100 妖艶なお姉さんと雌のグレートオーガ
なんでもフェニックスシールで俺のものだと認識されれば、フィー二スさまの抹殺対象から外れるのではないか――というのが、シヴァ……いや、シヴァさんの考えらしい。
確かにフィー二スさまは俺のもの(と言うと少々語弊があるのだが)である聖女たちはいずれ自分の子になる存在だから見逃す的なことを言っていた。
ならばシヴァさんの予想もあながち間違ってはいないのかもしれない。
それ以外にも身体の外側からではなく内側から俺の力を循環させることで、呪いを浄化させられる可能性があると言っていた。
――ゆえに〝抱け〟と。
まあほら、ものは試しですしね?
命が懸かっている以上、そういうことならばと俺も力強く頷いたわけだ。
何故か女子たちから胡乱な瞳を向けられ続けていたのはさておき……。
結果として――シヴァさんは全快した。
どちらの効果があったのかは分からないが、彼女の身体からは綺麗さっぱり痣が消え去り、ほかの女子たち同様、今まで得た力も全て注ぎ込まれたことになるので、以前よりも格段に身体が軽くなったと彼女は言った。
つまり浄化とともにパワーアップも完了したのである。
これで頼りになる戦力も増えてくれたことだし、万事めでたしと言えよう。
うんうん、とそう頷いていた俺だったのだが、
「――おい」
「……はい」
なんとも怖い顔のアルカに呼ばれ、俺は低姿勢で返事をする。
しかも俺は横になったままである。
別段未だにシヴァさんとベッドの中にいるとかそういうわけではなく……。
「ふふ♪」
――なでなで。
「……」
何故か膝枕されてるんですよね……。
なんかよく分かんないんだけど、全快したシヴァさんが妙に優しいというかなんというか……。
凄く可愛らしく「あ、そうだ。膝枕してあげましょうか?」と微笑んできたものだから、断れるはずもなく……。
「「「「「……」」」」」
――じとー。
「……」
その結果がこれである。
この状況で当のシヴァさんはまったく気にする素振りを見せないのだが、これが大人の余裕というやつなのだろうか。
年上のお姉さんってすげえなぁ……。
「で、いつまでお前はそいつを甘やかしている気だ?」
「あら、いいじゃない。たまには愛しのダーリンを労ってあげるのも妻の役目でしょう?」
「ふふ、面白いことを仰るのですね。いつからあなたがイグザさまの妻になったと?」
ぴくぴくと目の笑っていない笑顔で追及するマグメルに、シヴァさんは余裕の笑みを浮かべて言った。
「もちろんついさっきよ。まさかあんなにも愛してくれるなんて思わなかったもの。おかげでお姉さん、すっかり坊やの虜になっちゃったわ」
「へえ、そいつは何よりだぜ。つーか、〝おばさん〟の間違いだろ?」
不敵なオフィールの物言いにも、まったく怯んでいない様子だ。
「ふふ、若いだけで色気の欠片もない小娘がどの口で言ってるのかしら? 私にはあなたが雌のグレートオーガにしか見えないのだけれど?」
「誰が雌のグレートオーガだ!? てか、なんでどいつもこいつもあたしをグレートオーガ呼ばわりするんだよ!? 全然似てねえだろ!?」
そう抗議の声を上げるオフィールだったが、
「いや、割と似てるぞ」
「ええ、似てると思います」
「そうね。似てるわ」
「うん、似てる」
「おいーっ!?」
まさかの裏切りである。
ずーんっ、と一人落ち込んだ様子で両足を抱えているグレートオー……ではなくオフィールに俺が哀れみの視線を向けていると、
「とにかく離れろ。不愉快だ」
――ぐきっ。
「おふっ!?」
「あらあら」
アルカが強制的に俺の頭を引っ張り始めた。
てか、持つ場所おかしくない!?
今〝ぐきっ〟て言ったぞ!?
「随分と野暮な子ね。せっかく楽しいひとときを過ごしていたのに」
「野暮で結構だ。とにかくこいつは私がもらっていく。反論は許さん」
――ぐいっ。
「いや、締まってる締まってる!?」
「ちょっと待ってください。イグザさまは私と甘いひとときを過ごすんです」
――ぐいっ。
「残念だけれど、次は私の番よ」
――ぐいっ。
「違う。わたしがすでに予約済み」
――ぐいっ。
「あらあら、なら私ももう少し坊やを独占しちゃおうかしら」
――ぐいっ。
え、おかしくない!?
なんで全員で首、右腕、左腕、右足、左足とバラバラに持っちゃうの!?
俺宙に浮いてるんだけど!?
てか、死ぬ死ぬ!?
死なないけど死ぬ!?
「いや、おめえら何やってんだ……」
オフィールのどん引きしたような突っ込みが室内に響く中、俺はもう拷問の如くぎちぎちと引っ張られ続けていたのだった。
つーか、こんなことしてる場合じゃないんだけど!?




