聖者らしく、その強靱な右腕を大きく振り被って襲いかかってきた。



「ティルナ!」



「うん!」



 だから俺たちも全霊の一撃を以て応える。



「「はああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」」



 右腕の炎をさらに集束させ、究極にまで凝縮させた浄化の力を――俺たちは一気に解き放った。



「「――グランドプロメテウスフルバーストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」



 ――どばあああああああああああああああああああああああああああああんっ!



「ギ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――…………」



 俺たちの炎は瞬く間にシャンガルラを呑み込み、その身体を光の粒子へと変えていったのだった。



      ◇



 ――しゅうんっ!



「これが聖神器……」



「大丈夫か? 何か異常があったらすぐに言うんだぞ?」



「うん、大丈夫。ありがとう、イグザ」



 こくり、と頷くティルナの手に握られていたのは、神々しい輝きを放つ籠手と脛当だった。


 マグメルの杖と同じ聖神器だ。


 今はこんなにも清浄な雰囲気に満ちてはいるが、半分はフィー二スさまの力である。


 いつ何が起こるか分からない以上、使用には十分注意を払わなければならないだろう。



「お疲れさま。どうやら神器を無事浄化出来たみたいね」



「ええ。シヴァさんも里の人たちを守ってくれてありがとうございました」



「いえ、気にしないでちょうだい。それが〝盾〟の聖女たる私の役目なのだから」



 ふふっと艶やかに笑うシヴァさんに、俺も表情を和らげつつ、里の人たちの範囲治癒を行う。


 さすがは身体能力の高い人狼と言ったところか、これだけの被害に見舞われても死者は一人もいなかった。


 男女ともに負傷者がやけに多かったのは、恐らくその気性の荒さから皆シャンガルラに戦いを挑んだ結果だろう。


 なんというか、実に勇敢な種族である。



「――おい」



「「「?」」」



 最中、気の強そうな女性の人狼が俺たちに声をかけてくる。


 確か一番重傷だった人だ。



「私の名はシャンバラ。ここの長をやってるもんだ。まず里の者たちを助けてくれたことに礼を言いたい。頭はお前か?」



「え、ええ、まあ。俺の名はイグザ。彼女がティルナで、彼女はシヴァ。ともに〝拳〟と〝盾〟の聖女です」



「なるほど。それは世話になったな。傷の手当ても感謝する」



 そう頭を下げた後、シャンバラさんはこう続けた。



「で、本題はここからなんだが、あの黒い人狼……いや、あれは〝シャンガルラ〟だな?」



「「「……」」」



 三人で顔を見合わせた後、俺は「ええ、そうです」と頷く。


 なんとなくだが、彼女に対しては隠さない方がいい気がしたのだ。


 すると、シャンバラさんは小さく嘆息した後、がしがしと頭を掻いて言った。



「そうか。それは面倒をかけたな。お前らみたいに強いやつと戦って死ねたのなら、あの馬鹿も本望だっただろうよ」



「あの、もしかしてお知り合いで……?」



 俺の問いに、シャンバラさんは当然だとばかりに頷いて言ったのだった。



「ああ。あいつは私の――〝弟〟だ」


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